• 2018年度は業績が急速に悪化した感じがするが、その内部要因は何か。本来はやっておかなければならなかったことで、何をしなかったために今回の悪化を招いたと考えているか。根本的な原因が明らかであれば、どのように解決していくのか。具体的な解決策も教えていただきたい。

    事業利益の悪化についての1番の要因は日本食品の業績低迷である。当期利益の悪化は前述に加え、第3四半期に計上した減損損失が大きく影響した。従来より日本食品は安定成長を期待され、長らくそれに応えてきた事業であるが、日本市場の深掘りだけを追求していくビジネスモデルでは安定成長が担えなくなってきている。また市場の急速な変化に対応すべく現在国内生産拠点の再編に取り組んでおり、2019年度中に東海工場に最新プラントが完成するが、もう少し早く取り組むべきだった。更に都市型のプレミアム商品需要であるスモールマスが徐々に拡大しているが、これに迅速な対応がとれていなかった。こういった要因が日本食品の業績低迷の背景にある。減損損失に関する内部要因は、買収した北米の冷凍食品会社のPMIが計画通りに進捗しなかったことが大きい。この課題については2019年4月にグローバル冷凍食品戦略部を設立し、これまで味の素社が北米と欧州を、味の素冷凍食品社が日本とアジアを管理運営してきたが、これらの管理運営を一本化し課題解決を図る体制を構築した。また2020年度にはこの冷凍食品の新体制と同様に、国内外の調味料事業を「ドライセイボリー」、国内外の加工食品やコーヒー事業を「Quick Nourishment(以下QN)」というカテゴリーに区分し、1つの事業を国内外一括で管理運営する組織体制に変更する。

  • 2019年度業績予想の上振れ・下振れリスクは何か。

    先日のアナリスト説明会で、2019年度の海外調味料・加工食品の売上高・事業利益予想は2018年度にプロマシドール社商標権約32億円の減損損失計上含むも、伸び率が低いのではないかというご質問を頂いた。私からの説明で事業利益についてはアセットライトによる影響を約20億円織り込んでおり、事業別に配賦せずに全社共通費に入れていると申し上げたが、売上高については、昨年度は発酵原燃料高で主要法人が「味の素®」と風味調味料をそれぞれ期中に値上げしたこともあり、足枷になりトップラインの伸びを抑えたところもある。2019年は2018年程ではないが、為替は依然として新興国中心に不透明の状況で、2019年度業績予想上はマイナス要素として織り込んでいる。事業ビジネスそのものは、海外調味料は値上げも浸透し、4月から順調にスタートしている。国内は昨年度、冷凍食品、コーヒー事業の不振もあり、調味料・加工食品の業務用のコスト高や天候不順、特に夏の猛暑の影響も出た。通常、夏場の需要を「冷たい牛乳でつくるカップスープ」で作って間口を拡げ、秋口につなげるビジネスモデルになっているが、最初でつまずいた。4-5月はそれがないので、好いスタートがきれている。リスクはいつ起きてもおかしくないので、楽観視はしていない。

    (足元は国内外ともに堅調。上手くいけば上振れ要因という理解でよいか、との問いに)Yes。ただし、為替など短期的な読み切れないリスクもあろう。一方、今期中に大きな影響があるわけではないが、越境ECをスタートした。グループ会社にまたがっていたビックデータ解析やEコマースを味の素社に集約し、生活者解析・事業創造部を2018年4月に設立した。一年経過し、機能し始めた。2018年9月、味の素AGF社製品を中国の京東のマーケットプレイスにオープン。これにより、売上が伸び、「Blendy®」ブランドによるJapanese Coffeeの需要があることもわかってきた。2019年5月、先日のアナリスト説明会後になるが、「アミノバイタル®」のサイトもオープンした。まだ1カ月も経っていないが、機会をみてレビューしたい。情報をクロスさせ、インバウンドとあわせて仕掛けていくことができよう。日本食品のトップラインが厳しい中、1%でもかさ上げに寄与できればよいだろう。

    (1%もかさ上げできるのか、との問いに)日本のEコマースは25%伸長とのこと。リスクの顕在化の可能性があるのかもしれないが期待値はある。推進している味の素社や味の素AGF社のメンバーは、本取り組みを通じて、調味料だけにとどまらず、嗜好性のあるものについてのマーケティングの幅を拡げることができている。

    (2020年には期待できる規模になっていくのか、との問いに)まだ先だろう。アナリスト説明会の際、高藤専務が説明したが、越境ECスタート前の自社通販売上高を除く、一般的なプラットホーム経由での当社Eコマースの規模は国内の調味料・加工食品売上高の0.5%程度。まだ手探りの状況だが、1.5倍ずつ伸びていけば、それなりの規模になろう。

    (越境EC分も含めてなのか、との問いに)越境ECは始めたばかりなので、上乗せできる規模感はわからない。

  • Eコマース売上高構成比0.5%の母数は何か。日本食品の調味料・加工食品売上高約2,000億円か。それとも日本食品計約3,800億円なのか。

    母数は日本食品の調味料・加工食品。冷凍食品はデリバリーの問題があるのでまだない。越境ECのラインナップは調味料とコーヒー類、スポーツサプリメントと考えていただきたい。

  • 2018年度決算説明会にて、「スモールマスを取得し、ミドルマスにつなげる」との発言があったが、これは具体的にはどのようなことを意味しているのか。デジタルトランスフォーメーションによる新たな成長モデル構築との事だが、具体的にどの様なビジネスモデル(特に海外)を考えているのか。

    スモールマスの台頭の背景はアマゾン等のようなEコマースの進展である。デジタルコミュニケーションの隆盛により消費者の需要をより細かく把握できるようになり、消費者は欲しい物を従来の売り場ではなくEコマースで購入できるようになった。こうした変化は我々のビジネスにも影響を与えるようになっている。我々は製造業なのでスモールマスを沢山造っても儲からないが、スモールマスは消費者のインサイトを捕まえる1つのヒントになっているので、スモールマスで多くのトライアルをした上で、それらの中から20~30億円規模のミドルマスをより多く育てたい。これまでは1商品で100億円の売上を狙っていたが、今後は20億円規模の売上の商品を5つ持つようなビジネスモデルにしていきたい。デジタルトランスフォーメーションによる、新たな成長モデル構築については、スモールマスの需要は日本、北米、欧州などの先進国やシンガポール、クワラルンプールなどのアジアの主要都市が強いので、そういった地域・都市での構築を考えている。スモールマスからミドルマスへのチャレンジをビジネス上で検証するにはEコマースが好いと思う。EコマースはBtoCだけでなくBtoBtoCもこのチャネルを通じて“見える化”ができると考えている。日本だけでなく、前述の海外の先進都市でのEコマースに着手していく。尚、日本では越境ECをスタートさせた。

  • 当社はどのような脅威を感じて、スモールマスを導入しようと決めたのか。当社の危機感は何か。当社の技術をどのように活かし、どのようにビジネスに繋げていくのか。

    カテゴリーとして象徴的なものはソフトドリンクや、スナック菓子の分野のスモールマスで、調査機関のデータで数字に表れている。カテゴリーによって、スモールマスを推し進めるチャネルになっているのはEコマースである。Eコマースの使用の多い商品は顕著に変化が現れている。当社は日本国内でEコマースビジネスをトライアンドエラーで繰り返す中で、消費者の変化を実感できており、スモールマス導入にシフトした。

    (当社には直接影響は無いが、周りの環境では影響が出ているということか、との問いに)調味料の影響は小さいが、コーヒー飲料は影響がある。また、副次的な影響として、従来の小売業がデジタル投資の必要性を感じており、既存チャネルによる価格競争が激しくなってきている。例えば、味の素AGF社のメインのコーヒーや冷凍食品の少量のからあげ、競争メーカーの多い米飯等に影響が現れている。

    (当社はコンシューマーインサイトを把握しているので、スモールマスは柔軟に対応できるということか、との問いに)インサイトを捉えたものと、Eコマースの持っているIDPOSおよび購買履歴を結びつけると新しいスモールマスチャネルが見えるようになる。また今までは見えていたが、届けることができなかった。既存チャネルでは、例えばCVSなどでも棚に並べられるルールがあり、日販個数の基準がある。そこには届けられなかった。またEコマースと量販店のネット宅配では、どちらが使い勝手が良いかは一目瞭然。それが競争を後押ししている。流通の再編もかなり動き出しているが、そのような影響があると思う。

  • 今後、冷凍食品事業はスモールマスに対してどの様に展開していくのか。

    冷凍食品事業については、スモールマス化を出来ると考えている。これまでは売上高、約200億円規模の「ギョーザ」から、数億円単位の「夜九時のひとり呑み」シリーズ商品まで面で取り組んできた。例えば「ギョーザ」にも様々な種類がある。「ギョーザ」が冷凍食品の中でも伸長している理由は、圧倒的な技術力とブランド力があるから。よって、「ギョーザ」についてはもっとスモールマスへ対応していくべきだろう。一方で、現時点で数億円単位の新カテゴリーの商品を強化すると、新しいマーケティング投資が必要となる。ゼロから市場を作っていかなければならない。この様な市場の作り方ではないと考えている。もっと得意分野を磨き、技術優位性と強いブランド価値の下にスモールマスを作っていく。スモールマスは幾つあってもメーカー側は儲からない。スモールマスから利益を得ることは出来ないだろう。スモールマスから10億円、20億円単位のミドルマスとなる商品を幾つ作れるかが重要となる。アジアンカテゴリーの中でも「ギョーザ」、シューマイ、米飯をコア領域としていく。またデザートは№1ブランドであり、中食や外食で高いプレゼンスを持っている。フランス事業と技術およびビジネスモデルを共有することで、この分野においてもスモールマス化を図っていく。

  • 日本食品生産体制の集約・再編の状況について教えてもらいたい。また、ICT化・自動化を推進する上で新たなチームを編成しているのか。

    2019年4月に味の素社の食品製造部門、旧クノール食品社、旧味の素パッケージング社を統合し味の素食品社が発足。2019年度の第4四半期に三重新工場が完成する。従来は味の素社の東海工場で「ほんだし®」の中身を造り、それを大阪の味の素パッケージング社の包装工場に搬送していたが、新工場完成後は一貫生産が可能になる。新工場には最新技術を導入するので生産調整は従来の月1回から毎週可能、リードタイムは従来の1/4、製造品種の切替時間も従来の1/2となる。また製造の最小ロットサイズは従来の1/7となる。よって風味調味料でもミドルマスには対応可能な生産体制が整う。尚この工場の稼働後、大阪の味の素パッケージング社の包装工場は閉鎖する。川崎の新工場については2021年度の上期中の完成を目指している。この新工場の稼働後、川崎の高津区にある旧クノール食品社の工場は閉鎖する。これらの取組みによってGP率で2%の改善を見込んでいるが、集約化による物流費の削減は織り込んでいない。この生産体制の変更について、ICT化・自動化を推進する上での新たなチームは約20名の社員で構成されている。計装領域のオーソリティ、コンサルタント、業界のプレーヤーなどのネットワークを活用し、最新の技術情報の把握に努めている。

  • 新中期経営計画について。売上高CAGR4%とのことだが、FY17-19中期経営計画ではCAGR2%。4%も伸長するのであれば素晴らしいが、その根拠をご説明願いたい。

    先日のアナリスト説明会でご説明した通り、重点事業の売上高構成比は約60%あるが、残り約40%が全て非重点事業ではなく、その中にはこの先どうするのかを見極める事業も含んでいる。非重点事業は売上高には影響はあるが、事業利益にはほとんど貢献していないとご理解いただきたい。非重点事業を一気に止めてしまうと固定費(主に人件費)が問題になる。できるだけ、当該事業の固定費が他の製品に乗らないように縮小しないといけない。これを除けば、過去の売上高CAGR2%が、3%+αくらいになるだろうとみている。非重点に投入している経営資源を、より重点事業に投入できるようにしていく。また、食品について申し上げると、これまでは日本の調味料・加工食品担当事業部は日本でしかマーケットを深堀りしていなかったが、2020年度からは日本・海外とエリアを分けずにグローバルでセイボリーというカテゴリーでやっていく。また、コーヒー事業も「カップスープ」等とあわせてQNという加工食品で、冷凍食品も然り、グローバルでみていく。輸出も積極的に進める。製品だけではなく、マーケティングも強化していく。日本で開発し製造したものを海外で展開していく。そういうマネジメントに変えていく。冷凍食品は既に2019年4月からグローバル冷凍食品戦略部が立ち上がっており、ワンオペレーションが完全に7月には出来上がる予定。続いて、調味料も加工食品も同様に体制に変えていく。したがって、現状の重点事業売上高CAGR3%+α、4%+αというのもさほど距離があるとは思っていない。

    (重点事業が過去売上高CAGR3%伸びているという理解でよいか、との問いに)Yes。

    (重点事業の利益構成比も90%あるという理解でよいか、との問いに)利益については重点事業だけで90%を占めるわけではない。非重点事業の利益はほとんどないと申し上げたが、見極め事業でも、ビジネスユニットなので寄せ集めればそれなりの規模になる。非重点事業は縮小もしくは止めると決めたので実行していく。見極め事業は次期中期計画での作業になる。

    (一方で、コストダウンについては100億円くらいやっていくという理解でよいか、との問いに)100億円というのは主にコーポレート費用のことであり、現状売上高比率を3.3%から2.5%(0.8%低減)にすべく進めていく。

  • 海外食品について。冷凍食品やメニュー用調味料など川下にいくほど、グローバリゼーションはローカライゼーションではないかと思っていた。2019年度の冷凍食品に始まり、2020年度以降は調味料についても組織をグローバルで一本化していくということだが、財務諸表上どのように変化していれば、当社がやろうとしていることが上手くいっていると判断できるか。

    冷凍食品事業も一つのビジネスユニットであり、効率性という観点でROAを見ていただきたい。売上高と事業利益の成長率、事業利益率については既に説明をしてきているので、それにROAを加えて見ていくと進捗をご理解いただけるかと思う。

    (組織をグローバルで一本化することにより、コストが大きく下がるということなのか、との問いに) 一番大きな変化は、重点事業に集中することで売上高成長率が変わってくるということ。コスト面については、海外冷凍食品、国内冷凍食品ともに再編が必要。事業利益が増加し主に固定資産が減る、あるいは増加しないということがマネージメントできているとROAとして成果が出てくるだろう。主なコストダウンのテーマについては、日本、北米、欧州と各国別の単位で行っているため、開示している数値の中からご判断いただくことは難しいかと思う。

  • コーポレート費用以外のコストダウンはあるのか。

    現中計の取り組みの中では最終局面にきている。他の余地があるかどうかは、エリアできったマーケティングではなく、グローバルでやると、もう少し効率よく活動できるのではないかと思う。マーケティングのROIという考え方をとり入れていきたいと思うが数字にしているわけではない。

    (2020年度、2021年度に100億円発現すると考えてよいか、との問いに)新中計のスタートライン2020年度にはまずは50億円、そして、中計期間内には残り50億円を出していく予定。改善されていく部分もあろう。

    (オーガニックで3%から4%成長、コストダウンするだけで利益が改善するイメージだがどうか、との問いに)ご認識の通り。重点事業が売上高CAGR4%いかなくても、現状の重点事業3%+αの成長にコストダウン要素を織り込むと、事業利益は1,100億円には届かないが、それに近い数字になろう。この前提はタラレバもあるので、競争環境が今後さらに強まる傾向があるので、重点事業にフォーカスした戦略に変えていかないと、過去売上高CAGR3%+αの成長率を維持できる保証はどこにもない。デジタルトランスフォーメーションの加速により、技術的参入障壁の低いものからシェアを取られていく構造だと考えている。どうしても今やらないと、4%+α成長も実現できないと考えている。

    (今後3年間、オーガニックで3%成長しなくても、そもそも利益が出るという話ではないか、との問いに)グローバル食品企業トップ10クラス入りに必要な、最低でも事業利益規模1,200億円超を確保し、株主還元および成長投資にも回していきたい。そういう構造を作っていく考えである。

  • 冷凍食品事業をはじめ様々な事業について横串を指すという考えに至ったプロセスについて教えて欲しい。例えば調味料・加工食品事業ではそれにより何が期待出来るのか。疑問に思うのは、当社はマザーマーケットのウェイトが事業利益970億円の半分以上と大きく、これをどの様にしていくのかは重要である。事業に横串を指しグローバルで見た場合、海外で人気のある商品を日本にモデルとして輸入するのか、或いは他社と差別化するために日本のノウハウを海外へ移転することを機会と捉えているのか。事業に横串を指そうと考えたきっかけと、その効果について教えて欲しい。

    これまでは食品のポートフォリオを拡げてきたが、一方でアミノサイエンス事業はポートフォリオをフォーカスしてきた。BtoB事業として単に素材を売るということから、どの様なサービスを提供できるかということを含めた事業に転換してきた。例えば、培地事業は、研究開発の段階から顧客と関係を構築し、共同で細胞に適した培地の開発を行っている。パイプラインを繋ぐ仕事をしている。この様なビジネスモデルにアミノサイエンス事業は次々と転換していっている。結果として、事業領域もフォーカスされてきた。特に電子材料事業についてはこの仕事が進んでいる。また抗体医薬と核酸医薬を中心としたCDMO事業もそのステージを迎えつつある。培地事業も続こうとしている。食品事業はそのビジネスモデルに未だなりきっていないが、MSGや核酸が中心であったBtoB事業から、天然系調味料や酵素といったソリューション型の商品にフォーカスしてきている。カスタマーイノベーションを起こせるようなBtoB事業に転換しようとしている。BtoC事業については、面が必要だと思っていたことから地域的なポートフォリオを拡げ、加工食品ではアジアン冷凍食品を成長させること、そして当社の技術を活かせる分野への展開といったことで地盤を拡げてきた。調味料事業については、新興国、そしてアフリカ、トルコは、ミャンマーやパキスタンといった未だ規模が小さい地域への足掛かりとなっている。従って、調味料とアジアン冷凍食品についてグローバルシェアNo.1を目指していく。一方で、味の素AGF社のコーヒー事業やタイの缶コーヒー事業をどの様にしていくかについては、これまで投資家の方々との間で議論のポイントとなっていた。これらは、現在の利益について一定のボリュームを稼いでいる事業である。但し、コア事業は調味料やアジアン冷凍食品。コーヒー事業の今後について、売却すべきというご指摘もあるが、もう少し取り組める要素があると考えている。その切り口がQNである。例えば、リフレッシュメントを提供するコーヒー事業に当社のアミノ酸によりナリッシングという価値を付与する。また、日本で展開している「クノール®カップスープ」は、高い技術やノウハウによりNo.1シェアとなっている。しかし、契約の都合上により海外展開が殆ど出来ていない。これについて、プラットフォームに乗せることが出来ると考えている。味の素AGF社と「クノール®」の技術を組み合わせた商品開発やサービス提供は、マーケティング上可能ではないかと考えている。

    (食品のBtoC事業は、日本の技術やノウハウを海外へ移転することでまだビジネスチャンスがあるということか、との問いに)Yes。セイボリー事業は、大手グローバル食品企業がキャッシュカウの位置づけとしてきた事業。当社が約10年間で、ドライセイボリーでシェアNo.1となれた理由は、彼らがキャッシュカウとしていた事業を当社がローカルプレーヤーに徹して奪取したからである。結果として、グローバルドライセイボリーのシェアが23%となりトップとなった。それが当社の事業利益に大きく貢献している。このモデルは、QN分野においても取り組む余地があると考える。

  • アミノサイエンスは中長期的に利益を牽引している。その確からしさを確認したい。またアミノサイエンスで組織改革の先取りをしていたとすれば、社内に横展開はできないか。

    当社の株価が2014年度に上昇した要因は、前伊藤社長時代のFY11-13中計でFIT&GROWを掲げ、カルピス社の売却、海外食品の成長、ヘルスケア事業の収益構造の改革を実行したことにある。ヘルスケア事業では2011年度は営業利益がゼロに近かったが、2013年度には営業利益50億円程度出るような構造になった。投資家との対話において、全社の利益やROEの水準だけではなく、当社の成長戦略のメッセージが株価に反映したと見ている。当時、ヘルスケア事業で利益を牽引していたのは、医薬用食品用・アミノ酸の構造改革であった。そのベースとなっていたのがマネジメント改革であり、福士専務がリーダーとして担ってきた。マネジメントポリシーを明確にして、グローバルサプライチェーンオペレーションを変革して、それぞれのエリアのキーパーソンを主に外国人のタレントに変えて、マネジメントをしてきた。結果として、アミノサイエンス事業本部のマネジメントポリシーは2013年から英語で明文化されアップデートされてきている。PDCAを回すために2016年からベルギーの味の素オムニケム社で取り入れていたOperational Excellence (以下、OE)の改善活動を展開し、2017年、2018年と大きな改善活動に繋がり成果に結びつけてきた。OEシステムは日本の様な工場の5S活動やTPM活動だけでは無く、全ての分野に活かせるので横串を入れてコーポレート部門、食品事業本部も英語でマネジメントポリシーを全部統一し、OE手法を取り入れていく。食品はローカル化が重要であり、それぞれのカルチャーを残しながらやってきたが、マクロ感がある市場の変化への適応力が遅いので全社統一でマネジメントできようにする。BtoB事業の川下型ビジネスは顧客ソリューション型のビジネスに変わりつつある。最初に電子材料が変わり、次に製薬カスタムサービス事業、そしてアミノ酸事業もソリューション型のビジネスになってきており、2018年度は過去最高益になった。

    (次期中計のイメージはアミノサイエンス事業が利益を下支えしつつ、コンシューマーの体質改善を確認できるイメージか、との問いに)仮に全体の事業利益を1,000億円とした場合にアミノサイエンスの事業利益は250億円程度であり二桁の伸びを期待しているが、残り750億円の内の450億円程度を占める海外食品の立て直しが一番大事なポイントになる。日本食品も2018年度のマイナス成長は想定していなかったので課題については取り組んでいく。2020年度から日本食品は日本市場という言い方は止め、日本の優れたR&Dの部分を海外のビジネスに使用していく。2019年7月の人事異動で現海外食品部長が東京支社長になり国内営業のトップになる。この人事は日本から先進国モデルを海外に展開するメッセージでもある。

  • 2019年度のブラジルの為替感応度が従来よりも大きくなっている。これまで動物栄養事業のブラジル工場が稼働していたときは、ドル高レアル安の際、輸出時に恩恵を受けていたと思う。今後、動物栄養事業のOEM化を進めることでブラジル事業にリスクは起こるのか。また、今後の為替と業績にどの様に影響してくるのか。

    動物栄養事業に占めるブラジルのウェイトは、2018年に工場を停めて以降、小さくなっている。現在は、OEMで購入した商品をブラジルやラテンアメリカの顧客に販売している。よって、動物栄養事業のリスクは小さい。引き続きブラジルの為替レートは振れているが、この影響を受けているのは、主に日本に輸出するMSG。日本のMSGは自社で使用するもの、販売するものを含めてほぼブラジルから輸出している。日本ではリパックのみという構造である。これは日本の調味料・加工食品事業の原料高影響となる。MSGは「Cook Do®」や風味調味料に使用されているが、価格転嫁できる要素を残している。為替の影響を受けた場合、価格転嫁により吸収していく事となるだろう。

    (ブラジルから日本へ輸出する際は、換算為替で目減りするリスクがある。一方で、ドル高新興国通貨安となった場合、貿易為替で利益寄与していたことで、オフセットされていた部分があったと思う。今後は、新しい事業モデルの中で為替コントロールについて、どの様に考えればよいか、との問いに)かつてはMSGと動物栄養事業が双璧だったが、足元はブラジルにおける動物栄養事業の業績はほぼ無い。残ったMSGは、まだ価格優位性が残っていると考えている。

    (ブラジルの動物栄養の工場はOEM開始後、どの様になったのか、との問いに)現在は閉鎖している。2006年頃に建設した工場で比較的新しく、ユーティリティは健在なことから、転用の可能性を現在模索しているところである。動物栄養事業の子会社としていた生産会社はクローズした。残りの資産はブラジル味の素社が引き継いだ。その資産はほぼ減損損失を計上している。

    (アフリカ豚コレラの影響について、今後当社事業への影響はあるか、との問いに)この影響は中国からエリアが拡がりつつある。それにより中国国内で飼料用アミノ酸の需要が減少しているが、彼らは競争上の理由で極端な生産調整を出来ていない。それが、アジア、欧州、南米地域に溢れている。

    (当社はOEM化が進んでいるため、従来よりもリスクを感じていないのか、との問いに)OEMをしていなかったたら大変なことになっていただろう。よって、大きなリスクとは考えていない。

  • これまでの経営陣は環境変化やリスクへの対策が遅れがちだったと思う。役員改選によってプロアクティブな対応へと変化していくのか。また、当社の社風はのんびりしていた点があったと思うが、役員改選によって社員のメンタリティーにどの様な変化が起きるのか。

    一つはChief Digital Officer(CDO)という新しい役職を設置する。アミノサイエンス事業本部長の福士専務が副社長に昇格して担う。彼は元々エンジニアで専門性が非常に高い。彼の指揮の下にデジタルトランスフォーメーション(DX)を全社で進めていく。経営の対応の遅さに関する反省点は、これまで事業ユニット別に権限移譲をし、ローカライズに徹していたこと。しかし、DXの様な新しい技術は、世界で同時に進めることや情報の集約化、戦略的に全社で投資をしていくことが必要であったことから、これまでの体制では対応が難しかった。よって、この様な体制に変更していく。今後の変化に対して組織がついてけるかについては、多少の軋轢は覚悟している。逆にそれについていけなければ、当社が衰退するだけである。それは社員全員求めていないだろう。丁寧に組織に説明しながら、変革を実行していく。

    (2018年度中間決算説明会時にアセットライトを発表して以降、2018年度第4四半期の業績が良くなっているが発表により社内の意識変化が起きているのか、との問いに)関係していない。2018年度第3四半期に大きな減損損失を計上したことや、海外の調味料の成長率が停滞したことで全社として危機感があった。それにより様々な費用の見直しが進んだ。また、仕事の効率化を進めているが、時間を短縮しただけでなく仕事の仕方を変えている。結果として、より効率的に仕事が進められるようになり、費用が下がり始めたことが効果としてあっただろう。

  • 2018年度第4四半期の海外調味料・加工食品事業は値上げや、タイ缶コーヒーの回復により業績が回復した。当社の競争優位性とどの様に関係しているのか。

    海外の値上げについては、其々の法人が実施できるタイミングで取り組んでいる。第4四半期の事業利益を押し上げたのは、一つは1月のタイにおける「AJI-NO-MOTO®」の値上げ。これは7年半ぶりの値上げである。タイでは、MSGは政府の合意が必要な政府価格管理品目であり、塩や砂糖と同様、メーカー側で価格設定することは出来ない。これが通ったことが業績に大きく貢献した。タイにおける当社のMSGシェアは90%以上あることから、競合も追随せざるを得ないため、値上げ後直ぐに効果が出た。また、インドネシアの「Masako®」も第3四半期に品質改良と値上げを行った。これも成果を生んでいる。スポット的な要素としては、ベトナムの「AJI-NO-MOTO®」の値上げを2019年4月に実行した。これの前買い需要が発生したことが影響している。よってベトナムは第4四半期に大きく伸長したが、4月は落ち込んでいる。競争優位性については、タイの「AJI-NO-MOTO®」は値上げをすると直ぐに利益に反映する。これは当社シェアが90%以上あるからである。インドネシアではそこまでシェアは高くない。よって、値上げをしても競合が追随してこなければ、直ぐには浸透しない。「AJI-NO-MOTO®」のシェアがグローバルで高いからといって、国ごとに同じ動きをする訳ではない。国ごとのシェアポジションによって動き方が変わる。基本的には値上げ後の売上高は鈍化し、暫くしてから上昇してくる。

  • 海外食品事業では、ローカル企業との競合やチャネルシフトにより環境が変わってきているが、当社の強みである現地に根付いたディストリビューション網は今後も活かせるのか。

    トラディショナルマーケットは強いものを持っているので最大限活用したい。一方、新しいモダントレード(以下、MT)はコンサバティブ。今までのMTはグローバル小売業が持ち得ているモデルがあり、商品を納入するにはイニシャルコストが高く、新規の企業には参入障壁が高かった。当社はトラディッショナルトレードを中心に成長してきた。これはグローバル食品企業も取らなかった作戦でやってきた。Eコマースは消費者情報を確保するための参入であり、小売業で儲けるためではない。よってMTの既存流通が入ってきた時とは違うので、コンサバティブにやると消費者を失ってしまう。現実にタイのチャネルではEコマースの構成比が8%あると言われている。先進国モデルを日本と米国で立ち上げながら色々な情報を集約化していきたい。

  • 冷凍食品事業をグローバルに括ることで、今後グローバルで同じ製品を販売していくのか。最終的な方向性を教えて欲しい。

    ブランドと美味しさを現地に適合させることには変わらず、グローバルで単一の製品を作るという事では全くない。ただ、重要なのは生産技術の進歩。おいしい「ギョーザ」を作る技術。たとえ同じ機械でも、それを活用できるかは別。当社は活用する技術があり優位性につながっているため、日本でも北米でも強い。ここにもっと集中して欲しいが、ローカルが強すぎると、イタリアンなどの一定の規模があるカテゴリーもやらなければいけなくなる。「ギョーザ」や米飯に集中するためには日本の最先端の生産技術を取り入れ、それをどう現地にアジャストするかに、人・モノ・カネを費やさなければならない。グローバル戦略で最重要なのはアジアンカテゴリーでNo.1、次にデザート強化ということをはっきりさせ、投資計画も本社でにぎる。そのようなマネジメントをやっていこうということ。

  • 北米の冷凍食品事業における物流費高騰への対応について、今後の対応策と影響を落ち着かせるまでの期間イメージを教えていただきたい。

    物流費高騰への対応については、アセットライト、事業の集約化と同時だと思っており、なんとか2020年度中にクリアをしたいと思っている。目指すところは事業利益率で8%超えという水準。アセットライトとアジアンカテゴリーへの集中ができれば達成できると思っている。

  • アセアン市場においても日本国内同様に消費者が成熟化するステージに入り、売上が伸ばしにくくなっている要因になっていないか。また、海外冷凍食品の構造改革について整理して教えて欲しい。

    タイについては2015年に人口増加がピークアウトしている。また、他のアセアン諸国は2025年から2030年にかけて、人口の伸長率が鈍化してくるとの予測がある。また、急速に都市化が進んでいるので、消費の鈍化というよりはライフスタイルの向上に従ってより良い物を求めるというライフステージに入ってくると思われる。海外冷凍食品の構造改革について、これまでやってきた事は北米と欧州における販売プラットホームを構築すべく、北米ではウィンザー社、欧州ではラベリ社を買収した。これによって北米では大手のチェーンストアにアジアン冷凍食品を販売することが叶い、売上伸長を享受できている。欧州は買収から1年半と日が浅く現在は事業基盤作りの途上である。北米の課題は共有できているが、更なるアジアン冷凍食品への販売シフトが重要である。欧州はマカロンを中心としたデザートが強みであるが、「ギョーザ」と同様に人手を掛けずに工業生産化し易いという技術的メリットがあるので、欧州発のデザートを他地域に拡げていきたいと考えている。尚、グローバル冷凍食品事業はアセットライトという観点でやるべき課題は残っており、極力2019年度および2020年度に解決したいと考えている。

  • 次期中期経営計画では合理化効果で最終年度である2022年度において、事業利益1,100億円の水準を見込めるのか。

    売上高CAGR4%伸びなくても重点事業の売上高CAGR3%が続き、コーポレート費用の削減もした場合、2022年度には事業利益は1,100億円程度の利益水準になるだろう。

    (売上高CAGR3%と4%で事業利益にどの程度の影響があるか、との問いに)複数要素があるので、正確に単純計算で申し上げられないが売上高では100億円~150億円の差ではないか。

  • 効率性検討事業と成長戦略再構築事業の2つから重点事業の中に組み込まれるものもあるので、今後、重点事業の60%の比率は高くなる見通しなのか。

    2022年度までに重点事業を70%程度までもっていきたい。

  • 非重点事業に分類するときのベンチマークは何か。どの程度の下限値に該当すると非重点事業に分類されるのか。

    売上高CAGR4%。もう一つはROA7%を下限にしている。その2つを満たさないといけない。全社の売上高CAGRは4%+αを目標にしているので当然4%は越えていかなければいけない。検討する事業の中には立ち上げ直後で成長率は高いが、ROAは低い事業もある。長期に熟成された事業の中には4%の売上高CAGRの達成は難しいが、ROAは高い事業がある。例えば、日本食品ではスープや「Cook Do®」、アジアン冷凍食品以外では売上高CAGR4%を達成するのは難しいが、基礎調味料はしっかりとROA基準値の達成がいつまで継続できるのかが基準になる。指標は2つを軸にしているが、インタンジブルで最も大事なのは競合に対して参入障壁をどのくらい作れるかが重要である。参入障壁に対する技術力の応用が利く分野で原料値上げに対応した品質改良ができる。また単品毎にブランドロイヤリティを評価して市場に投入した時にリターン得られるか。この3つの要素が判断基準でスクリーニングをする。非重点事業に分類される事業ついては、スクリーニングの実行計画に入る。

  • 重点事業以外の3象限(非重点事業、効率性検討事業、成長戦略再構築事業)はそれぞれ何割を占めるか、開示されているか。

    開示していない。

    (収益性が高くて成長性が弱いのは、アセットライトの対象になりにくいのか、との問いに)検討エリアの二つは、どちらを重要視していて、どちらをアセットライトにするということではなく、先入観なく決定していきたい。

    (これから判断するということか、との問いに)検討中である。効率性検討事業は先行投資型の事業が多い。急成長している分野であり、当社が成長しているということは、市場も成長しており、いつまで成長するのか、競合環境はどうか、成長率そのものがいつまで続くのか、投資がいくら必要でそれによってROAのマイナス要素も考える必要がある。成長率とROAの軸だけではなく、強い成長力を維持できるための当社の強い技術力を活かせるのか、競合との違いを作っていけるのか、という観点で見極めていく。成長戦略再構築事業は長く成長していない事業、主に日本国内が多いがどのように見極めていくか。日本市場で線を引いていたからROAや利益率も高いが成長があまりできていなかった。日本という枠を取り外した時にどのくらい成長を持ち上げることができるか、大事なポイントである。

  • 食品事業で捉えた時にグローバルブランドのマスマーケティングの時代が終わり、BtoB事業とBtoC事業の垣根がなくなっている事業環境の中で当社の事業領域が優位になっている環境になっているか。将来的にBtoB事業とBtoC事業の比率をどのように見ているのか。

    BtoB事業の成功モデルは先方の開発のステージから顧客と一緒に将来の課題を解決し、当社の素材が評価されて価格競争の対象にならない、ソリューション力が評価されるもの。競合他社の将来のニュートリションを改善するためであれば当社技術が活かせるが、外食や中食の業界ではそこまでの技術は必要ない。素材があってアプリケーションで顧客と対話をしながら、開発していけばよい。例えば、ある時は技術をおにぎりに適用し、ある時は蒲鉾に適用する。種類が増えればBtoC事業のコスト構造も強くなるだろう。当社はEコマースの小売業ではないので、スモールマスを増やしても儲からない。スモールマスを増やすことは、どこにビジネスチャンスがあるかをトライアルしていくということ。例えば、今までは100億円を1品で狙っていたが、20億円の商品を5品にするという考え方でレッドオーシャン化するのを遅らせる。「味の素®」のブランドと核酸をベースに天然系調味料を組み合わせたブレンドミックスによって、外食や中食の得意先にサービス力でミドルマスを作っていくユニットが増えてくるとボラタイルではないビジネスを積み上げることができる。

  • BtoB事業は主に国内が対象になるか。

    事業単位としては、海外食品に含まれる加工用うまみ調味料事業とそれ以外は日本食品の調味料加工食品にも含まれている。ソリューション&インディグリディエンツでは国内が進んでいるが、海外では北米と東南アジアを拠点として事業を持っている。まだ日本食品のウェイトが大きい。

    (グローバルに展開することはポテンシャルが大きいのではないか、との問いに)。拠点は米国と東南アジアの中でもマレーシアは戦略的な投資エリアである。マレーシアにはハラル対応がある。

  • 調味料は最終製品ではなく色々な製品に形を変え、顧客ニーズに対応できるので将来性が高いのではないか。

    セイボリーを中心にソリューションビジネスが中心になる。一部甘味料を使ったビジネスもあるが調味料分野の方が技術優位性がある。

  • 2018年12月のスモールミーティング時に西井社長が次期中期計画の中で2020年度にアセットライト化の取り組みが集中し、FY19は業績が落ち込むと聞いていたが、どのくらい下げると考えておいた方が良いか。

    アセットライト化をすると事業利益より下の利益に影響することはある。痛みを伴うもので影響が出るだろう。また、味の素AGF社の減損リスクがある。いくつかの打ち手を持ちながら、スターバックス社の影響を織り込んだ上で減損テストを行い、2019年3月末時点ではリスクは高まったものの減損には至らなかった。減損リスクが無くなった訳ではないので、緊張感をもってやらなければならない。味の素AGF社はのれんと商標権があり、同社の難しさは、例えばリキッドコーヒーが儲からないから止めたとしても、インスタントコーヒーを作るプロセスの中でそのままリキッドコーヒーのボトリングをしているだけなので、アセットライトにはならない。商標権にヒットするようなものはブランドしかないので、事業そのものが伸びなくなると減損リスクは出てくるので共有しておきたい。

    (減損リスクは他にはないのか、との問いに)その認識である。

  • 社長のプライオリティとして高いものを3点、どういうことを考えているのかも含めて教えて欲しい。

    一つ目は次期中計。前倒しできるものは進めていく。既にアセットライトを発表しているが実行していく。現在、経営基盤検討会で策定したものを現場に落としているところであり、7月中旬には社内へガイドラインとして発表していく予定。執行は新役員体制になるが、旧体制で策定したものが引き継がれるように進めている。二つ目はデジタルトランスフォーメーション(DX)。CDOに福士専務を指名。2019年4月から準備委員会をスタートし、DXを推進していく上でのマネジメントポリシーを6月中にブラシュアップを完了させ、7月に正式委員会が発足予定。デジタルを外から技術として入れるだけではなく、仕事のやり方を変えていかなければならない。マネジメントポリシーに沿って、コーポレート、食品事業本部でもPDCAが現場で回せるように、アミノサイエンス事業本部で起用しているOE(Operation Excellence)のツールを導入していく。デジタル化を進めていった時に、何が課題で何が足りないのか自然と各組織で認識できるようにしたい。三つ目は課題事業。それぞれのヘッドおよび現場と議論している。

  • アセットライトを現場に落とす際に役員を変えていくというのは、どういう狙いがあるのか。

    来年度から新中計がスタートするわけだが、新しい役員に計画策定も遂行もお願いしたい。当たり前のことかもしれないが、シームレスにやっていくので役員の配置も変更した。これから策定しまとめていくわけだが、これまでレビューしてきた内容を現場にきちんと落としていくためには、自分事としてプランを策定し、これまで役員がやろうとしてもなかなかできなかったことも含めて、バトンタッチをしていく。

    (プランを策定する段階から、ある程度の権限を持ち責任をもつのか、という問いに)Yes。冷凍食品の例がわかりやすいだろう。海外食品部の中に、海外冷凍食品のグループがあり、味の素冷凍食品社のメンバーとタスクフォースを組んでいたが、格上げをして2019年4月からグローバル冷凍食品戦略部を設立。これに役員クラスが就任。2019年7月からそのメンバーを取り込む予定。プランもそのメンバーが策定していく。食品事業は現状、日本、海外に分かれているが、2020年の組織再編を見据え組織を越えて、セイボリー事業、QN事業、グローバル冷凍食品事業の単位でプランを現メンバーで策定している。したがって、2020年度から公表区分を変更していく予定。

    (エリア毎よりも事業ごとで切った方がいいということか、との問いに)エリア単位は大事。特にFive Starsは国ごとに違い、メインはBtoCのマーケット。事業ごとで切っていくことにした理由は、東アジア、東南アジアでも都市型マーケットは、越境ECでつながりつつある。マーケティングもシンクロさせる必要がある。都市型の消費を捕まえ、プレミアム化を図るのは、ローカルでやるより、進んでいる日本のノウハウを使っていく。たとえば、味の素AGF社の社員が生活者解析・事業創造部に出向しており、ビッグデータ解析とEコマースの商品開発・マーケティングを共同でやっている。既にいくつかあるEコマースのプラットホームを活用した取り組みを始めている。国内の調味料・加工食品の売上高0.5%相当がEコマースによるもの。量販店向けとのラインナップとは別の製品を販売している。まだ規模は小さいが、少しずつ手応えがあり、20-30%伸長。また昨年9月、中国のECのサイトに「Blendy®」のマーケットプレイスを立ち上げた。Japanese Coffeeという切り口で、日本でつくった品質の良いコーヒーということで、インバウンドでも需要がある。また、先日のアナリスト説明会の後、同じECのサイトに「アミノバイタル®」のマーケットプレイスもオープンした。秋にはもっと拡大できよう。日本食品の成長期待は3%だが、足下は0.1%程度、全体で1%くらいを越境ECでカバーできないか、そういうビジネスを日本発でやっていく。

    (商品軸も変えていく必要があるのか、という問いに)Yes。

    (現状は、味の素AGF社製品と「アミノバイタル」なのか、という問いに)Yes。基礎調味料よりもQNのような加工食品の方が訴求しやすいし、ダイレクトに製品につながり、リアクションが早い。BtoCだけではなく、BtoBにも展開したい。調味料としての出番もあろう。

  • 組織変更もあるということだが、この一年間振り返った時、果たして当社は現状認識ができているのか、社内で共有できているのか、という株式市場としての疑問もややあろうと思っている。業績の下振れも上振れも大きいのが、過去1年で感じたこと。現状体制で2018年度第4四半期が好くなることは第3四半期にわかっていたはず。現状認識ができ、それを共有してはじめて、よりよい会社になろう。そのための組織再編だと思うが、それにより現状認識の精度が上がるのか。今だから言えることがあれば率直に聞かせて欲しい。

    14-16中計まで遡ると、ボラタイルなのはBtoBビジネス。食品はステイブルなビジネスという位置づけで、みなさんとも対話してきた。実際にそうだった。素材型事業は構造改革(FIT)を進め、主だったものは整理してきた。BtoBのビジネスのアミノサイエンス事業は、BtoBtoCまで刺さり込んできた。開発段階から取り込み、パイプラインとしてつながってきたので安定してきた。伸びる時も縮む時も見えるようになってきた。一方、食品事業はデジタルトランスフォーメンションの影響を受け、2つの競争環境に変化が出てくる。一つはスモールマス化により、ビックブランドが徐々に喰われてくる。二つ目は流通の変化。Eコマースという新しいチャネルの台頭により、既存チャネルの身構えが強くなってきて、統廃合が激しくなり流通の再編が起きている。既存の改装にもお金がかかるのでDX投資ができない。より儲かる製品ブランドに集中する。当社の「ギョーザ」はいいが、から揚げ・米飯類はダメといったことが急速に起きる。コーヒー事業だと、スティックのシェアが当社より低い競合が値段攻勢で取りにくれば魅力的に映り、結果、味の素AGF社ブランドが減ってしまうといったことが起きる。その認識がズレていると思う。

    (スモールマス化にはローカライゼーションの要素が多分にあると思うが、組織を事業毎にきり、国内外統合で前に進むことにより、各地域でのスモールマスの取りこぼしはなくなるのか、という問いに)スモールマスが顕在化するマーケットは濃淡あれど進む。先進国は急速に進むだろう。したがって、Eコマースにしっかり取り組むことで、日本の開発・生産力・マーケティング力でモデルを作っていくことは、東南アジアで参考になると思う。

  • 大きなうねりの変化の中で、外部環境の変化を受けているのは他社も同じである。その状況下で、当社は2018年度において、際立ってネガティブな状況だった。外部の急激な変化だけでなく、内的な要因もあるのではないか。課題認識として解決しなければならない部分もあるのではないか。

    日本の中で特に大きな影響を受けたのは家庭用の冷凍食品とコーヒー事業である。この2つは日本食品事業の中で大きなウェイトを占めている。日本食品全体の事業利益は約300億円弱。その内、2018年度以前は冷凍食品とコーヒー事業で約80億円ずつ稼いでいた。2018年度はその水準を下回った。これが他社では起きなかった理由は、コーヒー事業においては、競合の事業構造がかなり変化してきているからである。スティックコーヒーでロスを出しても、別の部分で耐えられる構造となっていたり、家庭用のコーヒー事業もあるが、彼らはアウトホームが非常に強いといったことである。冷凍食品事業については、冷凍食品事業以外で利益が出る構造となっていることであろう。ビジネスモデルが異なる。マクロではその様に捉えている。よって、競合は価格で攻められる構造だが、当社は価格で攻められた時に弱い。

    (日本の調味料・加工食品事業はそこまで利益構造が崩れていない。それでもスモールマス化を展開していくのか、との問いに)例えば、スープ領域ではスモールマスの影響を受け易い。ここについては、主力フレーバーだけでなく、ブランドを活用して次々と新しいフレーバーを展開しているため、耐え切れている。和風だし売上高は、前年並みか数%の前年割れとなっている。これはスモールマス化が進んでいると言えるだろう。和風だしにはローカルコンテンツが多数ある。旅行先で地方ならではの和風だしを購入することや、東京で地方のだしを購入できるようになってきている。地方の商品を取り寄せて店頭に置くだけで、当社の和風だしの売り場は減少する。この様な事象が実際に起きている。スープや「Cook Do®」の様にスモールマスに適用できる商品は伸長している、一方で和風だしやマヨネーズといった適用できていない商品は徐々にポジションが下がってきている。

  • アセットライトによる資産圧縮の金額規模について1,000億円と発表しているが、その中の事業資産圧縮の金額はあまり大きくないと予想している。数100億円単位なのではないか。非重点領域で固定費を削減していく事業は限定的で、大胆な改革ではないのではないか。非重点領域の見直しや整理をするというよりは、より重点領域に持っていくために、再生していこうとしているのではないか。

    17-19中計で掲げた事業利益目標の達成は2019年度も、2020年度も難しい。20-22中計の最終年度である2022年度までに、グローバル食品企業トップ10クラス入りという水準を確実に達成できる構造にしていきたい。そのために1,000億円規模の資産圧縮および幾つかのコストダウンを実行していく。これが実現出来れば体制が整うだろう。その先に起きる変化については、もっと精査していかなければならない。重点事業比率については、重点領域約60%と非重点領域約40%という訳で無く、40%の中には非重点事業と見極め事業が含まれている。非重点領域と定めているものについては、2019年度および2020年度で出来るだけ早く手を打っていく。一部の事業については、国の状況によって2021年度にズレ込むかもしれない。少なくとも2022年度には完全に綺麗な状態にしたい。現在ROAが高く稼いでいるが成長率は鈍化している、或いは非常に成長しているがROAが低い、といった見極め事業については、次期中計でどうするかを検討する。それにより重点および非重点事業が増加するかもしれない。この詳細についてはまだ申し上げられない。見極め事業の方向性が定まってくると、アセットライトによる資産圧縮の金額規模が1,000億円からもう少し膨らむ可能性がある。

  • アセットライトによる資産圧縮の金額規模1,000億円の大半がリソースアロケーションだと捉えている。よって、その内の事業資産圧縮は約300~400億円と予想している。その場合、当社の総資産ベースで3%程度の規模感だと考えている。非重点領域を切り離し、その部分を重点領域の投資に振り向けるというのが今までのイメージだったが、3%程度の切り離しで好いのか。重点領域へのトランスフォーメーションをもっと大胆に進めて欲しいという思いがある。

    今のプランでは3%程度を想定している。
  • 次期中計で重点領域比率を60%から70%にするためは、見極め事業を重点領域にどのように上げていくかが重要となるのか。

    2022年度は対前年で4%の売上高成長率にし、それ以降はCAGR4%+αの成長率を目指す。その場合、見極め事業を大きく伸ばすことは全く計画していない。2018年度決算説明会の中で説明した6つの重点事業は、過去から足元に掛けても3%程度のオーガニック成長が出来ている。よって、この6つをより重点的に取り組めば、4%+αの成長は実現できると考える。見極め事業については、成長率をゼロとしている。

    (見極め事業を伸ばすというよりかは、重点事業を積極的に伸ばすということか、との問いに)Yes。

  • 当社の総資産ベースで3%程度の事業資産圧縮ということだが、果たしてそれはアセットライトなのか。資産の3%を減らすと、重点事業比率が60%から上がるというロジックが繋がらない。重点事業比率60%とそれ以外の40%の比率は殆ど変わらない。資産ベースで3%程度削り、その3%分を重点事業に投資することで、重点事業比率60%の成長率が加速するのか。これをどの様に考えれば好いのか。

    重点事業比率60%以外は非重点事業と見極め事業である。見極め事業については、マーケティング投資やR&D投資を落として、成長しなくてもよいという判断をし、重点事業になり得ると明確に判断できない限り、そこへの投資は行わない。

    (設備投資で考えた場合、重点事業比率60%への投資水準が上がっていくのか、との問いに)Yes。

    (現時点の重点事業比率60%への設備投資割合はどの程度か、今後はどの様な割合になるのかとの問いに)17-19中計では2,300億円の60%を重点事業に費やしたかったが、実態はそれが出来ていない。その理由は維持更新投資に費やしているからである。これが計画通りに出来ていれば、もう少し重点事業を成長させることが出来ただろう。それが出来ないのは、重点事業以外の事業を続けているからである。選別の判断基準を決め、重点事業或いは見極め事業の方向性をはっきりさせた上で、投資をしていく。

  • 重点事業比率60%と非重点事業比率40%では現状の売上構成比率と大きくは変わらないので、成長事業に大胆に投資するというイメージがない。見極め事業のうち、重点分野に入るものは投資をするが、それ以外は何もしないのか。

    見極めて投資をしない事業(=非重点事業)は縮小または売却する。1,000億円の中のアセットライトには見極め事業は入っていない。

    (1,000億円で売上成長率3%かもしれないが、今後5~10年では違う数字にならないか、との問いに)それは次期中期計画策定の中で議論して見極める。非重点事業は見極め事業の規模よりも小さい。非重点事業は止めるか縮小する。その対象を含んだのが1,000億円になる。

    (後ろ向きの改革は前倒しして1回で終わらせたい、と聞いていたので大胆な改革を1年先か2年先にやると思っていた、との問いに)非重点事業については、やらないことを決めておりアクションをとっていく。その対象を含んだのが1,000億円のアセットライト中に含まれている。  

    (どこかのタイミングでリストラをやらないといけないのか、との問いに)リストラをやらなければいけないかどうかは今後審査をする。

  • 事業の括り方を変えて、あまり改革が上手くいった会社は少ない。新しい括り方によって責任の所在が不透明になることはないか。例えば味の素AGF社の技術を海外に展開する為に括り方を変え組織変更することで、事業実態が見えにくくなることはないか。なぜ、食品事業全体で大きな改革をやらないといけないのか。

    実務を共有できるものもあると思っている。例えば、「クノール®カップスープ」や日本の家庭用商品のフリーズドライ商品は自社で製造しているものもあるが、大半は外注に出している。味の素AGF社はフリーズドライ商品の販売低下により設備を停止しており、そのアセットを抱えたままになっている。日本食品全体で一体運営しているように見えるが、各グループ会社の社長がそれぞれアセットを管理している。一体運営をするために組織改定を行う。また事業の括り方を変えることで、味の素AGF社だけでは出来なかったことを当社と一体運営で事業の可能性を見いだす事に着手しており、現在味の素AGF社の事業は見極め事業になっている。

    (使える共有設備は、同じ地域の中で共有できるものではないか、との問いに)輸出入など共有はできる。昔と比べてビジネス形態は変わってきている。日本のコストが高くて現地法人化しないとビジネスにはならない、という構造からは変わってきている。

  • 経営基盤検討会について、位置付けがどう変わったかについて教えて欲しい。

    2018年10月までは経営会議の下にある組織体だった。メンバーは、栃尾専務、高藤専務、福士専務の3名に経営企画部が事務局として入り機能したもの。テーマは各事業に関するものだけではなく事業を横断して強化すべきもの、例えばR&Dの強化、デジタルプラットフォームをどう考えるか、サプライチェーンをどのように短縮しキャッシュコンバージョンサイクルを改善するか、ということについて議論をしてきた。その中でグループガバナンスという形で、子会社に任せてきた部分にかなり課題がでてきた。象徴的なのは北米冷凍食品の味の素フーズ・ノースアメリカ社(以下、AFNA社)や味の素AGF社。これが2017年度、2018年度に顕在化した。グループガバナンスを強化する必要があるということで、機構上の変更は2019年6月25日の株主総会を経てだが、2018年11月以降は社長が議長を務め、実質的には経営基盤検討会は取締役会に付属する形へと運営を変えた。メンバーは議長である社長、食品事業本部長、アミノサイエンス事業本部長。また常に会議に入るわけではないが社外取締役ともかなり密にコンタクトをとりながら、全体最適、市場のマクロ感への適合力という観点でテーマを定め経営の大きな方針を決めた上で、執行部隊である経営会議ではその方針を受け実行するという体制へ変えてきている。加えて、形の上でも進めていくために、株主総会後新たに社内非執行取締役を増員する。会議の頻度も高くいつも社外取締役が入ることは難しいため、増員した社内非執行取締役が監督の機能として会議に入り、社外取締役とのコミュニケーションを良くしていく。

  • 経営基盤検討会で事業構造が変わるのは、2022年度なのか、或いはもっと時間が掛かるのか。

    長期投資家から本格的に要求されているKPIの水準を2022年度に達成するのは難しい。2025年度に実現するために、20-22年度に相当な改革をやる。

    (社長がリーダーシップをとって2025年度に向けたプラットフォーム作りをするということか、との問いに)私と経営陣で進める。

  • 次期中計策定プロセスのイメージについて教えてほしい。個々の事業の計画値をどの様に見極めるのか。どのようにストレステストを行うのか。

    計画策定と実行は新しい役員体制でやっていく。来年に向けて大きな変更は、日本の食品は家庭用事業部、海外の食品は海外事業部がR&Dのテーマ設定とマーケティングのコントロールタワーになっており、家庭用事業部は日本を考え、海外事業部は海外法人のサポートをしている。来年はセイボリー事業部とQN事業部とグローバル冷凍戦略部という新しい3つの組織が各事業のアセットオーナーになって、現地法人と協議しながら事業を推進していく。アセットライトの対象、重点事業と非重点事業の見極めについては、一つずつスクリーニングをやっている。これは今までの中期計画策定のプロセスにはなかった。

    (実現可能な事業計画や反対に不可能な事業計画があがってきたときに判断するのは誰か、との問いに)経営基盤検討会で判断する。

  • 当社の海外、国内(味の素AGF社も含めて)買収事業はどれもうまくいっていない印象。その原因はどこにあるのか。3、4年程前に買収案件検討の為、対策チームを作ったとお聞きしたが、今も活発にそのチームで買収案件を探しているのか。それとも買収事業からの減損が続き、当社の買収に対する考えが変わったのかお聞かせ願いたい。

    現在の海外食品の成長はM&Aによって得られたものであると認識している。一番影響が大きいのは2000年代前半、当社が保有していたユニリーバ社のアジア子会社の株式の50%をユニリーバ社へ売却した。調味料・加工食品について独自の成長戦略にシフト出来、商品のポートフォリオが拡大したことである。これが無ければ今日の成長は無かったと思っている。冷凍食品事業で言えば日本酸素社から買収した米飯やデザートの事業であり、同事業の成長を牽引している。医薬事業で言えば輸液の事業を買収した上で売却し、現在のジョイントベンチャーを設立し、厳しい環境下でも順調に事業を継続している。ヘルスケア事業ではCDMO事業の北米アルテア社の買収や核酸医薬事業の日本ジーンデザイン社の買収はその後順調に展開できており、医療食事業の北米キャンブルック社は買収1年後に黒字化した。直近、北米の冷食事業やアフリカの食品事業で減損を計上したが、全体としてみた場合、M&Aは総じてうまくいっていると思う。

  • うま味調味料の国内需要のピークはいつだったのか。消費者が成熟化するとうま味調味料の市場は縮小することはないか。

    うま味調味料の国内需要のピークが何時だったのかを示すデータは無いが、この10年間は年間10万トンの国内需要は変わらず続いている。家庭用の「味の素®」については1970年代に販売のピークを迎えているが、外食用および加工用の「味の素®」の需要については横這いで維持できている。ご承知の通り、グローバル需要としては年間2%の成長率を維持している。

  • 当社ブランドの現状の認知率について、国内外の状況を教えていただきたい。

    インターブランド社のグローバル統合ブランド調査をベースに、当社の主要展開国である11か国(日本、アメリカ、フランス、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブラジル、ペルー、ナイジェリア)について、ブランド認知度調査を設けている。11か国の平均認知率は65%。アメリカとフランスが10%以下だが、残りの9か国では80%以上の高い認知率であり、これは大手グローバル食品企業と同レベル。また日本は94%の認知率であり、大手グローバル食品企業を上回っている。どのように強度を上げていくかについて、エリアという観点ではアメリカとフランスにおけるプレゼンスをしっかり上げていく。味の素ブランドを使った製品を増やしていく必要があり、主に冷凍食品が担う形で着手している。加えて、コーポレートブランドコミュニケーションという形で2018年度から新しいコミュニケーションメッセージを主にSNS通じて発信し始めた結果、少し状況が動いてきている。またWorld Umami Forumを開催しうま味による減塩の推進を訴求するなど、ヘルスケアに貢献できている企業だということを連動させていく。グローバルなPR戦略を統一させていく。

  • フードロス削減目標に対して2018年度は大幅に増加しているが、その要因と今後の具体的な削減策について教えて欲しい。

    2018年度にフードロスが大幅に増加した理由は2点ある。1つは味の素AGF社のボトルコーヒー製品(パーソナルタイプ)の終売に伴う廃棄である。もう1つは味の素フーズ・ノースアメリカ社におけるフードロスの概念が限定的であり、原材料の前処理段階での廃棄、不良品の廃棄、バリューチェーンのプロセスでの廃棄など各工場の集計精度向上などに伴い増加したが、2017年度と比較し実態として大きく増加したという訳ではない。今後は2018年度をベースとして削減に取り組んでいく。削減策については、我々のフードロスは製造工程内等で発生する比率が圧倒的に高く、味の素冷凍食品社、味の素フーズ・ノースアメリカ社、タイ味の素販売社、味の素AGF社、味の素食品社といった食品製造会社が中心であり、事業管理部門と連携して現在、各社で策定されている削減案に取り組んでいる。一方で、賞味期限によるフードロス対策については賞味期限表示の見直しや流通段階における在庫の賞味期限判断の緩和要請などを行うことにより、主体的にフードロスの削減に取り組んでいる。

  • グローバルで関心が高まっている気候変動について。今後求められるTCFD対応について西井社長の考えをお聞かせ願いたい。またTCFDで求められているシナリオ分析について、タイ市場で試験的に行ったものをどのような時間軸で全社へ展開していくのか、現時点でのイメージを教えて欲しい。

    TCFDに関しては、5月のコンソーシアムで賛同表明。これから具体的に、コミットメントレベルから承認を得られるレベルまで進めていこうとしている。シナリオ分析はタイで行っており、次期中計の中で他エリアにも展開を拡大していきたい。

  • マイクロプラスチックについて社内で議論がなされていると思うが、マイクロプラスチックに留まらず、広く循環型社会の形成推進に向けた当社の取り組みをお聞かせ願いたい。

    プラスチックの削減については、2030年までにプラスチック廃棄物ゼロ化実現を目指すというポリシーを発表した。具体的には3R以外ないが、自社で削減できるものは進めていき、リサイクルという観点で社会システムに対しどのように影響を発揮していくかについては次期中計の中にプランニングを織り込んでいきたい。循環型社会の形成におけるイニシアチブということでは、当社が最も得意なのはゼロエミッションに向けた活動。現時点でも廃棄物・副生物の資源化率99%を実現し続けている。社会にとって有用だということを今後もしっかりとアピールしていく。またフードロスに関して、2018年度の実績が28憶円増加している。短期的な事情としては、味の素AGF社のパーソナルPETの終売にともなう在庫処分を行った。もう一つ要因となっているのは味の素フーズ・ノースアメリカ社。北米においてはフードロスという考えがまだあまり浸透していない。そのためデータの取り方のところで、単純な廃棄ロスとしている場合があり、原材料や物流の過程で発生するものなども含め段階的に見直しをしてきた結果、ようやく2018年度に実態に近い数値を把握することができた。つまり急激にロスが増加したわけではない。2018年度の実績をベースに、今後も削減努力をしていく。循環型という観点では、製品のライフサイクルそのものを削減するという側面でイニシアチブを発揮している。例えば日本では、納品する際の3分の1ルールの見直しについて積極的に働きかけており実現できるのではないかと見ている。また賞味期限表示も日付表示から月表示にいち早く切り替えており、2018年7月に完了。消費者に使っていただく段階まで含めて循環型にしていくよう努めている。

  • 認証パーム油への切り替えに関する進捗を教えていただきたい。

    2017年度の認証パーム油の使用率が14%、2018年度は25%まで進捗した。認証パーム油の普及そのものが遅れていることが大きな原因。2020年度までに使用率100%という目標は達成が難しいだろうと理解している。ただし、世界中のパーム油を使う食品会社が同様の状況で、自身もボードメンバーであるザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(以下、CGF)においても非常に重要なテーマとなっており、認証機関に対する働きかけを強化している。また各社が持っているプライベートな認証システムを使い、国際的な認証基準には至らないが認証を目指しているサプライヤーを使うことによって、支援もしながら供給量を増やすということに軸足を移している。CGFの4つのKPIは、認証パーム、認証紙、大豆の調達先、肉牛の調達先。紙にしては当社は95%の認証率を達成しているが、パーム油で課題がでている。また、この4つのKPIに基づきサステナビリティ調達を実行したとしても、森林伐採を縮小するというもともとの課題解決に100%つながっているか、というところにギャップが出てきている。上位概念である森林伐採の縮小についてどのようなアクションが取れるかということについて、CGFでは2018年秋から議論を開始したところとご理解いただきたい。当社の非財務の目標の中に、パーム油と紙だけをKPIにしているのは、圧倒的にグループ全体で言うと、大豆と牛の使用は微々たるものなので指標にはしていない。

  • ガーナの栄養改善プロジェクトは収益貢献ができていないようだが、ベトナム学校給食プロジェクトと比較してうまくいっていない要因は何か。

    ガーナのプロジェクトは、WHOと保健機関との連携によりボトムオブピラミッド(以下、BOP)を対象にした栄養改善プロジェクトであり、ビジネスが難しい。Creating Shared Valueは事業そのものを通じて健康栄養課題に貢献することなので、一定のビジネススキームが出来上がっていないと、この効果は生まないだろう。一部、グローバル食品企業の成功例はあるものの極めて少ない。BOPビジネスは商品を国連やWHOに販売するモデルに転換しつつある。当社の海外での成果としては、最初にベトナムが成功モデルになり、タイでも始まり、フィリピンで取り組みが開始されている。日本ではダブルバーデンの問題が深刻であり高齢者の方の不足栄養、過剰栄養の問題が起きている。当社は「勝ち飯®」で主に減塩による過剰摂取問題に対する取り組みを32都道府県と連携して進めている。野菜摂取による栄養改善の普及も46都府県に展開している。ASVアワードのベトナムの事例のような取り組みについては、全社を挙げて取り組んでいるとご理解いただきたい。

    (SDGsは1番目、2番目に「貧困を無くそう」、「飢餓をゼロに」とあり、当社の取り組みが活かせそうであるが、国連相手のビジネスでは綺麗ごとを言っても収益に貢献できないのか、との問いに)Yes。ガーナのプロジェクトについては、2017年に味の素ファンデーション(以下、TAF)を設立して、当社はドナーの立場となり、TAFが同プロジェクトを継続することにした。事業として継続するのは難しく、収益貢献できなければ投資家の方とのコンセンサスがとれない、と思っている。10年やってきたが、当社ではビジネスとして継続するのは難しいという判断をした。

  • 2018年にクライアント・イノベーション・センターを設立したことによって、当社に起きた変化は何か。

    アミノサイエンス事業のバイオ・ファイン研究所の機能として造ったが、食品関係の得意先からのご相談が多く、より美味しいものをつくりたい、食品ロスの削減につながるような保存性の長いものをナチュラルにつくれないか、などといった思いを持つ来訪者が多い。川崎のエリアは、日本の中の企業の研究開発機関が集積されたエリアでライフサイエンスの機関が集約している。またIT関係の企業も多く、当社と一緒にできないか、といった話を頂く。当社は素材やサービスの提供をし、BtoBtoCのビジネスに対して共同で課題解決の為のソリューション開発を進めることができる。一部、秘密保持契約を締結して、ビジネスが進み始めたものもあると聞いている。

  • 働き方改革について、取り組み詳細や考え方を教えていただきたい。

    キャリア・ダイバーシティを進め、それによりイノベーションを起こしたいという考えで、味の素社、国内のグループ会社を対象に取り組んできた。まずは味の素社がリードしようということで、総実労働時間の短縮、プロセスにおける業務の効率化を図ってきたところで、一定のレベルは達成できた認識。2018年度の総実労働時間の目標は1,800時間としていたが、結果は1,820時間程度。スタート時は2,000時間を下回る程度であり大幅に改善ができたと思っている。ただし時間短縮が目標ではない。1,800時間レベルはグローバルで見ても標準的であり、今後さらに総実労働時間を減らすということではない。1,800時間の中でより創造的な仕事、イノベーションを生む仕事に時間を使えるかというのが重要。効率性ではなく、生産性を高めるという観点で、これからステージ2に入る段階。また2018年度までに本社ビルのフリーアドレス化が完了。それに伴いICTの業務効率性を進めるために完全ペーパーレスに向かって開始したという状況。