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味の素社の社長に就任されたが、社長として最もやらなければならないと思う課題は何か。
構造強化は道半ばであり、2016年度の目標を成し遂げて、漸くグローバルトップ10までの距離が明確になると考える。また、2020年にはグローバル企業並みの成長性だけではなく、サステナブルである事が求められると考える。よって、財務目標だけではなく、できるものならESG目標も数値目標として共有していきたいと考えている。
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グローバル食品企業のトップ10入りを標榜されているが、営業利益率もROEも10%に満たない低い水準で、まだ相当の開きがあると考える。アナリストとしては、もっとスピードアップしてトップ10に近づいてもらいたいが、そうなる為にどのような事を具現化していくのか。
ご指摘の通りスピードは課題であり、今後も非連続成長について取り組むべき事があると考えている。株主還元はお示しした方針に沿ってしっかりやっていくが、同時に成長を加速する投資もきちんとやっていきたい。
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事業ポートフォリオで見ると、当社はグローバル食品企業に比べ欧州やアフリカにおけるエクスポージャーが非常に低いと思う。これを補完していく為のM&Aについての考えを教えて欲しい。
グローバル食品企業トップ10を見ると、展開している地域に偏りがある企業も多い。我々としてはグローバル企業を標榜する以上、地域展開には一定のバランスを持ちたいと思っている。従前、当社は日本を含むアジアが主体であったが、昨年末のウィンザー社買収によりポートフォリオを変える事ができた。今後については欧州を強く意識したい。
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西井社長が最も重視している経営指標は何か。
サステナビリティを高めていくために、財務目標とESG目標との関連性を明らかにしていく必要があるが、まだ現時点ではできておらず課題として捉えている。“当社ならでは”の社会に貢献できる目標を作りたいと考えている。そして、次期中計にはこれを目標として打ち出していきたいと考えている。
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動物栄養事業は期首の営業利益予想を変えていなので、下期比較では大幅減益の見通しとなる。加えて足許では期首予想よりも販売価格が下がってきているので、このマイナスをどのような追加施策でオフセットしていくつもりなのか。
「AjiPro®-L」などのスペシャリティの拡売、複数原料の使用、フレキシブル生産の実施、低資源利用発酵によるコストダウンなどでオフセットしていく。また、比較的コスト優位性のあるトリプトファンについて生産増強を図っている。
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コーヒー事業の将来の可能性をどのように見ているか。
AGF社とのシナジー創出の取組みテーマの1つとして、R&Dの分野では飲料領域のグローバルセンター化がある。コーヒーや粉末コーヒーを美味しくする技術は、これまで日本でしか使えなかったが、今後はアセアンやブラジルの飲料事業や粉末飲料事業にも使えるようになった事は大きい。タイでは足許で缶コーヒーや粉末飲料が苦戦しているが、AGFの技術を使って底上げを図っていきたい。
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日本のビジネスついて、従来より、国内の成長なくして海外の成長はないと謳っているが、新規連結のAGF社を除くと国内食品ビジネスは利益水準が上がっていない。スペシャリティの製品開発は理解できるが、利益成長に結びついていない事について、どこに課題があるのか。
おいしさを構成するライブラリーの充実に傾注し、大きな取り組みを始めたのは今中期経営計画およびその前の中期経営計画からである。その中で、フレーバー領域についても具体的なテーマを設定した。結果として、長谷川香料社とナチュラルフレーバー領域について着手し、酵素製剤を活かした「お米ふっくら調理料」といった“調理料“という新しい分野も生まれてきた。このライブラリーが充実してくることで、使える出口が増えてくる。国内の環境が厳しいことには変わらないが、年数%の利益成長を2020年までは目指していきたい。取り組みを進めることで、あとはマーケティング力との掛け算で強化できる。
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海外食品の成長モメンタムの加速化について、基本的にこれまでとストーリーは変わっていない。M&Aでシナジー効果を出すといっても、時間がかかりそうな印象。社長のラテンアメリカでの赴任経験を活かし、利益を押し上げる成長戦略を教えて欲しい。
為替やコストの影響はあるものの、実際は海外のオーガニック成長がベースとなっており、しっかり稼げる構造になっている。ウィンザー社影響を除いても、しっかりと成長している。ここをどう広げていくかがポイント。当社の特長は、徹底した現地適合。例えば、日本で培われた冷凍パン事業をインドネシアで展開する予定である。即席麺はブラジルでは合弁事業を解消したが、インドやナイジェリアで布石を打っている。それぞれの地域のマーケットによって、当社の技術を生かせる分野が明確に違う。私の経験を踏まえると、ラテンアメリカに赴任する前は欧米のトップ企業がM&Aをやった後で、良い案件はないと思っていたが、現地に行くと色んなチャンスがある事が分かった。アセアン、ブラジルと欧州でM&Aの検討体制をつくって臨んでいる。
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2015年度上期は好い実績だったが、上方修正のほとんどが為替やコストといった外的環境の改善だと思う。それがなければ上方修正には至らなかったはず。来期、外部環境が向かい風になった時の対処方法はどうか。
コストについては原料価格によるところもあるが、複数の原料を使用するとかフレキシブル生産を行う事なども業績に貢献しており、今後もしっかりと進めていく。為替については、主に貿易為替の影響を大きく受けている。影響を大きく受けている事業については、拠点を増やしナチュラルヘッジ部分を大きくしていく事が大事である。
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配当性向30%は、2015年度の総還元係数は60%以上となる計算だが、それとは別に配当性向30%を予想に入れて好いのか。
配当性向30%は単年度の目標とし、これを実現したいと考えている。日清味の素アリメントス社の持分譲渡による特別利益については成長投資に振り分ける旨、2015年8月27日にお伝えしているが当期利益からこの部分を除くと、2015年度の配当性向は30%には届かないがかなり近い数値となる。
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化成品事業について来期を心配している。2015年度上期も減収減益だったが、本下期と来期の見通しについて教えて欲しい。
電子材料の市況が本上期は不調で、下期は回復という従来とは逆の傾向となっている。PC在庫調整により市況が年度の後半から回復傾向になるとみている。一方、本上期は香粧品がナチュラルブームに乗って伸長している。海外では国によって10%以上伸長しており、収益源になりつつある。電子材料についても、PC市場は縮小傾向だが、サーバー用途やスマートフォン領域が拡大している。新製品の有機EL封止材用途の新規採用が決まり、近々、商業生産を開始する。今後の利益貢献に繋がるだろう。
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動物栄養事業のスペシャリティ比率は今後も上がっていくと思うが、事業全体の営業利益額が減ると、スペシャリティの営業利益額も下がるという考え方なのか。2016年度はコモディティの市況に影響されずに、スペシャリティは実額でしっかりと増益になるのか。
コモディティについては、リジン、スレオニン、トリプトファンの3つをカウントし、それ以外をスペシャリティとしている。スペシャリティについては絶対額を伸ばしていくことを目標としている。コモディティの営業利益が下がってくると、スペリャリティ比率が上がってくる。今回、加工用うま味調味料や甘味料も含め、2015年度の期首に掲げたバルク比率11%を、本中間期に15%と予想を変更したのは、為替や原材料価格の影響を受けて、コモディティで稼げる部分が増えているからである。
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2020年まで安定的に国内食品事業を成長させるというのは、数量増よりも付加価値の増加に伴う販売単価上昇を中心に行い、国内食品事業をキャッシュカウ化させようとしていると理解している。また、当社は原料価格が高騰した際には価格転嫁を積極的に行っているが、直近の価格改定は販売数量にどの程度影響があったのか。価格改定は高付加価値化に成功したと言えるのかを教えて欲しい。
本中間決算に影響した価格改定としては冷凍食品と家庭用、業務用の「味の素®」である。どちらもその価格改定幅は凡そ8-10%程度であるが、そのことによる販売数量への影響は出ていないと思っている。価格改定前には所謂「駆け込み需要」もあり、特に「味の素®」は上期数量増になっている。業界全体として値上げ基調ではあるので、値上げの理解を得易い環境ではある。冷凍食品は家庭用中心に第1四半期がかなり厳しい販売状況であったが、第2四半期に積極的にプロモーション活動を行った事で盛り返しており、上期累計ではほぼ前年並みまで回復した。
そういう意味では当社の販売数量への影響はほとんど無かったと思うが、消費者は価格改定には相当敏感になっている。特に大都市圏よりも地方において節約志向が強く、今年実施した価格改定への影響の出方は下期に問われていると思う。(2015年度下期の国内冷凍食品セグメントは増収にも関わらず営業利益前年並みを見込むのはなぜか、との問いに)
主に通期の前提為替を見直した影響である。1$を115円から120円に修正した事で当初予定よりも輸入原料のコストアップを見込む。 -
海外の調味料・加工食品はオーガニック成長を継続しているが、レアル安による貿易為替影響はどの程度発現しているのか。また、下期の影響額見通しを教えて欲しい。
レアル安により、換算為替はデメリット、貿易為替はメリットに影響してくる。質問の主旨は貿易為替だと思うが、そうであれば開示している感応度から計算頂ける通り営業利益に10億円台半ばプラスに影響している。レアルは昨年から継続して安くなっているので、下期においても同規模の影響を見込んでいる。但しレアルを中心に為替が大きく動いているので、その影響額は慎重に見ていかなければならない。
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西井社長就任後、事業ポートフォリオの見直しの発表が続いているが、今後も積極的に事業ポートフォリオの見直しに取り組むのか。
構造改革は継続して実行していく。まだまだ課題のある事業もある。但し戦略上他事業とのシナジーがあったり、将来の成長の為に必要な事業であれば、例え低採算であっても一概に見直しの対象となる訳ではない。その様な状況を常に整理しつつ、今後もポートフォリオの見直しや強化を念頭に置いて経営を行っていく。ウィンザー社の様に、市場における確かなポジションを獲得出来る案件があれば更なる成長に繋がる為、しっかりと管理を行っていく。
(バルク事業のスペシャリティ化を強化するために、捨てる事の出来ないコモディティにはどの様なものがあるか、との問いに)
製品と言うよりは、コモディティは顧客との大事な接点である。コモディティがあるからこそスペシャリティも購入頂ける。加工用うま味調味料事業もそれが明快で、現在当社が生産しているMSGの70%近くをグループ内で使用しており、味の素グループが最大のユーザーになっている。飼料用アミノ酸はその性質上、MSGと同じ様にはならないが、キーアカウントという観点で、コモディティも大事だと思っている。 -
タイ・ブラジルの海外調味料・加工食品の現地通貨ベースでの成長率が小さいが、実際の市場では何が起こっているのか。また、下期の市場環境をどの様に見ればよいか。
タイ・ブラジルの足元の経済は確かに弱い。タイは向こう2年軍事政権が続くことになっているが、落ち着きは取り戻してきている。中国経済の鈍化がアセアン全体の為替に影響しており、周辺国への輸出事業が厳しくなっている。その影響が飲料の販売数量に大きく出ている。これに対しては価格対応も含め、再強化を図っている。数量は徐々に回復すると思うが、営業利益では厳しくなると見ている。タイは既に事業規模が大きいので、2桁成長するのは難しいが、「味の素®」や「Ros Dee®」の様な主力品と新製品で何とか目標に近づいていきたい。下期には嗜好性の高い新製品の発売を予定しており、来年度の売上高には貢献するだろう。また、下期にはプロモーション活動も積極的に行うので、上期以上の現地通貨ベースでの成長は達成出来ると思っている。
ブラジルについては、第1四半期は国の経済が前年を割っていたため相当厳しかったが、第2四半期には調味料を中心に2桁近い成長を実現した。下期には調味料を中心に新製品の発売を予定しており、それらも合わせて2桁成長に向けて挽回出来ると思っている。
(タイは輸出を除いた国内需要は堅調だという理解で好いか、との問いに)Yes。 -
飼料用アミノ酸価格がコモディティ中心に低い水準にあるが、足許の競争状況および今後の見通しについて教えて欲しい。
リジン、スレオニン、トリプトファンといったコモディティについてコメントする。リジンは中国需要の低迷を背景に価格軟化が継続している。しかし一部中国メーカーに生産調整の動きが見られる。価格下げ止まりの傾向にはあるものの、具体的な反転の兆しはない。但し中国のスプレッドが$50程度から直近$150近くまで拡大しており、状況としては市況回復の兆しはあるものの、まだ数字には現れていない。その様な状況を踏まえ、下期の市場価格見通しを$1.25/kgとしている。スレオニンについては、リジンと同傾向だが、中国以外の市場の伸びが大きく、価格の下がり方がリジンよりも緩やかである。中国やアジアの市場価格が$2.0/kgを割っているが北南米は$2.0/kg台を維持している。よって、下期では$2.0/kg強を想定している。トリプトファンについては競合の増産があり、為替メリットを背景に積極的なオファーを行っている。中国メーカーは$8.0/kg台になってしまうと利益が出ないと推察しており、下期の市場価格は$9.0/kg程度と推定。当社はこの金額でも利益が出せるので、シェアを拡大していこうと考えている。
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ESGと財務情報を絡めて目標を設定したいとのコメントだったが、これからはその様な開示が求められていくだろう。ESGと財務情報をどの程度リンクさせる事をイメージしているのか。
現在、ESGと財務情報を関連付ける方法を検討しており、当社として何か考え方を持っているという訳ではない。グローバル企業のTOP3から勉強する中で、彼らに類似するものを持ちたいと思っている。彼らは既に15-20年前から同様の取り組みを行っていると思っており、すぐにキャッチアップするのは難しいかも知れないが、少なくともインデックスは持ちたい。これらの評価は最終的にはブランド価値の評価にも繋がるので、今後ブランド価値評価を軸に考えていく事も頭の中にある。当社も現在、サステナビリティレポートを作成するに当たり社外のオピニオンリーダーに意見を頂くボードを持っているが、ESGに関してはその対象の方を拡げる事でモニタリング出来る仕組みを構築したい。インデックス・モニタリングの仕組み・ブランド価値という3点は織り込みたいと思っている。
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「ネットDebt」という概念が新しく出てきたが、なぜ現預金を75%でカウントするのか。75%という水準に至った背景を教えて欲しい。
従来はネットでもグロスでも大きな差がなかったのでそこまで意識する必要もなかったが、足許では有利子負債が2,000億円を超えており、好調な海外を中心に現預金が積み上がっている。その様な状況を鑑み、投資に向けた負債での調達についての考え方を明確にした方が好いと思い、今回の開示に至っている。現金を75%にしている背景は、海外法人も多い中で運転資金相当額として25%分を除いている。特殊な計算ではあるが、一部の格付け機関も同様の考え方を採用しており、そこまで違和感のある数字ではない。
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今後のMSGと核酸の価格見通しを教えて欲しい。海外には足許の原料安を背景に価格競争を仕掛ける様な競合もいると思うので、どの様に考えているのか。
基本的にはトレンドは変わっていないと思っている。MSGは年間2-3%程度市場拡大しており、供給の方が強い為競争状況は変わっていない。その様な中、各社採算性が悪化しており、当社も含めそれなりの価格改定を行っている。この為、トータルでは価格は少し改定されてきている。核酸については、市場は7-8%と堅調に伸びている。MSG以上に供給過多になっており、特に中国市場の価格が厳しい。当社で言えば中国のポーションを下げる取り組みを行っており、上期は中国向けの販売数量は意図的に価格を優先した結果、販売数量は前年を下回った。市場は堅調に拡大も、価格は下がっているという状況。