食品事業

  • 新型コロナウイルスの影響により、今後世界的に消費が弱含んでいく可能性がある中 で、当社のプレミアム化戦略に対するリスクをどのように考えているか。

    基本的にはプレミアム、コモディティという分類で影響が出るとは思っていない。現状、どちらかといえば食品は並べれば売れるという状況になっており、家庭内在庫が増えても一定量消化されている。

    (今はそうかもしれないが、将来的に状況が落ち着きを取り戻したとき、所得の減少や雇用の確保の問題など、消費に対してネガティブなトレンドになってくるという見方ができるだろう。そうなったときに、当社の既存製品はどれだけ競争力があるのか。どのような対応ができるのか。プレミアム製品についても心配であるので、考え方を教えてほしい、との問いに)

    当社の主力製品は食品の中でも必需品に近い部分であるので、景気が多少悪化しても大きな影響を受けずにこれまでやってきた。そのような場面でもプレミアム製品が売れるのかということであるが、お客様とのタッチポイントを増やしながら、きちんと製品の価値を伝え、拡大に努めていくことが必要である。

    (従来のやり方と何が違うのか。メッセージの伝え方が非常に重要だということは理解しているが、当社はその部分があまり得意でなかった印象がある。今後はマーケティング力がどのように強化されて改善されていくのか、具体的に教えていただきたい、との問いに)

    反省しなければいけないことはたくさんあると思っている。具体的な施策としては、「味の素®」の減塩効果訴求については、SNSや店頭での説明など、消費者との直接のタッチポイントの中での取り組みが中心になってくるだろう。そうするとメディアなどにかける費用は減少するので、今度はその部分をプレミアム製品やメニュー用調味料などに集中して投下するという方法が考えられる。今まで万遍なくコミュニケーション費用を使っていたが、その点は大分変えていけるのではないかと考えている。

  • One Floor、One Teamということで、食品とアミノサイエンスの垣根を取り払ってい くという説明だった。取り組みの成果をどのようにモニターしていけばよいか。具体的な 説明をいただきたい。

    食品とアミノサイエンスの連携で一番キーとなるのは、アミノ酸を使って健康訴求をしていくというポイントである。「味の素®」の減塩訴求もそうだが、各製品にアミノ酸の機能や健康訴求効果を付与した製品を展開することにより、競合との差別化が可能になると思っている。

  • タイで減糖のコーヒーを発売したとのことだが、粉末タイプや缶コーヒーを含め、色々な形で大々的に取り組んでいくという予定なのか。また、競合状況はどうなっているか。近年、砂糖税の課税等も含め動きがあったと思うが、当社の狙いについて教えていただきたい。

    発売したタイの減糖の「Birdy®」は、缶コーヒータイプである。タイにおいても健康志向が高まっており、ニーズがあるということが調査で明確に分かったため、「Birdy®」のラインナップの一つとして発売した。当然、今後競合も同じような製品を出してくるとは思うが、むしろ健康志向の高まりにより、タイの缶コーヒーのマーケットが拡大するのではないかと考えている。

    (通常品と減糖品で、価格は同じか、との問いに)

    Yes。

  • 減塩について、どの程度のニーズがそもそもあり、どのレベルの価格が受け入れられていくのかという観点でお伺いしたい。これから風味調味料の新製品を発売したり、「味の素®」の減塩効果を訴求したりしていくとのことだが、先進国に比べてそこまでニーズがあるのかという感じもするがどうか。

    風味調味料の減塩タイプの価格については、日本の例に倣い、通常品と比べ2割程度の単価アップを図っていきたいと考えている。タイについては、健康に対する明らかな意識の高まりをデータでつかんでいる。むしろやらなければならないのは、一般の生活者の栄養に対するリテラシーがまだ十分でないということに対し、きちんと情報も提供しながら単価アップにつなげていくということだと思う。これは東南アジア全体に いえることである。

    「味の素®」については、これを使って減塩が可能になることを伝えていけば、生活者が「味の素®」にバリューを感じてくれるようになると思う。定期的に色々な節目で値上げをする局面があるが、そのようなバリューも織り込みながら単価を上げていくことになると思う。

    (「味の素®」を使用することで、メニュー全体の塩分が下がるという訴求方法かと思うが、それで本当に単価を上げられるのか、との問いに)

    「味の素®」の減塩効果を地上戦で浸透させていく予定であり、それは可能だと思う。問題はどうやってその情報を理解していただくか、という点だろう。

  • 20-25中計におけるチャネル戦略について。主要国におけるTT(Traditional Trade)とMT(Modern Trade)の比率を改めて教えていただきたい。東南アジアではCVSがチャネルとして台頭してきているが、当社はそこにフィットする製品を持っておらず、チャネル対応ができていないのではないかと思われている。チャネル戦略の方向性について説明してほしい。

    国別のTTとMTの比率をおしなべて申し上げると、TTの比率がいまだに8~9割あり、MTが残りである。MTに対する取り組みが甘いのではないかということであるが、MTの取り組みで競合と大きく差をつけるのは非常に難しいと思う。ただ、TTと比べ当社のMTにおけるシェアが低いかというとそうではなく、一定のシェアを確保している。

    (TTの比率が圧倒的とのことだが、プレミアム製品や減塩製品等もTTでの消費者ニーズが高いため、現状のままのチャネル構成比でも十分に売上を獲得できるということなのか。あるいはもっとMTを掘り起こしていかなければならないのか、との問いに)

    トライアルはMTで起きると思う。近年、価格の高いラーメンがアジアで売れたが、最初はMTから始まったものの、今では全体ボリュームでみるとTTの割合が高くなっている。そのような様子を見ると、TTだからプレミアム製品が売れない、ということはないと思っている。

    (では、それほど大きくチャネル戦略が変わるということではないのか。今までの当社の販路を前提として、製品やマーケティングを変えていくということか、との問いに)

    時系列的な変化はあると思う。認知度を上げるために、初めからTTで展開するのではなくMTから入るなど、そのようなことはやっていくだろう。ただ最終的には、TTでも売れないとボリュームは稼げないので、そこでの拡売につなげていく。

  • 国内/海外におけるプレミアム製品の現状の売上高構成比と、今後どの程度まで構成比を高めようとしているのか、教えていただきたい。

    プレミアム製品については、現状では成功例が日本の風味調味料の減塩タイプしかない。日本の風味調味料の中で減塩タイプの売上高構成比は5%程度であるので、まずはそこを狙っていきたいと考えている。

    (現段階ではプレミアム製品の構成比は非常に低いということか、との問いに)

    まだこれからであり、ホワイトスペースがあるということだと思う。

    (東南アジアでは、ほぼプレミアム製品はないという理解でよいか、との問いに)

    調味料の減塩タイプはまだ見たことがない。

  • 調味料の原料調達において、足元、問題が顕在化してきているという話があった。どのようなものに影響が出始めているのか、教えていただきたい。

    原料については、中国産の原料の調達も数カ月先の見通しは分からない。各国とも、国内の在庫で当面は生産できるという状況である。

    (中国産の原料は、数カ月分は在庫あるが、2020年度第1四半期頃から分からなくなる状況だ、という理解でよいか、との問いに)

    そのようにご理解いただきたい。先のことはまだ分からない。

  • 足元、家庭用製品については、冷凍食品を含め作れば作るだけ売れるという話があった。どこまで続くかは分からないが、この足元の状況は当社のアセットライト化の計画に対して、どのようなインパクトを与えるか。相手先に渡しやすい環境になっていると考えるべきなのか。あるいは、そうはいっても相手先が限定的になってしまうなどということがあるのか。

    基本的には、新型コロナウイルスの影響が長期化すれば消費は冷え込むので、大きなリスクと捉えて対応策を継続検討するが、アセットライト化については引き続き予定どおり進めていく。状況が変わっても、効率性を高めていく必要はあるわけで、それは予定どおり進めていく。またその状態を見ながらさらなる将来のアセットライト化に ついても検討していく。

    (相手先のある件に関しては、ある程度見えているところまで既に進んでいるということで、その後は状況を見ながら、さらに踏み込むものを決めるという理解でよいか、との問いに)

    概ねそういうことである。場合によってはスケジュールの変更はあるかもしれないが、既に立てている計画は着実に進めていく。できるだけ迅速に対応したいという思いはあるが、拙速にやった結果将来的にスムーズに事業が進まないような状況は避けたい。その意味でも、新型コロナウイルスの影響を含め、状況を常に確認しながら進めていくつもりである。

  • 会の冒頭に西井社長から、実行力を上げていくことが一番のポイントだという話があった。事業のトップとして何を意識して、どのように組織の考え方を変えていこうとしているのか、実行力を上げるための変化について教えてほしい。

    実行力を上げていく中で一番大切なことは、新しいビジョンに対して一人一人何ができるのかということを強く認識して日々の仕事に取り組むことだと思う。

    今、社長から従業員に、2030年の目指す姿を説明しており、メッセージはかなり浸透している。しかしながら、そのために自分たちがやることは何なのか、例えばROIC経営にどのように貢献するのかという部分はまだ十分に伝わっていない。これをわれわれが従業員にきちんと落とし込むことが一番重要だと考えている。

    (ビジョンを一人一人が落とし込んでいくにあたり、マネジメントとしてそれを評価していく必要があるだろう。従業員の評価体系は適切な形で見直しを行っているのか。フォーマットのような形式、また管理、チェック方法について教えていただきたい、との問いに)

    今後われわれが各職場を回り、組織目標を明確に定義してもらい、個人目標に落とし込むという活動を行う。それに対する個人の評価ももちろん行うが、それとは別に、ASVアワードをかなり進化させ、全体でお互いの成果をたたえ合うような仕組みを用意している状況である。

  • 東南アジアで、減塩や健康訴求により単価向上を図るとのことだが、具体的には誰がメッセージを消費者に伝えていく役割を持つのか。恐らくルートセールスマンも一役を担うのではないかと思うが、当社がルートセールスを持っているという点は本戦略にとって重要なポイントになるのか。

    おっしゃるとおり、アジアにおいてはルートセールスマン一人一人が生活者にどう伝えていくかというのが非常に大きなポイントになると考えている。もちろんソーシャルメディア等でも伝えていくが、われわれが持っている強い武器を使い、減塩の効果をきちんと伝えていきたいと思っている。

    (ということは、ルートセールスの方に一番に減塩の意味合い、重要性を理解してもらわないといけないと思うが、なかなか難しいのではないだろうか。何かやり方やお手本にするものがあるのか。ルートセールスの意識の変化がどこまで進んでいるのかなど、現状を教えてほしい、との問いに)

    まだルートセールスにおける理解は徹底されていない。われわれの現金直売のチームはかなり整然と組織化されており、色々な勉強をする機会が用意されている。そこできちんと減塩の効果に対する理解を促進し、TTや店頭でどう生活者に伝えていくのかという指示は徹底して行う。またそれをサポートする各法人のPR部隊が、生活者に対する勉強会を行うなど、側面支援をしていくことになると思う。

    (私のイメージだと、ルートセールスは適切な現金の回収や、陳列方法を考えることがメインであり、健康訴求などのバリューを伝える活動はやっていなかったように思う。今後の戦略は、今までのやり方と親和性がある話なのか、あるいは新たに一から取り組み直すイメージなのか、との問いに)

    新製品を発売するときに、その製品のUSP(unique selling proposition)をどうやって店頭や生活者の方に伝えるかということは今までも徹底してやっている。これがわれわれの新製品導入における強みである。それを今度は、「味の素®」を新しい製品だという認識を持って、減塩というUSPを伝えていくということが、一つのモデルとして考えていることである。

  • 「味の素®」と風味調味料の販売ボリュームは2016年頃からかなり鈍化し始め、数年間その傾向が続いていると思う。その要因は何か。併せて、なぜ今後ボリュームが少し回復するとみているのか、教えていただきたい。

    確かに2019年度については「味の素®」は横ばいで、風味調味料は微減かもしれないが、そこまでボリュームは落ちていないという認識である。ただ、成長が鈍化したのは事実である。

    (おおよそでかまわないが、過去3年程度の「味の素®」と風味調味料のボリュームの伸びは何%程度だったか。6年ほど前と比べどうだったか、との問いに)

    例えば2017~2019年度のうま味調味料の販売ボリュームは横ばい、売上高CAGRは3%の見込み。風味調味料はボリュームが2%成長、売上高CAGRは4%の見込み。2019年度、ベトナムで苦戦した影響を受けており、これを除くとボリュームでもう少し上にいっているはずである。ただし2014~2016年度と比べてどうかといえば、伸び率

    は半減していると認識している。

    (半減している理由は何か、との問いに)

    一番大きいのはローカルを始めとした競合の価格戦略である。これによりシェアを若干取られているところはあるかもしれない。マーケットそのものの伸びも停滞していると思う。

    (そのような状況下で単価アップを実施すると、ローカルの競合がその下をくぐるリスクが大きいのではないだろうか。減塩といっても競合が追随する可能性もあり、市場が少しスローダウン、あるいはコンペティティブになっている状況で当社だけが値上げをしても、独り相撲になるリスクがあると思うがどうか、との問いに)

    「味の素®」については、健康価値につながるという訴求をしてこなかったため、まだ伸ばせる余地が十分あると考えている。2桁成長というのは無理だと思うが、「味の素®」の根源的な価値をあらためて伝えていくということで生活者に価値を認めてもらえると考えている。また既に競合の価格は当社製品より既に安価で販売されており影響は少ないと思っている。

     問題は風味調味料だと思う。今まで品質を軽視していたわけではないが、競合との有意差がある中で、少し改訂のスピードや質が足りなかったのではないかという反省をしている。これについては、生活者に本当に満足していただける品質を実現することが重要。われわれがNo.1のシェアであるので、品質をさらに上げ、やはりなくてはならないものであるという認識を生活者にもう一度持っていただき、販売ボリュームを増やしていく。

    (向こう3年間の、うま味調味料と風味調味料の販売ボリュームと売上高の成長率イメージがあれば教えていただきたい、との問いに)

    販売ボリュームで、うま味調味料は3%、風味調味料は4%と考えている。

    (過去数年間、国民一人当たりのGDPがかなり上がり多様化が進んできたが、当社はその多様化にこだわり過ぎて、製品ラインナップ拡大のスピード感が足りなかったというのが敗因の一つだと思う。もう一つは、イノベーションという観点で、なかなか刺さる新製品を作れなかったという点だと思う。それを変えていくというイメージを持ったが、もう少し詳細に解説いただけないか、との問いに)

    ご指摘のとおり、日本も含め、従来の延長の品質改訂やバラエティ化に終始してきたということはあるだろう。今後は、パーソナル化に刺さるような製品を多く出していくことになると思う。

    (当社は尻上がりに業績がよくなるというやり方である。20-25中計は少なくともスタートダッシュで成果を出してほしいと思っているが、どういうプランを持っているか、との問いに)

    2020年度についてはスタートダッシュをしようと思っていたが、新型コロナウイルスの影響でどうなるか分からない状況である。今回、スライドでご紹介したプレミアム製品(※下記、製品例のご紹介を掲載)は、かなり革新的な製品である。これを見ていただければ、当社のやる気を感じてもらえるのではないかと思う。

  • 冷凍食品事業に関して。日本におけるフードサービスのOEM活用について、当然、自社工場で生産し稼働率を上げた方が利益率は高いと思うが、あえてOEM化する理由を教えていただきたい。

    OEM先における品質や技術のレベルが、昔に比べて格段に上がっているというのが、われわれが信頼しOEM化を進めようとする際の一つのポイントになっている。また、OEM先は多品種・少量生産用に建てる工場が多い。自社工場で多品種・少量生産をする場合は非効率な部分が出てくるが、ある意味スペシャリティを持ったOEM先に委託をするというのは非常に資産効率もよい。現在OEM先はいくつかあるが、きちんと利益が出ている。

    (当社の自社工場はどちらかといえば、SKUを絞って多く生産できれば効率がよい。多品種をやるという選択肢は必要なのか。当社がやらなくてもよいのではないかという気がする。なぜOEMを活用しながらビジネスを継続していくのか、との問いに)

    多品種・少量生産の主なものは業務用のフードサービスである。よって、それぞれのレストランや店によってラインナップが必要になってくる。結果、ある程度多品種にならざるを得ないところはある。ただし今回、業務用の売り上げを落とすと言っているのは、その中でも採算性の成り立たないものは、例えば値上げ交渉をしたり、採算性が成り立つような別の運用があれば試みたりするが、それでも難しければ終売という判断もしていこうと考えている、とご理解いただければと思う。

    もちろん終売といっても、今使っているお得意先があるので、メーカーとして丁寧な対応をしていく必要があるが、できるだけ迅速に対応していきたいというのが主に業務用の戦略である。

  • タイや中国の冷凍食品の工場について、現状どのような問題があり、どういう目的を持って再編しようとしているのか。

    中国については、日本向けのデザートや、アメリカ向けの炒麺という野菜焼きそばを輸出しているが、米中の貿易摩擦により状況が変わってきているというのが大きなポイント。中国には3工場あるが、それらの要因により稼働率が落ちてきている。それをどう効率的な生産にしていくか、今後具体的に検討していこうということである。

    現在検討中であるため詳細はお答えできないが、そのような考え方とご理解いただきたい。

※プレミアム製品例「スチーミー」のご紹介

アミノサイエンス事業

ESG

  • MSGに関するイメージアップが浸透してきたという話を聞いているが、これによって、例えば大手の需要家が使い始めるという動きがどこまで出てきているのか、需要家サイドの変化にフォーカスして、現状を教えて頂きたい。

    北米における「味の素®」及びMSGの採用そのものは、B to Bで既に大手グローバルプレイヤーも含めて進んでいる。この動きを中心に、今までNO MSGということであまり対象となっていなかったB to Cの顧客や、最近北米で話題となっている代替肉等のB to Bの需要家の間でも採用が広がっている。

    こういったB to C、B to Bそれぞれの採用例が、World Umami Forumの開催以降の取り組みとして成果につながっている手応えである。業績に顕著に表れてくるのはこれからだと思うが、当社としては、今まであまり伸びが期待できなかった分野についても、このポジティブMSGという形をさらに強化して、実製品の展開に繋げていきたい。

    (少し前まではNO MSGやMSGを使っていないマーケティングがかなり多かったと思うが、これがほぼ終わりに近づきつつあるという理解をすれば良いか。また代替肉での採用においては、積極的にMSGが入っているというアプローチまでしてくれているのか。今MSGがどういう位置付けにあるのか、もう少し教えて欲しい、との問いに)

    長い歴史の中で形成された、風評も含めた認識を変えようとするには、ある程度時間が必要だと思っている。スライド4ページに記載しているのは、アメリカにおいて最もMSGに対するネガティブを持っていた栄養士の方のポジティブイメージが、段階的に上がっているという一つの指標である。元々、うま味については欧米のトップシェフたちが着目し、うま味を使った料理や、うま味を使って減塩するという傾向が強くなってきている中で、最も簡単にうま味を取れる調味料が、「味の素®」やMSGではないかということに気付き始めている。よって、いくつかのメーカーや外食のプレーヤーが、「味の素®」を使いたい、あるいはMSGを表示したいというケースにも繋がってきている。全体を変えるということについては、もう少し工夫と時間が必要だと思うが、そういったトレンドが出てきていると思う。

    (減塩だけではなく、うま味というそのものの価値に再度フォーカスが当たってきたという理解で良いか、との問いに)

    うま味そのものの意義と、減塩効果があるという2つが価値につながっていると思う。

    (この取り組みは2018年から始めてきているが、あるべきゴールに対して、今は何合目ぐらいのイメージか、との問いに)

    一つの指標として、栄養士のポジティブイメージの割合が足元で7割近くまで来ているが、これが80%を超えていくことをゴールにしながら活動を続けていきたいと思う。

  • プラスチックの問題やフードロスの問題は非常に重要な問題だと認識している。この課題をいち早く解決することによって、将来的に当社の競争優位性や付加価値上昇につながるということか。それともやらなければいけない課題として、コストが発生する話で、リターンとは少し違うというイメージを持つべきなのか、教えてほしい。

    国際機関からの要請ももちろんあるが、今回のビジョンである課題解決企業というポジションを当社が果たすことを使命としている。プラスチックやフードロスの問題は、今後大きな社会課題になる。当社が率先して取り組むことで、20-25中計で取り組むプレミアムな価値の評価に直結していくものだと思っている。当社独自の技術と同時に、行政も含めた方々とのタイアップによって、社会課題を少しでも解決できるような存在になりたいと思っている。これは最終的にプラスの経済効果にもつながっていくと思う。

    (これは当社のレピュテーションにメリットがあると理解するべきなのか、それとも囲い込みによる差別化でプライスが上がるということなのか、との問いに)

    両方あると思う。当社は小売価格を開示していないので単純に量販店で売っている「味の素®」と比較はできないが、例えばロハコとは、価格が2~3割高いものの包材がリサイクルだということで購入する消費者がいるということで、共同で製品を開発してきた。このような形で、エシカル消費を支持する層は確実に上がってきていると実感をしている。

    (パッケージだけではなくて、原料の面でもエシカルというキーワードは刺さると思う。例えば3年後、5年後に、日本でエシカル消費の市場は何%のシェアまで上がりそうか。イメージを教えてほしい、との問いに)

    即答できる数字を持ち合わせていないが、生活者が商品を選択する際の価値観が多様化する中で、大変大きな要素としてエシカルがあると思っている。アメリカでは代替肉を使ったハンバーガー等が広がっている。価格は高いがタンパク質摂取を肉以外で摂取したいという生活者が確実に増えてきており、日本や当社が強いアジアについても同時の潮流が起きているという実感がある。これを捉えていくことが重要だと理解している。

  • 人事制度改革を進める中で、年功序列のようになっていたものをどのように変えていくのか。報酬の差はこれからどのようになっていくか。また、外部からのプロフェッショナル採用をどのように進めていくのかということについて、レベル感と時間軸という観点からご解説をお願いしたい。

    年功序列からの転換としては、すでに当社はポジションマネジメントとタレントマネジメントという考え方を導入している。加えて外部からの採用についても、かなり意図的にこの2年間実行しており根付いてきていると思う。それを踏まえて、中計をスピーディーに実行するためには、そのタレントが色々な場面で力を発揮できるような配置と継続した採用が肝要かと思う。多様性という観点では、象徴的に女性のライン長と取締役という数字を掲げているが、これに留まらずキャリアの多様性についても、当社は意図して人財ミックスを推進している。

    (グローバルと国内でベンチマークとしている企業があれば、教えていただきたい。あるいは、目指すべき理想像はどのようなものという認識か、との問いに)

    具体的にどの企業ということはないが、もともと当社がベンチマークにしてきた、グローバルトップクラスの優良企業の人材投資や、働きがいのレベルの高さを常にモニターしている。これを参考にしながらKPIを設計してきている。当社もグローバル企業を目指す一員として、国籍を問わず、働く人が生き生きと顧客価値向上の仕事をする、その結果として時価総額を含めた企業価値が上がるということが重要であり、今後もそこを意識してターゲット設定をしていくつもりである。

  • 新型コロナウイルスに関して、ESGの観点から当社の対応についてご説明いただきたい。

    新型コロナウイルスに関する当社の体制については、対策本部を速やかに設置して、グローバルで従業員の安全と近況を把握している。刻々と変わる状況に合わせて、基本的には現地の責任者が判断し、従業員の身を守るということにしているが、その参考となるグローバルガイドラインを定期的に見直しながら発信している。仮に罹患者が出た時の対応マニュアルも本部で作成し、それをグローバルの各現場に担当レベルで落とし、現場で判断して実行できるようにしている。

    (特にオペレーション上に何か支障があるわけではないのか。よく日本はデジタル化が遅れているといわれるが、当社でいえばデジタルトランスフォーメーションが生かされ、問題は生じていないということか、との問いに)

    国によって状況は違うが、少なくとも本社のある日本では、もともと働き方改革で投資したテレワーク環境が整備されており、基本的には在宅で業務をするという前提で回している。それを支えているのがデジタルツールであり、会議やコミュニケーション含め基本的に業務はパソコンを中心としたツールで、ほぼ問題なく回しているのではないかと思う。

  • 新型コロナウイルスの影響で原材料等の調達においては不透明感があると思うが、当社はどのぐらい先々まで、サプライチェーン上の調達リスクに対しての対策を練っているのか。

    原料によってそれぞれ期間が異なるが、例えばコーヒー豆のような規模の大きく、保管可能なものは、早めに手当てをしている。他方、回転の速い食品に関わる野菜や香辛料などについては、3カ月ぐらいのタームで交渉をしているのではないかと思う。今後不透明感がある中で十分に調達できるかということについては、今現在は大きな問題はないが、品目により今後のリスクはあると感じている。

    (そこに対する対策はいまのところないということか、との問いに)

    代替原料については、常に用意をしている。ある調達ルートが遮断される、またはそれに近い状態になった時に、代替ルート、あるいは代替原料という案は常に持っている。今、一部についてはそれに置き換えようとしている。例えば中国産が輸入できない場合は国産に切り替えるということをECPの一環として事業部門ごとに準備をしている。

    (今後、原料の調達が通常通りではなくなっていく中で、コストプレッシャーというリスクが台頭してくるという見方をすればよいか、との問いに)

    当然、物流含めた原料の停滞や遅延に対するリスクは今後考えなければいけない。原料の調達に関わらず、製造自体を停止することがあれば、それが最も大きなリスクになるだろう。製造停止リスクの影響額は算出しているが、それがいつの時点で発生するかについては、状況を見ながら判断していきたい。

  • 温暖化に伴う課税リスクが80~100億円あるとのことだが、どのような算定をしているのか、数字の根拠を教えていただきたい。

    2度気温が上昇した際、当社がグローバルで最も広く展開している調味料においてアミノ酸発酵製造技術を用いている工場での影響を、いくつかのファクターに分けてTCFDのガイドラインに沿いシミュレーションしたものである。結果、一番大きいファクターが炭素税等の税金であるということが分かった。この他、社会的インフラのコスト上昇分も合わせて、年間で80~100億ぐらいのインパクトがあるということである。

    (これは発酵工程のある工場を持っている地域で個別に炭素税がかかった時に、当社の税負担として生じるということか、との問いに)

    Yes。全ての工場が同じ原料を使っているわけではないが、タイの工場をモデルにして、グローバル全ての工場で炭素税がかかったという前提でのシミュレーションである。

    (実際に起こり得る可能性として、20-25中計の間にどの程度のリスクとして考えておけばよいか、との問いに)

    期間としては20-25中計の先にあると思っている。但し大きな影響であるので、2030年までには発生するものとして、今から備えなければいけない。それを早く実行計画につなげたいということで、今回開示している。

    (基本的には20-25中計期間に関わるものではないという理解でよいか、との問いに)

    Yes。

    (炭素税は、例えばオーストラリアなどすでに始まっているところもある。東南アジアにおいても広がる可能性は、短期的にはかなり高まっているという理解で良いか、との問いに)

    一部の国で導入が始まっていることから、時期については当社が想定しているよりも早まる可能性はあると思う。但し、80~100億円という規模は全ての国で同時期に発生するという前提で計算したものであり、いずれにしても20-25中計では発生しないと考えて頂きたい。

  • 中計資料のスライドの7ページについて。1人当たり売上高は、2019年度を100とした時に2022年度に115、2025年度に134と非常に高く伸びる。有価証券報告書で開示された当社の従業員数と連結売上高を割り戻したものを見ると、2019年度までほぼフラットあるいはやや低下している状態である。これはアセットライト化の効果もあると思うが、試算のベースになっているアセットライト化の効果と、それ以外のオーガニック成長による効果をどのように分解すればよいのか、イメージを教えてほしい。

    今中計でお伝えしている売上高は、アセットライト化は反映されたものであるとご理解いただきたい。よって、アセットライト化の対象となった事業が仮にある年次で終了することになれば、それは非継続事業にカウントし、除いたベースの売上高を従業員で割ったものだとお考えいただきたい。

    (アセットライト化の対象は売上高の5%であると理解している。従業員数は微減であると仮定しても、残るオーガニックベースでの生産効率も非常に上がるというイメージだと思う。これは、デジタルリテラシーの3つの取り組みで可能になるのか。あるいは既存事業の人員も厳選されていくという理解なのか。アセットライト化後の重点事業の生産効率が、オーガニック成長によってどれぐらい持ち上げていく前提になっているのか教えて頂きたい、との問いに)

    アセットライト化後も重点事業にシフトすることで売上高を上げ、且つ高付加価値型のものにより転換することで、単価を上げていく。ボリュームの伸びよりも、キログラム当たりの単価を上げていき、1人当たりの生産性向上に繋げていきたい。

クロージングリマークス

  • かなり理想に満ちた経営の方向を見せて頂いたが、なぜこのような理想的経営を今まで執行できなかったのか。また、あるべき姿に回帰していくために、どれぐらいの意志を持って味の素社を再生しようと思っているのか。

    情報革命が当社のような食品産業にまで落ちてきたという、この大きな変化を抜きには語れないと思う。具体的に言うと、2015年から2019年にかけて、食の産業とフードテクノロジーとの融合というものが随所に見えるようになってきて、これが日本においても顕在化してきた。このような大きなうねりが、当社の危機感を煽っていることは間違いない。

    それを先取りしてできなかったのは、当社にデジタル革命というものをきちんと捉える人材や、見識が不足していたという大きな反省に立っている。昨年設けたCDOを中心とし、さまざまな外部の力も借りながら推進していく。そのような議論の中で危機感が益々高まり、今回の中計になったということである。

    今日ここに集まっている経営メンバー以外も含めて、不退転の決意でこれをやる。やらないと10年後には、味の素グループは単なる平たい会社になったままで、アナリストや投資家の対象にはならなくなるという危機感を持って臨んでいきたい。