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2017-2019中期経営計画(以下、17-19中計)のKPIとして挙げているブランド価値に関して、2018年のデータでは当社ブランド価値が昨年対比で上昇しているが、株価は下落し事業利益は前年並み。この乖離をどのように考えているか。
FY2017は統合報告書を中心にESGに対する取り組みの開示を丁寧に行った。特に17-19中計において財務と非財務の目標を統合価値としてブランドに結び付けた事が評価されたのだと思う。業績によって順位が高まったとは捉えていない。これまでは時価総額に比べて「味の素」ブランドの評価が低かったと思う。中期的には業績とブランド評価はリンクすると捉えており、今後更に評価を高めるには事業成長が欠かせないだろう。
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17-19中計の達成を一年後ろ倒しにするとのことだが、それがさらに未達だった際には、マネジメントは株主に対してどう考えているか。また次期中計のスタートはFY2021となるのか。
未達とならないよう、しっかりとマネジメントしていきたいと考えている。また、次の中計はFY2021ではなくFY2020のスタートとなる。3か年単位で投資やキャッシュマネジメントの計画など、マネジメントポイントを見直している。
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17-19中計における非財務目標達成に向けた取り組みの中で、難易度が高いものがあれば教えてほしい。またFY2017、CO2削減目標に対する進捗は良いとのことだったが、どのような状況か。
非財務目標に対する取り組みは概ね上手くいっている。グリーンハウスの取り組みやガバナンスなどは計画より前進している。栄養改善などに関する取り組みはインラインだろう。課題があるとすれば一点、森林破壊に関するテーマ。2020年までにパーム油を認証パーム100%に切り替えるという目標を持っているが、認証パームのサプライが非常に限定的になっており、調達が難しくなっている。これに対しては、グローバルジャイアントと一緒に取り組んでいるThe Consumer Goods Forumで、共通の要求として認証パーム油の枠を増やしてもらうよう、近々要望書を出す予定である。
CO2削減については、当社は2020年までに、バイオマスボイラーを中心とした既存CO2の削減と、グリーンハウスガスの権利購入などで、再生エネルギーの割合を28%まで高めようとしており計画通り達成できるだろう。2030年のパリ協定やSDGsを見据えたチャレンジについては、さらに範囲を広げていくことが必要となる。
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ESGの観点も含め、グローバル食品企業トップ10入りの企業と当社を比較した際にどのような差があると考えるか。
ESGまで含めた目標設定とポリシーの表明がようやく17-19中計から整った。今まではトップ10企業と比較しその点が遅れていたので、水準は追いついてきたと思う。一方、事業利益や株主還元という点ではまだギャップがある。1,300億円規模の事業利益というのはどうしても必要なレベルであり、そこに課題があると考えている。
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海外における事業地域の拡大を図っているが、同時にグローバルガバナンスの難しさがあると思う。昨年、グローバルガバナンス体制の再編を実施したが(「統率するHQ」、「任される現場」)、新体制での成果、課題など教えて欲しい。
2018年4月に経営のトップサポートを強化する為に組織再編し、グローバルコーポレートとして括り出した。これにより、成長の加速と経営基盤の強化を実現する。また、特に国内においてはバックオフィスの統合等で管理コストを集約し、売上高に対する管理コスト比率を現状の3.2%から2020年までに2.5%に圧縮する。具体的には17-19中計でも掲げた通り、基幹システムの更新により、業務の標準化を行う。味の素㈱としては2020年に更新するが、味の素冷凍食品社、味の素AGF社(以下、AGF社)といった主力関係会社にも2021年から同一システムを導入予定。ガバナンス体制の成果としてはこれらの仕組み、具体的な計画をまとめた事で、課題はこれらを実行していく事だと捉えている。
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「取締役会の実効性評価概要」の中で、社内取締役の発言を増やすということであった。どのように活性化していこうと考えているのか。
工夫している点は、まず社内取締役の人数を減らし、社外取締役の構成比を1/3とした。それにより、社内取締役の監督機能も非常に大きくなってきている。社外取締役のウェイトが高まると、社内取締役の発言も同時に増えてくる。取締役会のテーマについても、重点的に議論できるテーマに絞っている。
中長期の成長戦略などについては、取締役会の中では消化しきれない部分もあり、フリーの討議機会を増やしている。また、コーポレートガバナンス委員会を、任意委員会に加えた。西井、栃尾専務の他に、1名の社外監査役、3名の社外取締役にも入っていただき、取締役会の実効性を高めるためにどのようなことが必要かという深い議論をしている。このように別の場を設けることも非常に有効だと思っている。
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アメリカにおける、MSGに対する誤解を解く活動について、手応えはどうか。
FY2018がいよいよ勝負だと思っている。9月20日、21日にニューヨークで、World Umami Forumを開催する。世界各国から200~300名のキー・オピニオンリーダーをニューヨークに集める予定。内容は検討段階であるが、MSGをうま味調味料の中の一つと位置付けること、MSGの持つ減塩という機能にフォーカスすることが決まっている。
また、なぜMSGが悪者になったのかという歴史について、アメリカの社会科学者にレビューをしていただき発信する。事前調査では、アメリカ人の28%がうま味に対しポジティブなイメージを持っている一方、MSGに対してはネガティブなイメージもしくはよく分からないという人が多い。ただし昔のような根強いネガティビストの勢力はかなり小さくなっており、「なんとなく悪そうだ」という意見が増えているため、うま味とMSGの関係性、MSGの減塩機能について説明できれば、誤解はかなり解けるのではないか。
本計画は、全員アメリカ人で行うものであり、アメリカ人による、アメリカ人に対するMSGの正しい情報発信という点が非常にユニークな点である。
また本フォーラムには新興国からもお招きする。それらの方々が自国に戻り発信できるネットワークを作るということであり、2017年10月にAGB(Ajinomoto Group Global Brand Logo)というグローバル共通のブランドロゴに変えたのも、その受け皿を作りたいという意思。Five Starsなど、「AJI-NO-MOTO®」が売れている地域でも、MSGに対する誤解はあると思っている。おいしさに対するエビデンスがきちんとあり、健康栄養に貢献できる商品だから売れる、というように認識を変えていきたいと思っている。
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ベトナムの学校給食のような事例は、今どの程度広がっているのか。
タイでも同様の取り組みを始めている。
ベトナムでは、ハノイ医科大学にアプローチをし、栄養士を作るというところから始まった中で、ベースの食育の必要性も浮上し、今の学校給食プロジェクトに至った。
タイではマセドン大学を通じてタイの保健省、教育省とも共同でプロジェクトを開始したところである。タイはベトナムよりインフラが強く、影響力も大きいためベトナムほど時間をかけずに実現できるのではないかと考えている。
Five Starsを中心にアプローチしているが、ベトナムのレベルまで踏み込んで進められる感触を得ているのはタイだけ。国によっては行政や大学の影響力が弱かったり、組織が独立しているところもあり、工夫の必要があると思っている。
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高齢者のたんぱく質摂取量不足によるサルコペニアなどの社会問題を解決するために、「アミノエール®」以外の切り口で当社が関与できることはないか。
我々の栄養ポリシーは大きく3つある。1つ目は毎日の食事を通じた栄養改善。2つ目は人と一緒に食べたり、調理時間を短くすることによって生まれる心理的なプラスの側面。3つ目はエビデンスに基づく訴求。例えばたんぱく質については、一日60g必要と言われているが、高齢になってくると食事だけで摂取するのは難しいが、「アミノエール®」を利用することで効率よく補強できる。このバランスで今展開をしている。
象徴的な取り組みが、「勝ち飯for高齢者」という東京都の北区で行っている取組。毎日の食事を10日間記録する「しっかり食べチェックシート10」というフォーマットやメニューを当社が開発し、北区がPRする。それをスーパーマーケットの現場で形にするという内容であり、日本各地で似たような取り組みが進んでいるとお考えいただきたい。
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「勝ち飯®」や「アミノバイタル®」など、日本のアスリートの活躍には、当社の存在が大きいと感じている。これを日本だけでなく、世界のアスリートに向けて展開することは考えていないのか。
日本以外では、韓国、ロシア、シンガポール、一部製品のみだがブラジルで「アミノバイタル®」を展開している。アミノ酸製品であるため、国により規制が異なり、すぐに展開できる国とそうでない国があるが、マーケティングの手法は日本同様、トップアスリートから展開していく形。北米では現地独自の製品開発を行っており、一般の消費者、例えば忙しい主婦の方をターゲットとしたユニークな製品展開を始めているところである。
アスリート支援について、日本ではJOCとの取り組みが非常に深く有効に機能している。同様に、タイやシンガポールなどではトップアスリート支援の活動を始めたところである。
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働き方改革について、具体的にどのような成果を実感しているか。また成果評価とどのようにリンクをしているのか。
働き方改革の成果は味の素㈱の年間総労働時間が1,842時間になり、対前年で約70時間短縮出来た。業績が伸びていないので評価は分かれるかも知れないが、効率性は上がっていると思う。これは主に2つの取組みによる成果だと捉えている。1つ目は情報インフラを整備し、出社しなくても業務が出来る仕組みやペーパーレスを実現。もう1つは残業時間短縮による生活への不安を低減する為に5,000円のベースアップを実施した。
先行投資については、紙の削減や出張費減少により1年間で8割くらい回収する事が出来た。働き方改革を進める事で経済的リターンがある事を確認すると同時に、効率化についてはまだまだ余地があると思っている。
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少数株主の株式買い取りについて。仮に買い取った際、事業運営上どのような改善が見られるのか教えて欲しい。主にタイ、インドネシアなどかと思うが、どのようなオペレーションを目指すのか。
アジアについては、歴史的に少数株主がパートナーとして必要であったため、現在の構造になっている。タイとインドネシアについて、少数株主の構造が違うため同様には言えないが、両法人ともかなり利益を生むようになってきている。
将来大きく配当した場合、キャッシュが親会社に帰属しないことになる。現在は、味の素グループのキャッシュを日本に一度集約しオペレーションしているが、タイくらいの規模になると、キャッシュプールが現地で回せるようになり、手数料や為替リスクの問題、また現地通貨による投資など様々な観点から、財務戦略上の融通性が今よりかなり高まるだろう。
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タイ飲料、米国冷凍食品、国内コーヒー3事業の回復、成長を懐疑的に捉えている。回復に向けた戦略や時期を教えてほしい。
タイの缶コーヒー事業は市場が停滞しているが、これは短期的なトレンドではなく市場がその様なステージに入ったと捉えている。この3~4年、コーヒーのアウトホーム化が急激に進んでいたにも関わらず、それに対する打ち手が遅れた。またローカルメーカーが台頭した際、当社の品質上の優位性が相対的に低下してきていたが対策に後手を踏んだ。FY2018は改めてロイヤルユーザーを囲い込む事により、失ったシェアを取り戻す。今のところ成果は出ているが、本質的にはFY2019に抜本的な品質改定による回復を見込んでいる。これにはAGF社の技術とノウハウを用いる計画である。
北米冷凍食品については、買収時に分からなかった生産オペレーション力の弱さが露呈した。対策としては、細かい生産性のKPIをきちんと管理し改善する日本の強みを導入すべく、日本からのサポートを強め、現場の工場長の体制も整え、今後一年間かけてやっていこうとしているところである。具体的に、アペタイザーについては、5月18日に旧ピードモント工場の売却が完了。新工場は3ライン中2ラインの移設が完了(*ミーティング開催後、6月末までには3ラインの移設が完了)し、安定生産が出来る様になった。メキシカンは従来生産を委託していた工場を買収したので、計画通りに当社のオペレーションを導入していく。従って、足場固めの年と位置付けたFY2018の目標を達成する為の体制は整ってきており、アペタイザーとメキシカンのスペシャリティ化によるトップラインと生産の安定化を実現出来れば、FY2019に利益のV字回復を達成出来ると思っている。
一方、国内のコーヒー市場はFY2018になって更に競争が激化。FY2018は5%のトップライン成長を目指しているが、2か月終わった段階で黄色信号という状況。リキッドコーヒーとインスタントコーヒーを市場並みの成長に戻せるかがポイントになろう。また、アウトホーム需要をどの様に取り込むかについては様々なチャレンジをしている状況なので、FY2019に回復出来るという確証がある訳ではない。
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FY2018の業績予想には発酵主原料等の価格上昇影響を82億円織り込んでいるが、その主要因であるタピオカについては予想作成段階からある程度分かっていたと思う。この様な環境における価格転嫁の考え方を教えて欲しい。
副原料のアンモニアや苛性ソーダなどについては、価格上昇トレンドが長く続くと見込んでおり、業績予想作成の段階からコストダウンや低資源利用発酵技術によって吸収する計画を立てた。しかし主原料についてはFY2017下期に通常と異なる価格トレンドとなり、コストアップを吸収する施策を詰めきれなかった。タイのタピオカの収穫期は年に一回、10-11月ぐらいであり、この時期には供給が増えるので相場が落ち着いてくる。しかしFY2017は第4四半期になっても下がらずに値上がり方向に動き、これにより決定的な供給不足が露呈した。その為、2018年の収穫期を迎えるまでは、足元の高い相場が続くだろうと想定し業績予想に織り込んだ。このトレンドは中期的には落ち着きを見せるとは思っているが、FY2018についてはその影響を受けると見込んでいる。Five Starsの中でインドネシア、タイ、ベトナムにおいては発酵主原料としてタピオカを用いており、これらの国のコストに効いてくるだろう。その為、すでに値上げを実施した国、現在検討している国もある。
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コスト低減の取り組みについて。低資源利用発酵は、第1世代がサトウキビやトウモロコシを原料にした発酵技術、第2世代が非可食のバイオマス、第3世代では藻を使用するとのことだが、当社はどこまで進んでいるか。
当社の低資源利用発酵は、第1世代の中でどこまでやれるかということで今取り組んでいる。ただし技術的なレベルでいうと、発酵菌の能力アップについて、様々な原料が使えるようになる、もしくは副原料を使わずに発酵ができる技術開発は2022年くらいまでに完成する。それ以上は発酵部門だけでのコスト競争力は高まらない。当社の技術によるコスト競争力と、競合の技術力、コストダウン力を比較した時、自社生産の縮小を決断したのが動物栄養事業。もちろん基礎ベースで、藻類の可食に関する研究開発は行っているが、具体的なビジネスプランに落とせる段階ではないと説明しておきたい。
(オンサイトアンモニアの研究をしているとのことだが、どこまで進んでいるか、の問いに)
FY2019に、いずれかの工場で東京工業大学と一緒に実現したいと思っている。理論値通りの事業利益を出すことができれば、2021年~2022年にかけて、海外における当社の発酵工場で置き換えを実施したい。2025年までに主要な工場、そして2030年までには全ての工場でオンサイトアンモニアへの置き換えを期待している。事業利益計画にはこれを織り込んでいないが、ESG目標であるグリーンハウスガスの削減というテーマについては、一部を2030年までの達成目標に織り込んでいる。
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直近の買収企業とのシナジーは具体的にどのように表れているか。タイの缶コーヒー事業とAGF社のシナジー効果を日本で発現させる事は可能か。
トルコでは2018年8月に従来の事業と買収したオルゲン社、キュクレ社を統合する予定。フランスでは冷凍食品のLTS社を買収し、実績は順調に推移している。ギョーザを中心とした従来の当社事業をメインストリームで展開していく事を期待している。
スペインではアグロ2アグリ社(以下、A2A社)という農業資材の会社を買収。主に医薬品の製造受託をしているベルギーの味の素オムニケム社が製造プロセスの中で発生するコプロを農業資材として販売しているので、A2A社の販売チャネルを活用して拡売を図る。また、タイにおけるコーヒーのアウトホーム需要に対し、AGF社のノウハウを活用出来ないか、トライアルが始まっている。タイの缶コーヒー事業を日本で展開する事は考えていない。
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2018年4月に開催された統合報告書トピックス説明会を受けて、当社の揺るぎないアミノ酸に関する研究・技術をマーケティング、商品へつなげる際にまだ強化余地があるのではないかと思う。現状の認識や課題について教えて欲しい。また長期的に見て、次の成長の柱を作るとしたらどの分野になるか。
Client Innovation Center(以下、CIC)では、これまで「先端バイオ・ファイン」と一言で言っていたものを、37の技術に分類し見える化をした。基本的にCICに展示した技術は全て事業に貢献しており、例えば年間約20億円のコストダウンを実現している低資源利用発酵技術も展示された技術の応用である。
次の成長の柱としては「おいしさソリューション」と表現しているが、食品を加工する時に調味料だけでなく素材やもの作りのプロセスまで提供する事業に期待している。例えばCICに展示した技術から生まれたコク味物質は、まずは自社製品に使用したが、今後は外部にも販売していく。これは「おいしさソリューション」の出口の1つである。今後、発酵フレーバーも事業化されよう。
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ビッグデータ分析やAI活用などの先端的手法もある中で、マーケティングデータの収集や分析はどのような体制やシステムで行っているのか。またそれをベースとする商品開発への流れはどのようになっているのか。
マーケティングデータの収集、分析の手法として、市場データを購入するというのはどの企業も変わらないが、生活者の購買行動をどのような切り口で見るかという点は各社のユニークネスが出る部分だと思う。生活者の嗜好調査、メニュー調査、購買行動調査を当社も独自に定期的に行い、マーケットデータとクロスさせ新しい製品やマーケティングへつなげるということを、国内外で行っている。サプライチェーンマネジメント全体の効率化という観点では、生活者解析事業創造部を2018年7月に新設する。味の素㈱、味の素冷凍食品社、AGF社それぞれに持っていた機能を集約化させる。
またECを使った生活者の購買ポイントについては3つの考え方があると思う。一つは自社通販。2つ目は例えばAmazonのようなオープンマーケット。3つ目はリアル店舗を持っている流通のネットサイト。自社通販に関しては当然多くの生活者データが蓄積されているが、それ以外の2つについても取り組みを開始。2018年4月に日本の家庭用事業部に機能を集約させ、共同でID-POSの解析、マーケティング手法の開発、製品対応を開始している。
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発酵ナチュラルバニリンの進捗について教えて欲しい。
おいしさソリューション事業をコントロールする部署として、ソリューション&イングリディエンツ事業部を新設した。発酵ナチュラルバニリンについてはこの中にイングリディエンツとして取り込み、それをお客様に向けて提案できるよう切り替えていく。今、サンプル製造まで行った。これだけでは商売はできないので、ビジネス展開ができるようなモジュールの完成に向かって動いている状況である。
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日本の食品事業について、付加価値化を進めて平均単価を上げるという戦略だと思うが、現時点の製品ポートフォリオは理想的なのか。例えばM&Aを実行すれば、短時間で製品ポートフォリオの入れ替えを実現出来ると思うが、どのように考えているか。
主力ブランドと、圧倒的なトップブランドになっているものは、付加価値型の製品に切り替えていくことが出来ると思っている。それを実現しているのは、例えば「Cook Do®」や「クノール®」ブランド。また、冷凍食品でもギョーザやチャーハンはシェアポジションが高いと同時に、絶えず品質改良を行っている。
M&A後まで考えた時、統合は現実的ではないと思う。日本の食品メーカーは人材を抱えすぎている側面があり、M&Aを実行それば、それを抱えてしまうことになる。従って日本においてはまだハードルが高い。
海外で買収した製品を日本で販売する、もしくはその逆ということはあるかも知れない。例えば、フランスで冷凍食品のLTS社を買収したが、大変優れたデザートの技術とブランドを有しており、これを日本などで展開する事は十分可能だと思っている。また、キャンブルック社という医療食の会社を米国で買収した。これは代謝に先天的に異常のある患者様向けの日常食を提供している会社だが、現在、事業をニュージーランドやドイツ、フランスなどに広げようとしているが、これには味の素グループのネットワークも活用できるだろう。更にこれを日本で展開することも検討しており、当社の機能性栄養食品の事業や、CDMOのビジネスで構築した医療関係のネットワーキングとも上手く繋げることが出来るだろう。そのような観点で食品のポートフォリオを広げるということは、今後もやっていきたい。
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日本の各事業の利益率について、生産体制の集約化や物流コストの改善に着手するという事だが、少量多品種生産化をすると利益率が悪化するリスクはないか。また、冷凍食品とコーヒー事業については高くても10%程度の利益率が限界なのではないかと思うが、その様な理解で好いか。
調味料は多くのカテゴリーでトップブランドを持っているので、17~18%の利益率は維持したいと思っている。一方で20%を超えてしまうと、様々な隙も生まれてしまうので、そこまで高める事は考えていない。冷凍食品は単品としてはギョーザ等の非常に強いトップブランドも持っているが、家庭用、業務用ともに全体としては2-3位というポジションなので、まずは全体として10%の利益率を目指すという事業である。特に業務用は課題も多く抱えているので、改善の余地を残している。コーヒー類については、スティックコーヒーの様なスモールカテゴリーでのナンバー1製品もあるが、全体からすると圧倒的ナンバー1は他社である。バリュークリエーションに取り組んではいるが、簡単に10%を超える利益率にはならないと思うので、まずは10%を目標にしている。
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これまで尖ったニーズの商品がヒットしなかった要因は何か。技術的な優位性があるが故に、マーケティング面での消費者への響かせ方が弱かったという事はないか。
マーケティングは総合力であり、ディストリビューションを開拓したり、他社との連携を実現するのもマーケティングである。特にこの面のチャンスが、ECの発達により広がったという事。当社が運営するAJINOMOTO PARKというホームページには約123万人の登録会員がおり、これまで主に管理栄養士が監修した、栄養バランスの取れたメニュー提案を行っていた。2018年4月からAIを導入し、単品メニューではなく献立(主食、主菜、副菜)の提供を行う様になった。会員のニーズは一品メニューだけでなく、バランスの取れた食事全体の提案である。ここにECとの連携を強化出来れば、更に販売に繋がるだろう。
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国内冷凍食品、国内コーヒー市場で業務用市場に変化が起きているとのことだが、当社の打ち手を具体的に教えて欲しい。
今までのBtoBビジネスと、外食レストランや中食向けのビジネスを推進するために、2018年4月にソリューション&イングリディエンツ事業部を創設した。加工用メーカーに対するおいしさや保全性、合理化要素のつまった素材を、外食用や中食用に直接販売していける体制を作ろうということ。従って、この中にAGF社も味の素冷凍食品社も参画し、キーアカウント型のビジネスを増やしていきたいと思っている。
川崎に建設したクライアント・イノベーション・センターは技術メンバーの中に事業部が加わり、ダイレクトにソリューションサービスを提供できる機会を増やすために新設した。研究所に関しても2020年までに段階的に、当社の食品研究所を拠点とし、クノール社、AGF社、味の素冷凍食品社の研究所を集約していく。それによりお客様起点でアジャイルな体制になると考えており、ここを強化することが重要なポイントである。
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国内コーヒー事業については、様々な市場の変化もあり、100%子会社化した当初の想定通りになっていない事も多いと思う。長期的にこの事業をどうしたいのか。過去数年、比較的小規模なM&Aを複数行っているが、買うだけでなく機動的な事業売却も必要ではないか。また、キャッシュの使い方として大型のM&Aも考えられないのか。
事業ポートフォリオの組み替えについては常に検討しており、買収も売却も行っている。その点は市場からも一定のご評価を頂いていると思う。AGF社が現時点でその対象かというと、そうではない。しかし長い将来にわたって毀損した事業を保有するというのは、キャッシュの使い方として間違っていると思うので、厳格に判断をしていく。大型のM&Aについては常にウォッチをしており、その結果として事業ポートフォリオが大きく変わる可能性はある。
(AGF社が今後成長軌道に回復した場合、その後の事業の在り方をどの様に考えているのか、との問いに)
AGF社に期待する事は、当社がアジアで展開している粉末飲料事業にノウハウと技術を応用する事である。また、これまでパーソナルスティックの製品で市場を創造して成長してきた戦略は正しいと思っているし、まだチャンスのある市場だと思っている。ところがアウトホーム化について言うと、CVSのカウンターコーヒー市場を創造したところまでは良かったが、それに続く価値創造が遅れている。アウトホームの市場はまだまだ大きなポテンシャルを持っているので、巻き返していく。国内外を合わせたコーヒーの事業全体から言うと、今後の持続的な成長にはコーヒー豆の安定調達も大きな要素になる。この点では海外食品事業で強いポジションのあるブラジルなどで生産者支援を行い、原産国とのパイプを強めている。中期的には、このような点でも優位性が出てくるのではないかという期待を持っている。
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以前は多くの企業で、グループ会社ごと縦割り体制だったかと思うが、今その弊害が出てきている。当社にとって、今後も縦割りの組織を残したほうがよいのか、あるいはオール味の素として、顧客単位で一人のビジネスパーソンが担当する仕組みにした方がよいのか。
当社の場合は段階的に進めたほうがよいと思っている。例えばECなどでは、ECに向くビジネスについて先に取り組んでいけばよい。既存の流通チャネルに関しても、中食向けの調味料ビジネスやコーヒー事業についてはどれだけ付加価値を生めるかということを、トップラインを守りながらやっていく必要があるだろう。
グループ各社のコスト構造は全く違う。それを維持することにより今の事業利益率があり、簡単に同じ企業にすることは難しい。専門性の高いパートを持ち寄り、アジャイルな開発体制にし付加価値を生むことは体制を一つにしなくても可能だと思っている。
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国内の工場再編について。製品の需要構造が思っていたイメージと異なってきた場合、それに対応できるフレキシビリティは備えているか。
製品を全て自社生産化する必要性はないと思っている。コアブランド、キー・イングリディエンツになるものは自社生産すべきでありフレキシビリティを備えるべきだが、そうでないものについてはアウトソーシングを組み合わせる前提ということでご理解いただきたい。
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値上げに関して、人件費、物流費など様々なコストが上昇する中、FY2018はまさに値上げのタイミングなのではないか。
総じて、日本での値上げはなかなか難しいだろう。ただ、強いブランドやリーダーカテゴリーについては今まで通り対応していきたいと思っている。
当社は原材料事由だけで値上げをしたことは一度もない。人件費や為替の長期的なトレンドなど様々な要素を反映して値上げを行い、できる限り製品の価値向上を併せて実施することで流通にも還元されるようにやってきたつもりである。今後もその方針に変化はない。
(長期で見た際、持続的に利益率を上げるべく値上げをするというのは日本ではまだ距離があるか、の問いに)
Yes。一般論ではかなり距離があると思う。但し、強い商品を持っているところはチャンスがある。重要なポイントは、現在の生産性はまだまだ低いということだ。生産体制再編は、市場の需要に合わせて生産性を高めるための集約であり、オートメーション化である。また、バッチ型の生産に切り替え、少量多品種型の生産が可能となるようにしていく。
同様の観点で物流を見ると、日本の食品会社の物流費用は、売上高に対し6%前後。積載効率は40%しかない。各地にある古い配送センターが自社センターという名目で投資がなされ、全く回転していないという状況は多くある。それを合理化することにより、人手不足や環境問題など、様々な観点で改善できる要素は多くある。
また、当社のコーポレート部門の費用は売上高の3%を超えており、グローバル基準に合わせ2020年には2.5%を実現したいと思っている。このように、単に値上げをするだけでなく、国内においてはまだできることがたくさんある。
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Five Starsの足元の状況を教えて欲しい。
2018年4-5月としてはタイが好調にスタートした。これはFY2016末に販売強化した反動でFY2017の第1四半期のハードルが低い事を差し引いても、良いスタートである。一方、少し低調なのはフィリピン。グローバル大手企業との競争が激しく、想定よりも低調なスタートとなった。インドネシア、ベトナムは順調である。
トピックスとして、ブラジルは4月好調だったものの、5月21日から全土で物流企業の大きなストライキが発生した。当社の出荷もこの間かなりの影響を受け、5月度の出荷計画量に対して35%ほど出荷できない状態であった。6月4日頃に本ストライキ解消の目途が立ってきたということで、それ以降は出荷を復活させることが出来ている。この間、一般生活者の日常にも影響が出ており、ガソリン不足で町に出られないということも起きていたので、この分を取り戻すのは難しいかも知れない。生産の観点では、ブラジルはMSGの大きな輸出拠点にもなっているが、原料が届かない等の理由による生産調整のために1週間ほど停産せざるを得なくなった。この分、第1四半期のコストアップになってしまう可能性がある。
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タイの自動車やトイレタリー業界の動向を見てみると、前国王崩御によるFY2017の景気低迷は既に脱しているのではないかと思うが、タイの消費環境をどの様に捉えているか。
2016年10月に崩御され、2017年の10月に正式な葬儀が終了するまでは国として喪に服すという状況で、消費活動も自粛されていた。葬儀も終了した今、その状態からは回復しつつあると思っている。従って市場全体は回復傾向にあるという認識。但し、缶コーヒー事業を取り巻く環境の構造的な変化に変わりはないので、目標、戦略を着実に実行していく。
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タイにおいて、日本同様CVSのカウンターコーヒー事業のチャンスはあるか。
タイにおいてはRTD市場の伸びが停滞している。要因として、物品税の影響は大きいが、カフェ等においてこれまで飲めなかった品質のものが飲める様になったという変化も見逃せない事実だろう。缶コーヒーとCVSのカウンターコーヒー等のアウトホーム需要には両方取り組まないといけない。嗜好品であるコーヒーに向けられる消費金額は階層によって差があるので、比較的手頃な従来の缶コーヒーも高付加価値のアウトホーム需要もどちらも重要。マーケット全体の消費トレンドとしては、前国王の喪が明けたので少しずつ戻ってくるだろう。
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Rising Starsについて、17-19中計時の目標に対する進捗はどうか。タイのように軌道修正が必要な国はあるか。
Rising Starsの成長の中では、トルコにおける新規連結が寄与する部分が大きい。今3社統合に向かって順調に進んでおり、計画通りとお考えいただきたい。
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コンシューマー食品の分野で、スペシャリティと認識していた商品のコモディティ化が進んでいると懸念している。以前、事業利益率10%以上であればスペシャリティと判断しているとの事だったが、認識に変化はないか。マーケティング、販売手法など見直す必要はないか。
コンシューマーのコモディティ化は調味料においては認識していない。特に「味の素®」、風味調味料、メニュー用調味料についてはかなり高いスペシャリティがあると捉えている。事業利益率10%は平均の話であり、今でも調味料はもっと高い。一方、加工食品はポートフォリオを広げるという観点からコスト先行になる側面があり、それらを組み合わせで全体として10%以上というのを1つのベンチマークにしている。
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今後、海外事業のエクスポージャーが増えていくことを前提として、事業を営む海外の国において政治リスクが高まった場合、もしくは大規模災害が発生した場合に備えてどのような対策をとっているのか。また、財務面において、キャッシュインフローにおける円貨が占める割合が減っていくことが考えられるが、長期的なAsset Liability Management政策を教えていただきたい(為替リスクヘッジ政策や海外子会社によるダイレクト資金調達の可能性を含む)。
政治リスクについては、当然日本の対策本部のガバナンスを効かせる体制をとっているが、全てを見られるわけではなく、基本的に5つの地域本部に大きなカントリーリスクに備えられる出先を作っている。地域本部長にかなりの判断を委ねつつ、情報はきちんと東京に上がり、それに対し備えられるようにしている。特にリスクの高い中東、アフリカ等の国についてはリスクマネジメント会社と契約をし指導を受けており、社員の多いアフリカ等は定期的に訓練も行っている。
大規模災害については、阪神大震災と東日本大震災を受け、ビジネス・コンティニュイティー・プラン(BCPプラン)を明文化し、緊急時の体制がとれるようにしている。従業員の安全を最優先にしながら最低限ビジネスを行っていくためのプライオリティを決めている。生産拠点、在庫拠点についても複数箇所設け、リスクヘッジしている。
円貨が占める割合について、現在は基本的に味の素㈱がキャッシュを一括管理し、味の素グループ内で資金の融通ができるような仕組みとなっている。ただし17-19中計で発表した通り、アジアを中心とする少数株主の株式買い取りを進め、持分を100%に近づけるよう動いている。それが上手くいけば、特にキャッシュインの多いタイなどでは現地で資金運用するように今後切り替えていく可能性もある。
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FY2019以降、海外の調味料・加工食品については再び2桁成長を目指すのか。もしくは現状の1桁後半程度か。
タイの飲料事業の課題と足元の成長率も見直した上で、FY2019までのCAGRを+6%と少し下方修正した。200億円程度の規模となったメニュー用調味料については2桁ペースで継続伸長すると見ているが、その成長が加速すれば調味料・加工食品全体の成長率も上がると考えている。また、ポートフォリオの拡大という観点では、タイの冷凍食品やインドネシアの冷凍パンなどの種蒔きはしている。これが形となってくれば、再び2桁成長を狙える可能性がある。
(タイの冷凍食品の進捗はどうか、との問いに)
FY2020くらいまでを見た時に、成長を牽引できるレベルまではいかないと考えていただきたい。牽引役としてはメニュー用調味料や「AJI-NO-MOTO® PLUS」という業務用のハイパフォーマンスな調味料などの方が大きい。
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タイ以外のFive Starsのトップライン成長率は1桁後半が続いているが、事業利益も同程度に成長しているのか。
為替一定ベースで、トップラインの成長率よりも常にGP・BPの成長率を意識している。低資源利用発酵技術によるコストダウン目標は毎年クリアしているが、これの大部分がMSGに影響する。MSG生産法人から海外法人へ輸出、あるいは自国内で製品化をして、商品「味の素®」や風味調味料、メニュー用調味料等に使用しているので、海外調味料・加工食品に、GP率改善という形で還元される。これに加え、効率的なマーケティング活動の実施や付加価値の高い新製品の販売、さらにプラスアルファの値上げを行う事で利益成長を実現している。ただし、FY2018の業績予想に織り込んでいる82億円の原燃料コストアップというのは、主に海外食品に影響する。その為、今期のGP率は悪化するかも知れない。
(タイの価格転嫁は難しいものの、それ以外の国は対応していくという理解をしているが、それらは業績予想の中にある程度含まれていると捉えて好いか、との問いに)
Yes。タイの価格転化が難しいのは「味の素®」で、これは砂糖等と同じ様に政府によって価格統制されており、認可制になっている。これはタイの特殊な事情であり、例えば風味調味料「Ros Dee®」やメニュー用調味料はその対象ではないので、当社のコスト構造が悪化すれば価格に転嫁可能。
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北米のアジアンの売上高が2桁成長になっているという事だが、昨年大きく製品改定した影響もあろう。この伸び率は継続性があるのか。
冷凍食品の場合は日本もアメリカも同じで、競合がどの程度同じ様な対策を取ってくるかによる。競合が似た製品を出すと、消費者も分散する。アメリカのアジアンに関しては、現状そこまで強い競争相手がいない。もともとアジアンそのものがかなりニッチな市場であり、味の素フーズ・ノースアメリカ社は自社製品がトップブランドであるという事に加え、流通のOEMも一定量行っており、市場全体をある程度コントロールができると思っている。また、アペタイザーやメキシカンの品質向上と価格転嫁という戦略は、始めたばかりである。メキシカンについては、消費者には浸透しているものの価格は非常に安い。そこで、アジアン同様に品質を上げて別のものにして生まれ変わらせようという考え方である。但し、その様な製品は安定生産が難しい。技術というよりは生産のノウハウも必要なので、かなり苦労をしている状況である。
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北米の冷凍食品事業では、工場再編により工場を集約化していくと理解している。今回、サンディエゴ工場も新たに買っているが、再編はFY2018である程度終わるのか。今後の計画について教えて欲しい。
工場再編に伴う投資という観点では、今回のサンディエゴ工場買収でほぼ出来上がっている。ウィンザー社買収の後に追加投資の判断をしたが、それは全て17-19中計に織り込まれており、サンディエゴ工場買収とそれに付随する設備投資まで含んでいる。ただし、さらに効率化させるためのアクションは残っている。FY2019年で成果を出し、FY2020には約束した売上成長と利益構造が実現できる会社にしたい。
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動物栄養事業の現状を詳しく説明して頂きたい。FY2018の業績予想は市場価格が下がる為に減益予想となっているが、その割に売上が伸長するというのはなぜか。
トップラインが伸びているのはコモディティがOEM生産に置き換わり、量そのものが増えると見込んでいるため。足元もそうだが、コモディティで収益改善しているのはトリプトファンである。ボリュームは小さいが単価が高いので、これによって利益は上がっている。トリプトファンは第2四半期から需給バランスの緩みにより、市場価格が下がってくると見ている。
(FY2017のリジン、スレオニンの販売数量は対前年で殆ど伸びていなかったと思うので、FY2018に増収を見込む要因は、OEMによる販売数量の増加が主要因か、との問いに)
Yes。FY2017は自社生産のコストが高かったので、販売数量を調整していた部分もあるが、地域によってはOEM品の方がコストが安いということもあり、販売数量を増やす余地がある。
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事業ポートフォリオにおけるヘルスケア事業の位置付けを聞きたい。機関投資家の中には、当社の事業ポートフォリオは利益率も高く安定成長している調味料事業だけで好いのではないかとの意見もある。再生医療用培地や先端バイオ医薬関連事業が着実に業績貢献してきているとは思うが、BtoB事業である以上、将来的に市場が縮小し、価格競争になってしまうという長期的な見方もあると思う。
ヘルスケア事業の中の特に先端バイオ医薬周辺領域については、非常に良い時期に入ってきた。主に抗体医薬とオリゴ核酸医薬を中心とするCDMO(開発製造受託事業)の2つの領域において、先行投資やM&Aによって基盤を作り、今はパイプラインが集まったという段階。従って、現在の業績貢献は上市されたものではなく、パイプラインの進展によるものであり、本格的な業績貢献は2020年以降になろう。培地についても、今はパイプライン状態にあると思っている。ES細胞・iPS細胞に関しては、数こそ少ないものの臨床実験が実際に進み始めて、創薬に結びつつあるという段階。実際にiPS細胞・ES細胞の市場が形成されるのは2025年以降だと考えており、その際の市場への関わり方については、経営としてまだ決断をしていない。当社単独で取り組むだけでなく、他社と組む可能性もあろう。
(CDMOというのは、B to B事業という認識で好いか、との問いに)
広い意味ではそうだが、 CDMOとは開発段階から製薬会社と取り組み、最終的な商業生産まで行うという事業であり、食品事業のB to B to Cに近いような構造。大手製薬会社は、自社の強みを創薬に注力するというのが今のトレンドである。その為、初期のパイプラインから製品を作っていくという製造面はますますアウトソース化が進むだろう。いわゆるコモディティ化している低分子医薬品だけのCDMO事業ではROAが低く、利益率も5%前後に留まってしまう。しかし中高分子医薬品について、開発段階から一緒に取り組んでいくと、ジェネリック化をする前の初期から大きな利益を獲得出来る。CDMOについては、抗体医薬とオリゴ核酸医薬というのが次のメインフィールドになると思う。現在のパイプラインは、グローバルでトップ3ぐらいに入っている。これらが上市された時にも、引き続きこのポジションを維持したいと考えている。
(他事業とのシナジーという観点ではどの様に捉えているか、との問いに)
先日、統合報告書トピックス説明会を開催した際、CICにて37の技術カテゴリーをご紹介したが、それらの分野はコアなところで重なっている。従って、CDMOの時に必要なアミノ酸を発酵工程で作り、それらの構造を化学的に組み換えていく合成技術というのは、食品ではアミノ酸発酵で作った発酵素材からフレーバーを作っていく、あるいはコク味物質を作っていく技術に応用されている。つまり、アミノ酸の技術とCDMOの技術が、アミノサイエンス事業を支えているとともに、食品の一部の高機能調味料にも貢献している。