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経営のスピードについて聞きたい。当社の中長期的な成長ドライバーである海外調味料・加工食品事業のビジネスモデルは、当社営業マンが市場の隅々に商品を運び、現金を回収してくるという地道なスタイルであり、それを続けてきた事によって今、花が開いている。好いビジネスモデルであると思うが、一方でグローバルジャイアントに追い付く為には、更に成長を加速させる事が必要である。当社として今後、どのような取組みを考えているのか。
海外調味料・加工食品事業の成長加速の取組みの一例として2016年度のパキスタンのラクソングループとのジョイントベンチャー設立が挙げられる。これまで当社は自前でMSGの販売ネットワークを構築する事から入り、徐々に事業規模を拡大してきたが、このやり方では単年度黒字化までに15年ぐらい要する。パキスタンで隣地拡大しながら、同時に成長のスピードアップを図る為、ラクソングループの販売ネットワークを使い、MSGではなくインドネシア味の素で製造した風味調味料や現地に根差したハラール対応商品を販売していくという、従来のオーガニック成長ではない戦略を用いる。
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2016年度の業績予想について、為替フラット(=前期実績レート使用)ベースでは売上で対前年3%、営業利益で同5%伸長する予想になる。しかし、これだと営業利益は年間に100億円程度しか増加せず、オーガニック成長だけだと何時まで経っても中長期目標であるグローバルトップ10入りは難しいように感じる。
ご指摘のオーガニックの成長率では目標達成には足りない。従って現在、稼ぎ頭のFive Starsを中心にポートフォリオを拡充すべく、次の成長に向けた投資を同時に行っている。例えば、インドネシアにおける風味調味料や冷凍パンの設備投資である。これらの投資が2020年には花開くようにスピードアップを図って行く。
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1株当たり当期純利益成長に少し課題があるとの認識であるが、親会社株主帰属純利益を拡大させる為に営業利益のオーガニック成長は当然だが、それ以外に持分法投資利益や非支配株主帰属利益などについて、どのように考えているのか。
持分法投資利益については、AGF社の100%連結化やブラジル日清アリメントス社の当社持分売却など、全社戦略の観点から判断し結果として増減する事はある。
非支配株主帰属利益については、元々当社が新興国でのビジネスをスムーズに進める為に現地でパートナーを求めた事に起因するが、親会社株主帰属純利益を高める為に今後は戦略的な検討、判断が必要と考えている。 -
2016年度は将来の飛躍に向けた投資をする年であるとの事だが、その投資によって2017年度以降の利益成長はどれくらい伸長するイメージなのか。
2017年度以降の計画については現在、17-19中計を策定中であり、2017年2月に公表予定である。具体的な数値については暫しお待ちいただきたい。
(2016年度の投資によって2017年度以降の利益成長は今以上に大きくなると考えて好いのか、との問いに)Yes。 -
B to B to C事業の売上構成比が上がってくる事による、売上総利益率や営業利益率への影響はどうか。
当社食品事業では、家庭用商品の売上総利益率目標を45%、業務用商品は同35%としている。この差は係る販売経費の差異であるが、営業利益率については何れも最低目標15%として仕事をしている。B to B to C事業の商品はあまり競合がいないスペシャリティなので利益率は高い。また売上規模は大きくないが、近年では毎年120-130%伸長しており、2020年には一定の売上規模になるものと期待している。
(コンシューマー商品に近い営業利益率と考えて好いのか、との問いに)Yes。 -
北米の冷凍食品のディストリビューションチャネルはどのようになっているのか。
旧ウィンザー社(以降、W社)買収前に、北米で当社が味の素冷凍食品USAとしてやっていた時には、量販店で言うと1,000店舗程度のカバーであったが、W社は既に数万店舗のディストリビューションチャネルを持ち、ほぼ北米全土に配荷できる体制になっていた。現在、味の素ウィンザー社の売上は1,000億円であるが、今後伸長させていく日本・アジア食の比率は40%で、日本食は100億円程度しかない。北米市場の伸長率は2-3%程度だが、日本食をW社のディストリビューションチャネルに乗せ拡売する事により、2020年に向け年間5%以上伸長させていきたい。
(年間5%以上の成長の為に、現状のディストリビューターのネットワークを変える必要があるのか、との問いに)2015年度には日式ギョーザをW社のディストリビューターを使い、W社のチャネルに乗せる事によって200店舗以上配荷先が増加した。よって、現状では変える必要は無いと考えている。 -
国内食品は円高で原料が安い局面にあり、他社では流通からの値下げ要請もある様だ。足元の当社の状況はどうか。また2015年度の値上げ時とは何が小売店との交渉上、違っているのか。
円高傾向だが継続する長さによって状況が違ってくる。現時点では値下げ要請はないが、円高が長引けば値下げ要請の可能性はある。原料価格への影響は予算策定時に想定しているが、企業努力によるコストダウンも含め、その上での値上げ/値下げの交渉をしている。2015年度の値上げ時は、日本全体にデフレ脱却の気運あり実行出来たと考える。
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当面は値下げの可能性ないと考えてよいか。
円高の継続期間次第だが、前半はないだろう。円高が長引く場合は値下げを想定せざるを得ないかも知れない。特に、油脂のように製品コストに直結する商品は、値下げの可能性はあるだろう。
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気がかりなのは、円高によりコストダウンとなり食品業界の営業利益率が上向くものの、値下げ圧力で結局、営業利益率が下がること。どう考えるか。
価格改定には消費者は敏感に反応する。値下げした場合、販売数量の増加が見込まれる商品は売上高も上がるが、営業利益率に影響する様な、全商品を対象とした値下げはしない。大型商品の動向が営業利益率に影響を与える事になろう。
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2015年度の動物栄養の営業利益のスペシャリティ比率は50%目標に対し、35%の約20億円。対営業利益予算(66億円)で約マイナス15億円だった。バリンおよび「AjiPro®-L」の上手くいかなかった原因は何か。2016年度は営業利益率6.5%予想だが、その実現の為の取り組みについて、北米以外も含めてアップデート頂きたい。構造改革の余地はあるのか。
2015年度スペシャリティで苦戦したのは、主に「AjiPro®-L」とバリンの販売。「AjiPro®-L」は北米で乳価が下がり、酪農家の乳量を増やすモチベーションが下がり、新たに乳量増の為の製品にコストをかける事が難しくなった事による。こうした環境悪化の中でも、一度「AjiPro®-L」を使用した顧客は使用を決して止めない。つまり商品価値が認められている事が確認出来たのは大きな収穫。従って、2016年度にやるべき事は新規顧客数を増やす事であり、その点に集中した販売施策を考えている。既に新規顧客開拓に強い販売ディストリビューターを新たに起用しており、2-3月に月間販売量は拡大し始め、手ごたえを感じている。製品性能の改良も含め、2016年度の販売数量目標6,500tを達成していきたい。また、北米以外の販売拡大も強化していく。バリンについては、2015年度は味の素ユーロリジン社の製造に加え、ブラジルでも製造できるようになった。2015年度は立ち上げ時の不具合もあり生産・販売に影響が出たが、現在は安定している。顧客との提携の取り組みも進んでおり、フランス、ブラジルの2拠点で面を広げる取り組みを進めていく。
動物栄養の営業利益率の低さとボラティリティについてのご指摘については、17-19中計でスペシャリティ拡大の具体的な策を織り込んでいきたい。そのためのR&D、投資計画も含め、構造改革を既に進めている。営業利益率も高め、安定感のある事業にしていく。 -
医薬事業が新統合会社発足後も「その他」セグメントに31億円の赤字として残る背景と、今後も赤字が続くのか否かを教えて欲しい。
医薬事業はEAファーマ社による持分法適用に変えたものの、製造受託事業が「その他」セグメントに残り、売上高は大幅に縮小するものの当該事業の固定費が配賦される為、赤字になっている。2016年度より、医薬事業は持分法投資利益分と合わせた業績評価が必要となるが、EAファーマ社の予算は現在策定中の為、当社の2016年度予想には未計上。「その他」セグメントの医薬事業の固定費負担をどう軽減するかについては、引き続き検討していく。
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日本食品の営業利益率が上がっている。原料安の追い風もあると思うが、2016年度も営業利益率が加速するような仕組みになっているのか。
利益構造について2つある。①トップラインはAGF社新規連結を除けばオーガニックではさほど伸びない。BtoBtoCのスペシャリティも含め、業務用中心に高収益な商品にシフトしており、売上総利益率が高まる傾向にある。 ②川崎事業所内の食品工場にオートメーション設備を新規導入。国内に分散している、減価償却が済んでいるものの生産効率の高くない設備を新しい技術とオートメーション化により、もう一段効率のいいものに変えていく。これらが日本食品の17-19中計で重要な施策となる。この2つで稼いでいく。
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2015年度の海外調味料・加工食品の現地通貨ベースでの売上高成長は当初の目標に満たなかったが、その主要因や背景を教えて欲しい。また、2016年度も引き続き現地通貨ベースで10%成長という目標を掲げているが、どの様に達成するのか。
海外調味料・加工食品の売上高は各国様々な事情もあり全てが計画通りにいく事は難しいが、2015年度をトータルで見れば現地通貨ベースでの成長は悪くなかったと思っている。しかし最大の事業規模であるタイの成長率は、想定以上に弱かった。背景には国自体の経済成長率が鈍化し、他のASEAN諸国の成長率が5%前後であるにも関わらずタイは2%台に減速してしまった事がある。加えて、ブラジルの経済も想定以上に厳しかった。為替の影響もあるが、主要国の経済成長鈍化が特に第4四半期に顕著に現れた。
また、Five Starsの次の成長ドライバーとして期待しているナイジェリアについては、原油安による外貨不足やそれに起因する輸入原材料対価の支払不足の懸念もあり、第4四半期からは生産調整を行いながら最低限の生産量に留めている。
一方製品別に見てみると、調味料はタイやブラジルを含めても各国で想定通りの成長を継続している。タイで10%成長と言うのは現実的に難しいが、調味料だけで見れば4-5%の成長を実現している。ブラジルの風味調味料も、厳しい環境下にも関わらず10%以上成長している。
しかしタイの飲料やブラジルの粉末飲料等の相対的に嗜好性の高い加工食品は厳しく、タイも前年並を確保する事で精一杯であった。
2016年度は現地通貨ベースでの10%成長を目指しており、その為に2015年度にかなりの広告投資、新製品の開発投資を行った。それらを成果に繋げ、加工食品類も2016年度以降は増収を実現していく。 -
動物栄養のコモディティは2016年度の価格見通しが足元の価格よりも上がる前提になっているが、この先本当に価格が上昇するのか。価格見通しの考え方を教えて欲しい。
足元のリジン市場価格は約1.20$/kg前後であり、2016年度の想定価格1.30$/kgと比べるとやや低位で推移している。長期間価格低迷が続いているが現状価格は歴史的にみても低いレベルで、さすがに同業各社とも厳しい状況で、生産調整を始めた会社も多いとみている。
当社は3月に北米で値上げをアナウンスしたが、4月以降各社とも値上げ発表し始めている。北米は需給がタイトになってきたので当社は今週再度値上げを発表したが、直後に競合も値上げを行った様だ。リジン価格は底を打ったと感じている。当社の価格見通しを上下期別に見ると、上期は1.25$/kg前後、下期は1.35$/kg前後というイメージで通期での目標達成は十分射程距離内と捉えている。
スレオニンも価格が軟化傾向でリジンと同じ状況である。2016年度の価格見通しが2.00$/kgに対し、足元は1.70-1.80$/kg程度。スレオニンはリジンと比較し寡占化が進んでおり、一昨年の様に大手中国メーカーの価格政策によって短期間に価格が大幅に上昇する可能性もある。足元の価格水準では各社とも採算性は厳しいと想定され、当社も状況を見極めながら価格の適正化を図っていきたい。
トリプトファンは2015年の競合の増産や中国メーカーの参入等の影響で、足元の価格は7-8$/kg程度になっている。当社の2016年度価格見通しは8$/kgと厳しめに想定している。当社は2016年に欧州で2,500tの増産を行っており、その拡売も見込んでいる。増産効果で生産コストは下がるので、増産分を着実に販売する事で目標達成は視野に入っている。
コモディティは市況が不安定でご心配をお掛けしているが、全体として足元価格からの価格上昇が今後期待出来、目標達成は十分可能と思っている。 -
加工用うま味調味料は2015年度の増益を牽引したが、為替影響もあり2016年度は減益を見込んでいる。市場という観点ではどの様に捉えるべきか。約40億円の減収で10億円の減益となっている理由も合わせて教えて欲しい。
特にMSGについては、2015年度の市場は2-3%の安定成長と見込んでいたが概ねその通りに着地したと見ている。2016年度も同程度の安定成長を見込んでいるが、当社の戦略は内部使用比率を高める事であり、外部宛売上高を高める事を追いかけてはいない。営業利益の減益要因は減収に起因するものが殆どであるが、2015年度には若干一時的な要因もあった。それらを除くと、採算性自体に大きな変化がある訳ではない。但し、2015年度の増益分の70-80%は為替影響であり、その影響が大きかったというのは事実である。
核酸については、MSGに比べて市場そのものの成長を大きく見込んでいたが、中国経済の成長鈍化もあり8%の成長予想に対し実際は5%前後に留まったと見ている。2016年度は同程度の成長を予想している。 -
動物栄養の価格と為替の前提から試算すると、5%の増収計画というのは強気に感じるが、どの様に考えれば好いか。スペシャリティが成長を牽引すると仮定すると、逆に営業利益の成長が弱く見えてしまうので、解説願いたい。
2016年度の増収要因として大きいのはトリプトファンの増産影響とスペシャリティの販売数量増である。トリプトファンは欧州で2,500t増産が計画されており、価格前提は低く設定しているが販売数量が大きく伸びる為に増収となる見通し。ただし営業利益については販売価格が下がる為に売上高ほどには伸びない。
(営業利益は新規投資や増産した設備の減価償却費の増加で伸びが小さくなっているのか、との問いに)トリプトファンは増産によって生産コストが大幅に下がるが、営業利益は売上高ほど増額にはならないという事。 -
加工用うま味調味料・甘味料セグメントで約95億円の減収を見込んでいるが、その内加工用うま味調味料で約35億円となっている。残りの約60億円の減収要因を教えて欲しい。
甘味料で減収を見込んでいる。2015年度まで甘味料ユニットに計上していた海外のリテール事業を2016年度から海外調味料・加工食品に計上するが、過去実績の組替えが出来ない為、減収要因となっている。また、2015年度に欧州工場を売却し、生産拠点を日本1拠点とした事で東海工場の生産状況に見合った売上高見通しにしている事も一因。
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ESGについて聞きたい。就職情報誌の理系大学生の人気ランキング1位となったが、文系のランキングでは10位にも入っていない。この事をどの様に考えているのか。人材の採用についての考え方を教えて欲しい。
理系の女子学生からは人気No.1となり、ありがたい評価だと思っている。一方で文系は53位となっており、低いと感じている。学生からも評価頂ける様に、多様な人材が活躍出来る体制を構築していきたい。理系学生については、その専門性を活かせる領域が文系学生に比べると限定されており、相対的に選択肢が少ない事も背景にあると推察。
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2015年度は従業員の年間平均労働時間が減少しているが、どの様に残業削減を実現したのか。
2017年度に就業時間の20分短縮を予定しており、2016年度はその準備期間と位置付け取り組みを開始している。しかし「言うは易し」であり、現実には3交代勤務で動いている生産現場や夕方から商談が始まる国内の営業部門等、時間短縮に向けて解決すべき課題が沢山ある。
しかし当社グループ内を見ても、日本だけが「業務は会社で行うものである」という認識が強い。フリーオフィスの様な仕組みをもっと活用出来るかも知れない。東京であれば1時間以上かけて出社している従業員も多く、往復の2時間は仕事をしていない。オフィス環境を含め、働き方のフレキシビリティを高める方法がまだまだあると思う。 -
ワーク・ライフ・バランスの向上による経済価値への貢献をどの様に考えれば好いか。
定量的に分析するのは難しいと思う。17-19中計では「働きがい」等の従業員満足度もKPIに組み入れる予定であり、その高まりが生産性の向上に繋がる事をご説明する必要があろう。過去10年間程度、「組織文化診断」という社内意識調査を行っており、従業員の意見をマネジメントに反映させるという事に取り組んでいる。これをグローバル企業と相対的に比較出来る様にし、従業員と共有出来ればモチベーションの向上に繋がり、数字的な成果にも繋がると思う。この様に、ESGの各取り組みがどの様に経済価値に寄与するのかという説明に出来るだけチャレンジしていきたい。