全体

  • 現在の株価をどの様に感じているか。

    決して満足できるレベルではないが、全て我々に要因があると認識している。一番の原因は成長ドライバーが伸びていない事。Five Stars、AWI社、ヘルスケアといった中計で設定したドライバーが全てつまずいている。この様な状況を受けて、事業管理が出来ていないのではないかとの懸念を持たれているのも我々の責任だと思っている。少しでも認識のギャップを縮める為に、外部環境の変化の影響も含めて、海外食品事業の月次情報を公平に公表する事を検討している。

  • FY18の利益成長ドライバーをどの様に考えれば好いか。

    守りを固めるという観点では、為替や発酵原燃料等の外部環境は割とステイブルだろう。よって、ボラタイルな事業の影響は小さくなる可能性があり、成長を加速するために、コンシューマー食品とヘルスケアに集中できるだろう。トップライン成長とコストダウンの両面で牽引していく。

  • タイの少数株主持分について買い取る方向で動いていたと思うが進捗しているか。アップデートして欲しい。

    タイのみならずアセアンは歴史的に少数株主が存在する。現在、親会社帰属を増やす為に計画的に準備を進めている。アセアン諸国を中心に、キャッシュのバランスを見ながら段階的に対応していく。

    (どの様なキャッシュバランスで買い取っていくのか、との問いに)年間の営業キャッシュフローは約1,200億円と予想しつつ、設備投資およびR&Dの戦略投資を計画通り実行し、株主還元は3年間累計の総還元係数50%、単年度配当性向30%を守りながら、少しずつ改善していく計画。余剰キャッシュでどこまでできるかを見ながら、計画的に対応している。

  • ガバナンスの考え方を教えて欲しい。事業領域・展開地域が拡大する中で、ガバナンスが効かなくなる恐れはないか。現場から本社に声が届かなくなる可能性がある場合、予防策はあるか。

    昨今の大手製造業の不正もあり、社外取締役、社外監査役とも対話している。一番のリスクは海外の孫会社である。子会社まではCEO直轄の組織で2年毎に社内監査を実施して、課題があれば是正しながらマネジメントしている。但し孫会社までを全てカバー出来る訳ではないので、主要な子会社に社内監査機能や取締役会に対する監査役会を設けている。しかし、例えば製造に特化した規模の小さい孫会社等まで全て対応出来ている訳ではないので、その場合は親会社から直接孫会社までカバーする仕組みに変更している。現状の体制が盤石とは言い切れないが、それに向けて準備を行っている。例えば、スペインで買収したバイオスティミュラントの企業は孫会社であり、ガバナンス体制は子会社を通じてとなる。但し、監査不備によって大きくブランドが傷付くリスクのある食品事業や、主力のヘルスケア事業、業績影響の大きいライフサポート事業については既に監査体制が出来ている。

    (直轄の組織で2年毎に監査を実施すると、どの程度の労力を要するのか、との問いに)年間30社程度を監査しており、複数チームがショットガンの様に動いている。海外で必要な監査も増えており、17-19中計期間中には北米と欧州にも監査部機能を設置しようと思っている。

  • 一般的にESGは企業が存続する限り対応しなければならない。一方で投資家は足元の業績に関心がある。ESGと業績は時間軸が異なるという印象があり、実際に会話が噛み合わない企業もある。当社はどの様に捉えているか。サステナビリティデータブックを拝見する中で、有識者アンケート調査では、「サプライヤーのCSR推進」について重要度を上げるべきという回答が複数出ていた。世の中では各社、CSR調達ガイドラインを発行する等、サプライチェーン全体でCSRを考えるべきという流れがある。その中で、当社はどの様な対応をしているのか。

    時間軸については、ESGに関わるものは、例えば、マイルストンとして2030年の国連持続可能な開発目標SDGs、2050年に人口ピークを迎える事による食糧問題への対策等を置いている。非常にスパンが長いため、業績とは時間軸が異なる。ESGは今から取り組まなければ達成できない目標がいくつもある。例えば、味の素冷凍食品社では、冷媒について2020年に脱フロンとして、フロン式フリーザーから自然冷媒或いは新冷媒へ100%切り替える事を目標としており、その達成に向かって着々と進んでいる。これは2005年頃に目標を立てた。早めにスタートし共有する事で、過剰なキャッシュアウトを招かないようにしている。定期的な更新のタイミングで新冷媒へ切り替える事が出来ている。ギリギリの対応をすると短期的なキャッシュアウトが多くなり、財務諸表が傷む。中長期のESG目標に対してどの程度投資をしていくのか、この感度を捉える事はIRの大事なポイントだと考える。また、現在約80名の有識者からご意見を頂いている。最初は、2005年に4名の方と対話をするところから始まった。当時はCSR経営、現在はサステナビリティというテーマになっている。この方々からは、サプライチェーンマネジメントの透明度を上げていく事を求められている。その中でも一番のポイントは強制労働・児童労働の問題である。これまで、安全・安心に関するトレーサビリティについては、サプライヤーと情報共有を進めてきた。日本ではお客様からの要請の中で、安全・安心に関する要請が最も強い。従ってそれを最優先に取り組んできた。一方で、欧米については安全・安心への対応は大前提であり、地球の持続性や持続的なサプライチェーンとして強制労働・児童労働が非常に関心事になっている。ここについては、ポリシーを持っているが、確かめていく手段や改善方法については、対応が追いついておらず、有識者から指摘を受けている。ここについては、17-19中計中にポリシーで遵守する宣言を出し、対応を整えていく。数年の内にその体制となっていくだろう。

    (ESGについては将来を見越して、今何をすべきかを考えているとの事だが、中計という3年間のビジョンだけでなく、長期ビジョンも提示しているのか、との問いに)統合報告書とサステナビリティデータブックをご覧頂くと、国連持続可能な開発目標SDGsについては、2030年の達成ではなく、前倒しで達成する事を宣言している。また、FY16は主要17項目に対する実態を調査しなければいけない部分があったため、この方針を先に決めた。これについては、2018年の早い段階でESG目標という形で17-19中計に差し込んでいくという考えを出している。従って、FY17の中計スタートの段階では間に合っていない。FY18よりその計画がオープンとなっていくだろう。但し、SDGsの中の環境に関する重要な部分については、温室ガス効果ガスの削減、フードロスの削減、食資源の確保と生態系・生物多様性を含む自然環境の保全、水資源の保全、廃棄物の3R(Reduce、Reuse、Recycle)といった重要5項目にフォーカスをし、前倒しで取り組む。その他、項目が広いため、皆様と当社の現状を情報共有し、実態を見て頂ける様なフォローアップをしていく案件もあるだろう。

  • 当社は食品セクターの中で、理念やESGに対する考え方が素晴らしい。今後どのようにその理念をグローバルに浸透させていこうと考えているのか。海外では現地に合った戦略を進めているが、それにより当社の考えが薄まり、ケースバイケースになるのではという印象を受ける。

    ASVの考え方を軸にして、戦略的にバリューを高めるかということを考えた際、課題解決の領域は4つある。①体の健康②こころの健康③共に食べる喜び④食文化の交流。栄養バランスの改善、共食の喜び、スマートクッキングを全ての国で戦略の核とし、メニュー開発、メニュー提案、企業広告等をスタートさせた。効果の測定として、インターブランド社による国別のブランド評価を実施。現地企業のコーポレートバリューが確立されれば新たなビジネスチャンスにもつながる。

    (製品戦略というよりはブランドを軸に、味の素グループをグローバルに浸透させていくということか、の問いに)概念的なことだけではない。当社の製品を通じては、一日の食事トータルでの栄養バランス改善という価値を提供できる。栄養バランスの重要性を認識していれば、製品提供により課題は自然と解決できる。しかしグローバルで見ると食育が全くなされていない国が多く、重要性が認識されていない。それに対しては、現地でビジネスをやっている食品会社がリードしていくということが非常に重要であり、また求められていると考えている。

  • CSVの社内浸透に非常に苦労している企業が多い。当社はASVを浸透させるべく様々な研修等を実施していると思うが、手応えはあるものなのか。

    ASVに対する社内の理解はかなり進んでいる。17-19中計の核がASVであり、その元となるCSVに関してはほぼ全社員に研修を実施。その知識をどのように戦略に活かすかという部分では悩みはあるが、悩みながらASVを拡大させていく。例えば、ガーナの栄養改善プロジェクトはCSVという観点ではまだ十分ではない。一方、ベトナムの学校給食の事例がベトナム全土に広がり、約4,000箇所ある小学校に導入できれば、栄養改善が進むと同時に当社の調味料「Aji-ngon®」が広く納品されていくということになる。これは明らかにCSVといえるものであり、FY16のASV大賞に選定した。その結果を、社内だけでなく社外の方々の目にも触れる統合報告書に掲載したことはインパクトがあったと思っている。ASVにより価値を生み出すにはどのレベルのことを実践すればよいか、社員が考えるようになってきているのではないか。

    (社員はASVを核とし考える習慣ができつつあるということか、の問いに)Yes。5年10年と継続していけば、より浸透し良いグループになると期待を持っている。

日本食品

  • 日本のコーヒー事業につき、アウトホームで飲む業務用の需要拡大というトレンドの中、家庭用に強みのある味の素AGF社は今後どの様に対応するのか。

    日本におけるコーヒー豆の消費量そのものは毎年堅調に拡大している。家庭での消費が減少する中、CVSのカウンターコーヒーの拡大やチェーン店の増加が要因だろう。AGF社はフレーバーの多様性がある家庭用スティックに強みがある一方、業務用のバラエティはCVSのカウンターコーヒーの比重が非常に高いのが現状。業務用の多様化が必要だが、まだ取り組みの途中である。

    (CVSは商品の改定サイクルも早くリスクが高いと思うが、どの様に捉えているか、との問いに)CVSのカウンターコーヒーにつき、突然事業が大きくなったと思われるかも知れないが、5年程かけて少しずつ大きくしてきた。テスト販売や機械対応等、細かな取り組みの成果であり、5年間の地道な活動のお陰で急速に立ち上がった。事業が拡大すれば何年か後に競合が参入し、一定のシェアを奪われる事は想定済。それを見越し、次の手として従来のブラックコーヒーだけの供給からカフェラテへと品種拡大を行っている。ブラックよりも少し価格が高く、またCVSでの機械導入対応が遅れている。FY18には業績貢献するだろう。詳細はコメント出来ないが、その次を見据えた検討も行っている。この種の事業については、常に顧客と共に先のニーズを読むしかない。

海外食品

  • 特にFive Starsに関し、トップライン成長の目標が高すぎるのではないか。FY17上期実績を見ても、現実的な達成可能性がイメージ出来ない。着実に成長はしているものの目標未達だとネガティブな印象になってしまう。

    全体を見直す必要はないが、タイの売上高目標は見直す必要があろう。調味料、飲料、即席麺と、当社が関連する市場が全て低調でこれが1年以上継続している。タイの構成は大きいので、全体の目標値にも影響するかも知れない。現在精査しているので、18年度の業績予想開示の際に触れたい。現状はトップラインの目標設定のみになっているが、事業利益のバランスもきちんと整理する。

  • 目標設定は現実的にして、超過達成した方がポジティブ。FY17下期の売上高予想が非現実的な印象。目標設定の仕方について一度整理してみてはどうか。

    参考にする。

  • 17-19中計を発表して直ぐにも関わらず、FY17中間決算の状況を踏まえて海外食品事業といった一番のGrowth事業の計画を見直さなければならなくなったのは何故か。海外食品事業のカバー範囲が広くなっているのは理解しているが、マネジメントが機能していないのではと不安に感じている。西井社長は各事業の実態を把握し、コントロール出来ているのか。

    当社は3ヵ年という中期的な計画を組み立てるのにかなりの精力を注いだ。一方で、足元の業績は様々な要素で変動する。特に、海外食品事業については、「味の素®」や風味調味料、メニュー用調味料といった安定的な成長をしている調味料と、それ以外の競争が激しい「Birdy®」、即席麺等の加工食品に分けられる。これまでは、加工食品の売上高変動を調味料の伸長でカバー出来ていたが、加工食品の規模が大きくなってくるとそれは難しくなり全体業績に大きく影響する。中期的なトレンドとしては、さほど大きな修正は必要ではないが、タイについては丁寧に見ていく必要がある。17-19中計において、CAGRは海外食品全体で11%成長、その中でタイを物品税除きで一桁半ば(4%)しっかり伸ばすという事で計画していたが、これについては見直しが必要と考える。

  • 中計最終年度のFY19でタイの売上成長率が4%に達しなかった場合、事業利益率はどの様に考えれば好いか。利益率をまだまだ上げていける余地はあるのか。

    利益率を上げられる余地はあると思う。タイについては、強い調味料と「Birdy®」ブランドの缶コーヒーとで区別して考えなければならない。調味料は利益率を上げられるだろう。飲料については、競争が激化しているが、競合の採算分析をする限りでは競合のコーヒーカテゴリーは赤字で戦っていると想定している。ここについては、競合の状況を見ながら対策を講じていく。また、調味料には「Ros Dee®」キューブタイプ、「AJI-NO-MOTO® PLUS」といった付加価値型商品がある。ユニットプライスを上げながらトップラインを伸ばし、GP率を改善する余地があると考える。

  • タイで8月に「Ros Dee®」キューブタイプを発売したが、手応えはどうか。

    調味料は回復してきている。「味の素®」、「AJI-NO-MOTO® PLUS」が伸長している。「Ros Dee®」も「Ros Dee®」キューブタイプも順調である。従って、懸念は「Birdy®」の動向である。

    (具体的に調味料はどの程度伸長しているのか、との問いに)一桁半ばで伸長している。

  • 足元の缶コーヒーの事業利益は改善傾向にあるのか。それとも競争環境激化の中で、上期の業績トレンドが継続してしまうのか。

    もう少し様子をみる必要がある。ただ上期と根本的に違うのは、8月発売の「Birdy®」Thai Milk Teaの売上高が下期はフルに寄与する事。これに期待をしている。全体的には、競合に攻勢を浴びていた部分の回復と、新商品の発売により「Birdy®」カテゴリーの回復を目指す。10、11月のトップラインの出荷は軌道を戻しつつある。残念ながら競合の1社は値上げを発表したが、値上げ前の価格の在庫が店頭に滞留している為、消費者購入価格ベースでは全て切り替わっている訳ではなく、徐々に置き換わっている。別の競合も値上げを発表したが具体的な切り替え時期は明示していない。当社商品は全て切り替わっている。

    (10、11月でまだシェアが落ちているが、12月以降は回復してくるのか、との問いに)11月の市場シェアは未だ把握していない。競合の価格が切り替わっていないので、様子をみる必要がある。

  • タイの飲料について、ローカル企業が何故この時期に缶コーヒー分野に参入してきたと捉えているか。また、当該競合企業はどの分野で稼いでいる企業か。

    エナジードリンクの大手企業。缶コーヒーは当社が「Birdy®」で、タイで初めて立ち上げた事業である。タイでは一般的なリフレッシュメントというよりは、カフェインによる眠気覚ましや活力を出すために飲用されている。例えば、トラック運転手がロードサイドの市場やCVSで購入し飲むといった事である。タイではエナジードリンクと缶コーヒーのターゲットがやや重なっている。従って、競合企業はその垣根を飛び越えて参入してきた。この戦いとは別に、「Birdy®」Thai Milk Teaを発売し、「Birdy®」よりもターゲット層を広げて展開していく。

    (タイではエナジードリンクと缶コーヒーへ需要のシフトが起こっているのか。)シフトした訳ではない。元々エナジードリンクの需要があった。そこに缶コーヒーが一部参入したと理解して欲しい。

  • タイは10、11月をみると缶コーヒーの値上げを実施もあり、全体として回復基調と捉えて好いか。

    缶コーヒーは11月1日に値上げをした事で、10月は仮需が、11月はその反動が発生している。10-11月では前年並み。また、競合は完全な値上げにはなっていない。足元の業績トレンドが継続するかは注視が必要。競合の1社は値上げを発表したが、まだ店頭価格は切り替わっていない。別の競合企業についても値上げを発表したが、実施時期は未定となっている。

  • ブラジルの事業構成比の大きな企業の顔色が明るくなってきたと感じるが、当社の手応えはどうか。

    政権交代後、明らかに不透明さが払拭されて消費が戻ってきていると感じている。

    (FY18はどうなるか、の問いに)もともと中産階級を中心に消費が強い国であり、ようやくリセッションが終わりコンシューマーフーズも通常の伸びに戻ってくるのではという見方をしている。

    (第3四半期、第4四半期に向けさらに成長が期待できるか、との問いに)ブラジルの食品事業は今順調に進捗している。法人全体としては動物栄養事業の売上高構成比が大きいので多少変動リスクはあるも、利益はコンシューマーフーズで稼いでおり、その点は好調。2018年10月には大統領選挙もあるので、その動向を見守りたい。

  • タイ以外のFive Starsに関し、現状成長スピードが鈍化しているが、アクセルを踏んで市場を上回る成長を実現すれば脱出できるのではないか。そのためには加工食品ではなく既存の調味料事業の取組みが大事になると思うが、既存事業をどの様に拡大させるのか。

    大きく分けて、Five Starsの既存事業は堅調な調味料と課題のある加工食品に分けられる。調味料は現状、「味の素®」と風味調味料が中心。加えて、今最も力を入れているのはから揚げ粉の様なメニュー用調味料。成長率目標は製品によって異なっており、イメージは「味の素®」で約2-3%、風味調味料は2桁近く。メニュー用調味料は20%以上という水準。タイ以外のFive Starsはそれに近い。但しメニュー用調味料といっても領域が広く、インドネシアではマヨネーズ、フィリピンでオイスターソースも展開している。国として都市化が進むと、かつての日本の様に調理行動の簡便化ニーズが大きくなる。現状手作りしている部分からのリプレイスが進むだろう。タイについては、商品展開の拡大が一段落レベルにまで至っているので、これから目標設定をアジャストする。

  • 現在、Five Starsにおける成長が鈍化している要因として、CVSの台頭に対応しきれていないことが主要因という理解でよいか。その場合、今後はCVSへの対応としてメニュー用調味料を強化するのか。

    CVSの台頭に合わせて強化していく中食の領域はおいしさソリューション事業であり、まだ十分な対応は出来ていない。これから強化し、将来の柱の1つにしたいと考えている。メニュー用調味料は既に事業化しているBtoCのブランド商品であり、着実に成長させていく。

  • 加工食品の課題への対応策について教えて欲しい。

    共通した戦略を持ちたいと考えている。その柱はフードサービス。チェーン店ではなく、日本の大手CVSの様なキーアカウントを押さえること。彼らと共同で商品を開発することで利益率の高い事業を増やしていきたい。ここは商品の提案から開発まで一貫した対応が求められるので、提供出来る競合が少ない領域である。例えばインドネシアやタイでも大手CVSの成長が著しい。いずれこれらのCVSが消費の中心となろう。プレゼンテーションでこの取り組みを紹介する際には、おいしさソリューション事業として開発の話を中心にしているが、開発だけではなくR&Dとマーケティングを一緒にキーアカウント向けの営業を行えることが当社の強み。これを横展開していく。顧客のコントロールタワーをサポートする様な事業だとお考え頂きたい。

  • 北米の冷凍食品の状況について聞きたい。11月のアナリスト説明会では、トップマネジメントだけでなく生産体制全体も見直していくという話であった。また、売上高成長が低迷した要因としてイタリアン製品カットの説明もあったかと思うが、それに対し現状どのような取り組みをしているか教えて欲しい。

    トップマネジメントとしては、ウィンザー社の買収後、2015年4月に新しいCEOを採用した。1,000億円弱規模の企業をマネジメントする経験を持ち、当社の考え方に即した付加価値型事業への転換に適した人材に来てもらい、CEOのリーダーシップを中心にマネジメント層の改革を進めてきた。工場のスクラップアンドビルドを計画したり、最適な体制に向けて生産の組み合わせを変えようとしている中で、生産の安定化という観点で課題が露呈してきた。生産マネジメントやサプライチェーンマネジメント観点から、ライトパーソンへの転換を行っている。具体的な事例として、AWI社の2番目の柱であるアペタイザーについて、従来はピードモント工場で作っていたが、売却してミズーリ州に新工場を建設。ハリケーンの影響で遅れていたが、概ね予定通り立ち上がり、12月から稼働させる。ピードモント工場では新工場設立後を見据えて在庫を溜めていかなければならないが、旺盛な需要の下で対応能力以上のオーダーを頂き、生産現場が混乱してしまい結果として上期+2%の成長しかできなかった。この様なチャンスロスが新工場で発生しないように体制の立て直しを図っている。イタリアンの失注については、それほど重篤ではないと思っている。AWI社はアジアン、アペタイザー、メキシカンが事業の柱であるが、その次にイタリアンがある。大手需要家からOEMを受けているウェイトが大きく、縮小はしてきているが、上期段階では10%程度の構成比が残っている。競争力がある訳ではないので、失注した。本来は、アジアンやアペタイザーといった主力事業でカバーしなければならないが、それができなかった。アペタイザーは生産面の問題で、アジアンは大改定をしたものの、大口顧客向けの出荷が8月末までずれ込んだ影響が大きかった。10月度の状況を見ていると、アジアンの導入が進み、失注分を一部カバーし、増収には転換してきている。4-9月では前年並みだったが10月度は増収。但し、新工場が12月に稼働されるため、生産の安定という観点では実効性が高まっていない。増収減益という状況が10月も続いている。しかし対前年で見た場合の減益額の幅は4-9月と比較するとかなりリカバーしてきている。伸ばすべきアジアンがしっかり伸びてきた結果である。

    (投資をした時の狙いと、短期的なイタリアンのカットや大手顧客向けの導入時期ずれは、構造的にどの程度大変な問題なのか。)アジアンカテゴリー自体がニッチなカテゴリーであり、競争が激化しない代わりに流通からすると取り扱いの優先順位は高くない。その為導入が後回しになり、今後もそのようなリスクはある。生産の安定性については大きな課題で、通常のオペレーションやサプライチェーンと生産計画をつなぐ部分が脆弱ということが露呈してきた。そのため、11月のアナリスト説明会では、リカバーはFY17で終わらずFY18にも続く可能性があるとお伝えさせて頂いた。

    (買収時、何をしていれば現在の様な問題が発生したと考えているか。どのようなところが失策だったのか、との問いに)今から振り返ると、生産を統括するチーフプロダクトオフィサー(以下、CPO)がいればよかった。将来のGP率改善の為に各工場における生産品目を集約しようとしているが、体制が整うまでは1つの工場で複数品目を生産するという複雑な計画を策定してしまい、そのマネジメントが現時点では上手くいっていない。優先順位を付けてまずはアジアンから対応した。次にアペタイザーについては現在着手中であり、メキシカンは来年度にスクラップアンドビルドをするという計画。CPOを設けていれば、工場再編計画全体の視点からアドバイスをもらえたかも知れない。トップマネジメントと9工場のマネジメントの間のコミュニケーションに課題があった。

  • AWI社について、長期視点でみると、マーケティング費用をもっと掛けて自信のある新商品を売っていくという戦略に取り組んでも好いのではないか。

    莫大なマーケティング費用になってしまう。アジアンがブルーオーシャンでなくなる可能性も出てくる。

    (あまり現実的な戦略ではないか、との問いに)Yes。メキシカンはその要素を持っているが、メキシカンはピザカテゴリーの様に、大きな市場であると同時に安値展開が主流となっている。よって、このカテゴリーにマスマーケティング費用をかけて大規模で戦うという事は考え難い。

    (プロモーションではなく、広告投資する事も現実的ではないか、との問いに)非現実的である。このカテゴリーは非常に高い導入フィーが掛かる。それを凌ぐだけの体力や規模が十分になければマス広告は有り得ないだろう。

    (アジアンに広告投資をし、認知率を上げるという戦略は検討しないのか、との問いに)北米の場合、広告宣伝費の考え方が随分変わってきている。企業は動画投稿サイトやSNSなど、売上規模に見合う範囲で広告投資している。浸透力の高いマーケティングが広がっており、その点はしっかりと取り組んでいる。

    (事業利益率10%を超えるであろう次期中計では、その様な戦略に取り組むのか、との問いに)まずは、事業利益率10%をクリアしなければならない。そうしなければ次の戦略に移れないと思っている。

  • 米国での冷凍食品事業について、今後ネット通販大手の食品事業強化もあり市場全体としてPBのOEMが増えていく流れも想定出来る。AWI社が強みを持つアジアンも今はニッチな領域だが、今後競合が参入し、競争が激化する可能性はあるか。

    生活者の購買の変化が米国全土で起きている。また、付加価値型の事業を狙えば必ずどこかのタイミングで競合の参入はある。但し、アジアン、アぺタイザーの領域はメーカーの中でも一定のレベルのものを作れる会社は限られている。例えば冷凍麺をおいしく作れるのは、技術的にも味の素東洋フローズンヌードル社しかない。フライドライスも同様で、AWI社並みのおいしさで作れる競合はいない。OEMが強化されるとしたら、当社に依頼がくるだろう。実際、ポートランドの工場でも一定の利益が取れる範囲でギョーザのOEM品を受託している。しかし例えばスナック菓子等は数多くのメーカーが生産可能で受け皿が多く、状況が違う。実際、当社が10年以上前に米国でギョーザの販売を開始したが、それ以降もギョーザの領域では競合状況に大きな変化はない。一方、メキシカンは受け皿となるメーカーがあるので、あくまで付加価値のある商品を生産出来る体制にして、罠にはまらない様にしたい。アぺタイザーについては、既にメーカーの集約が進んでいる。

  • 米国ではミレニアル世代が増えており、彼らの消費動向が全体に大きな影響を与え始めている。その影響で内需が増え、調味料需要が拡大するという声もあるが、どの様に捉えているか。

    ミレニアル世代の消費動向は世界各国で共通する部分が多い。どちらかと言うとナショナルビッグブランドを選ばず、ローカル・ナチュラル志向である。その層の規模が大きくなっている。代表的なのはクラフトビール。今後、世界的に都市型消費のメインストリームになるかも知れない。

ライフサポート

ヘルスケア

  • 5年、10年後のヘルスケア事業のビジョンを教えて欲しい。M&Aの可能性があるとすればどのような企業を考えているか。

    次期中計、もしくは更にその次の中計での話になる。CDMO事業ではオリゴ核酸医薬品と高分子医薬品の成長を計画しているが、少なくともオリゴ核酸については創薬に関わる部分が、高分子については臨床段階に入る部分が出てくるだろう。それに伴い売上・利益ともに飛躍的に大きくなると見ている。培地事業では、今はバイオシミラー向けが中心だが、今後はiPS細胞向けの割合が増え、売上に寄与する事を期待している。M&Aは創薬の規模による。中高分子医薬品についてはアルテア社の買収以降設備投資を実施し、十分に製造キャパシティを備えている。一方培地については、iPS細胞に対応していくという観点から、どこかの段階でM&A等の成長投資を考えなければならないかもしれない。

  • 米国のメディカルフード事業の買収についてもコア事業という位置づけではなく特定の狙いを持って実行したのか。

    メディカルフード事業はヘルスケアの領域だが、将来的には食品とのシナジーによる事業拡大を期待している。米国のキャンブルック社の株式を取得したが、彼らの販売している医療用食品は日本と違い保険の適用対象となる。フェニルケトン尿症等の先天性疾患をお持ちの患者さんや難治性てんかん等の特定疾患の方は現在食生活に様々な制限を抱えているが、キャンブルック社は日常食からお菓子、飲料まで提供している。それにより、食生活全体をコントロールしなければならない方々を全面的にサポート出来る。特定領域の方へのOne to Oneマーケティングを行っている会社であり、このノウハウは当社の食品事業とのシナジーが期待出来る。米国の医療用食品領域でしっかりと事業ポジションを構築し、将来的には日本や欧州にも展開したい。

    (プレスリリースに記載の、2027年の売上高目標100億円の位置づけは、との問いに)米国の医療食事業としての目標値であり、食品事業とのシナジーは織り込んでいない。難治性てんかんの方は糖質コントロールが必要だが、一方でエネルギーも摂取しなければならない。当社はヘルスケア領域の食品としてはサプリメント類しか持っていないが、キャンブルック社は糖質コントロールされたパンも有しており、例えばこの領域で当社が国内外で展開しているベーカリー事業とのシナジーも期待出来る。人口の多い米国では一定の割合で必ず特定疾患の方は生まれてしまうので、糖質コントロールされた食品事業のノウハウとして応用していきたい。