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2018年度頃から、減損損失の計上が増えている。根本的なところで、どこにミスがあったのか。経営体質という観点で、要因をもう一度教えていただきたい。
2003年の減損会計導入以降の減損を振り返ると、M&Aに関するものが全体の40%。バルクの動物栄養、MSG、甘味料に関するものが35%。食品関係は、M&Aも含むが、30%という構造になっている。
脱コモディティについては段階的に進めてきた。しかし最後の一番難しいところが残っている中、この対策を取っている間に今回のような業績不振が起き、減損せざるを得なかったという状況である。M&Aについては、特に食品事業で新しい国に進出した時のプランニングの甘さが目立つ。勝ちパターンを持っている食品事業のポートフォリオを拡大しようとした際に、必ずしもその勝ちパターンを当てはめることができていないということがあると思う。一方でアミノサイエンス事業については、M&Aを中心に構造転換を進めてきている。少額で購入し、マネジメントの梃入れを行うことで、順調に次の柱になりつつある。全体として、食品事業のマネジメント体制に弱点があったと考えている。
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2019年度中間決算では減損損失の計上があったが、今後起こりうるリスクを一括で示すなど、突然のネガティブサプライズをコミュニケーション上避けていくことはできるのか。
アセットライト化による事業資産の圧縮額400億円の内、54%が2019年度中に発現し、残りの46%が次期中計で発現する見込み。アセットライト化を進める中では、減損などのリスクがあるとお考えいただきたい。
出来る限り2021年度までに終了したいが、場合により2022年度にかかる可能性もある。
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今後動物栄養事業をどうするのかということが最大の関心事。リジンの自社生産比率は8割もあるのか、という印象になっている。生産能力は50%削減したと理解しているが、それに対する説明はないため、当社を常に見ているわけではないファンドマネジャーからすると、言っていることと成果が違うという矛盾が残ってしまっている状態。 また自社生産比率を50%以下にする計画を発表した際の前提は、スペシャリティによる事業利益が50億円程度出るということだったと思う。しかし足元、スペシャリティも赤字になっている。バリンもコモディティ化する中、コモディティの収益性低下をスペシャリティで支えられなくなっている。その中で事業を継続する意味は何か。FY20上期も赤字が続くといわれている中で、まだ続けるという気持ちなのか。市場の目線とのギャップを埋めていただきたい。
コモディティの自社生産比率が50%では十分ではないということと、スペシャリティの成長が遅く計画に対してギャップがあるということの2つの課題を抱えており、今提携を進めようとしている。ただ提携の条件として、残るアセットに対する捉え方は様々であり、検討している状態。単独での存続はかなり難しいだろうと判断している。
売却ではなくなぜ提携なのかという点について、スペシャリティというのはアミノ酸ミックスの技術を使った製品であり評価は非常に高く、スペシャリティ領域で提携を組みたいという話は結構ある。コモディティのアセットを全て持ったままでは共倒れになってしまうがここを半分にしたので、提携によりこの局面を打開しようと考えているところである。
(欧米の生産拠点の更なる減損を覚悟しなければいけない、という印象を持っているがどうか、の問いに)
減損計上の有無については、まず生産の転換ができるかどうかによる。タイとブラジルは停産し減損も計上したが、欧米も同様というわけではない。ただ、一定の減損リスクは残っている。
(「AjiPro-L®」の技術を残したいから売却はしないという話は、今までもあった。しかし未来永劫、当社だけが作れるものだと断言できないのではないか。スペシャリティの技術がコモディティ化するリスクはあると思う。従って、まだバリューがあるうちに売却をする方が資産価値を高めるチャンスになるのではないだろうか、の問いに)
「AjiPro-L®」を残すための提携ではない。動物栄養事業が持っている強みの提携先を探している、ということである。
(それではB/S上に残る。方向性や戦略は理解するが、どのようにリスクを回避しマネタイズしていくのか、の問いに)
今、交渉中であるため詳細は申し上げられない。現状のまま事業を継続すると、今後3年間で大幅な赤字となるリスクがある。そうならないために提携やアライアンスという方法を模索しており、それを最優先にしているとお考えいただきたい。
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アミノサイエンス事業など育ってきている良い部分があるのに、西井社長の時代に負の要素がずるずると継続していて勿体ないと感じている。まだ残っている動物栄養のコモディティに対する対応が数年早ければ、今の段階で次の成長に向けスイッチできたのではないか。負の遺産があってもよいが、現時点でリジンの自社生産比率が8割とスピード感が遅くなってしまったのは、数年前の対応に間違いがあったのではないか。
2015年の社長就任時は国内医薬事業のスピンオフが最大のテーマであり、相当な労力を注いでいた。一方動物栄養事業については、脱コモディティによる構造改革を進めてから既に10年経っている。ギアチェンジをしたということで、自社生産比率を50%に縮小することを17-19中計で実施した。2016年にタイとブラジルでの停産を決め、計画どおり実行した。残っているのは欧米で、これがまだ課題として残っている。
数年前の私の判断として唯一間違ったのは、自社生産比率を50%にすれば、ボラティリティが縮小できると考えたこと。スペシャリティがもう少し伸びると思っていたため、ジャッジを誤った。アフリカ豚コレラは予測しようがなかった話ではあり、OEM化を進めていたことにより二十数億円は赤字幅の縮小をすることができたが、欧米にも大きな影響を与えた。結果としては、スペシャリティ成長に対するリスクを少し甘く見たということになる。
ただ申し上げたいのは、自社生産比率を下げる決断をしたことにより、提携パートナーが出てきているということ。2015年に社長のバトンを受けた時にはいなかった。基本的には完全に閉鎖をするか、停産しか選択肢がなかったわけだが、私としてはいずれも判断しきれなかった。よってパートナーを見つけ、事業を継続させながら従業員の雇用などを守ることを志向し今に至っている。
(自社生産比率が高止まりしているのは、単純に販売量が落ちているためという理解で良いか、の問いに)
Yes。リジンは20万トン弱の自社生産を縮小、停産し、生産キャパシティは50%に減らした。これによりもう一度スペシャリティを評価し、パートナーシップを検討できるのではないかという所が出てきたということである。
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日本を代表するような会社で、事業構造を転換している企業は多くある。それらの企業と当社との違いは、本業との親和性ではないか。例えばヘルスケアの新しい技術を用いて、おいしさや栄養・健康というところにもう少し転用できる部分はないのか。それができていない要因の一つとして、医薬品と食品との間に壁があったのではないだろうか。
非常に本質的な話であるが、医薬品と食品の壁はあった。
1956年に競合他社が発酵法によるMSGの製造技術を開発した。それまでは抽出法であり当社の独壇場だったが、発酵法というのは圧倒的なイノベーションであった。当社はこれを追いかけ、競合他社を上回る技術開発を行うと共に、さらに生産性を追求する中で合成法を検討し、これが医薬事業につながった。従って、発酵法とは全く違うノウハウ蓄積のため、新たな人財を投入した。
結果として、発酵法の方が性能が良いということと、食品に使う技術であることを考慮しMSGの製造技術として合成法は中止した。1960~70年代は食品の安全性に対する論争が起きた時代でもあった。
現在は単独では創薬はやらないと決め、EAファーマ社という形態をとった。CDMO事業における化学合成技術応用もまだ残っているが、発酵法から作られた素材をベースにしている部分もかなり大きく、シナジーは出てきている。また2019年4月にイノベーション研究所を食品研究所とバイオファイン研究所に集約した。バイオファイン研究所は食品の素材をゼロから作っており、ここでもシナジーはかなり出てきている。分析技術など食品研究所との交流もあり、今までのような壁がある状態ではない。
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テクノロジーのオープンイノベーションに対して積極的な会社(東レ社やブリヂストン社)とかつて当社は一緒に取り組んでいたと思うが、成果をあまり聞かない。新しいビジネスに事業を構造転換する時に当社ならではの課題があるのではと感じるが、どうか。
東レ社やブリヂストン社と共同で何をやろうとしたかというと、発酵法の巨大な設備をホワイトバイオに使おうとした。ブリヂストン社は合成ゴム、東レ社はナイロンの製造方法として、発酵法を使えないかということだった。2000年代後半、研究をさらに加速させるという観点で提携した。ただ、タイヤのゴムを発酵で作ろうとすると当社の生産キャパシティでは全く足りず、ある程度早く見極めをしている。反対に、例えばバイオプラスティクスのような新素材の開発については、当社のキャパシティでは大き過ぎる。これは実験機でできるレベルでよいということで、頓挫している。ただ、ホワイトバイオの世界は今後広がる可能性があると思うので、技術はパッケージとして完成させている。将来これを活用する機会は十分あり得ると考えている。
(いずれは、テクノロジーの実用化の部分で結果が出てくる可能性があるということか、の問いに)
医薬の分野で最終薬剤をつくる合成研究に携わっていたメンバーについては、CDMOの技術開発に回っている。分析や安全性の試験に携わっていたメンバーは食品の分野で十分応用が利く。食とのシナジーという観点では、「アミノインデックス®」のメタボリズムを測る技術は、食品と結びつけパーソナルな栄養改善につなげていこうと思っている。
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近年、ベトナムの風味調味料やタイの缶コーヒーなど、ローカルの競合から攻められている。最終的には上手く回復できているが、そもそもなぜ攻め込まれてしまうのか。
ローカルにおける競合の攻勢は仕方がないと思っている。2010~2015年にかけては、当社のFiveStarsでいえば、中間所得層が約9%増加していた。それが2015年以降は約4%にまで減速している。つまりかつて9%の経済成長を前提としていたが、そうではなくなっているということ。その中で風味調味料やドライセイボリーの領域においては、プレーヤーがグローバルジャイアントか当社ぐらいしかいないため、チャレンジャーが参入してくる。
チャレンジャーのパターンは、基本的には低価格販売である。1年程度は継続できるが、それ以上は難しくギブアップしていくという構造にある。最終的には製品の品質や、ディストリビューション、営業力の強さである程度打ち返してきているが、1年分ぐらいは攻撃を受けている。これの繰り返しではないかと思っている。
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当社の海外ビジネスはかなりの頻度で想定外の出来事が起きている。会社の対応がどうしても後手に回っているのではないかという印象が拭えない。中間決算説明会でも、ベトナムの情報がもう少し早く経営まで届いていればという発言があった。情報伝達のスピード感にまだ課題があるのではないかと思う。ボラティリティを抑え、食品企業として安定的に海外で稼いでいく体制にするには何が必要なのか。
背景として、やはり新興国において、2010年代前半までの人口ボーナスの恩恵が縮小しているということがある。かつての成功モデルのまま、今後の成長について粗い絵を描いていたということが問題であり、ご指摘を受けることにつながっている。
一方人口構造として、中間所得層よりもう少し裕福な層が増えてきている。この層が同じようにトラディショナルトレード(以下、TT)に買い物に行き、ベーシックな調味料を買うかというと、そこが変わってきている。従って、コンビニエンスストア(以下、CVS)やモダントレード(以下、MT)というチャネルに対しても適切な打ち手を講じなければならない。TTでは、昔は一軒一軒を回り現金直売で販売していた。しかし今はディストリビューションが発達し、間にホールセラーを起用している。例えばインドネシアであっても、60%は卸店を通じて販売している。従って、プロモーションや年間行事の前に在庫を抱えるという状態が発生する。
つまり課題は、マーケットのマクロな動きを本社が認識できていない、ということが一つ。もう一つは、マーケットの変化に対し、現地もまだ適合できていないということ。この2つの課題については十分に社内で反省をしており、今後このようなことがないようにしていく。
(以上の話は以前から社長がおっしゃっていること。課題解決に向け、実行に際し時間を要している。少なくともしっかりと課題を認識し、取り組んでいることを伝えてほしい。今後まだ時間がかかると理解すればよいか、の問いに)
この問題は根本的なことであり、新製品の発売や製品のポートフォリオ拡大などで何とかなるものではない。業績がボラタイルになっている背景をきちんと理解し、MTやCVSにも種まきをしながら、販売ボリュームの大きな基礎調味料と風味調味料の2つをどのようにして持ち上げるかということが最も重要な点である。ここのトレンドが上がってくれば、成功モデルを持っている強みを生かせるだろう。
CVSやMTに撒いた種が収穫に至るまでにはそれなりの時間がかかる。それと調味料のベースラインを上げる仕事はマスで変えていけると思うので、しっかりやっていきたい。
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中間決算説明会で、ローカルのキャッチアップに対しどう対応するかという質問に対して、グローバルでセイボリー事業部を作り、日本と海外の情報を一本化するという回答があった。なぜそれによって競合に対応できるのか、具体的に説明していただきたい。
セイボリー事業部とすることで、大きなマーケティング戦略の方向性をより本社主導で検討していく。製品のレシピや営業体制を現地適合させるという方向性は変えない。
例えばデジタルマーケティング。地域ごとにやるよりも、本社主導で一本化した方が圧倒的にデータ量も集まり、ソリューションも明確になる。もう1つは、調味料の戦略が大きな転機を今迎えているということ。今までは基礎調味料「味の素®」があり、各地域の風味調味料があり、その上にメニュー用調味料があった。これは各国で、生活レベルが上がっていく過程で有効だった戦略である。結果当社は、ドライセイボリーのグローバルシェア23%を獲得するに至った。しかし今後増加する生活者の層は、ミドル層ではなくもう少しアッパーの層。加えて高齢化が進むということが起きる。アッパー層に対するマーケティングと高齢者に対するマーケティングは日本が一番進んでおり、多くのソリューションやノウハウがある。これを現地にトランスフォーメーションしていく戦略である。
(既に新興国においても、高齢者もしくは豊かな層が増えてきているのか。それとも長期的に見て変化していくということか、の問いに)
特にFive Starsでは人口トレンドと購買力の変化を追いかけているが、2020年から2030年にかけこの動きが加速すると見ている。
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新興国におけるローカルプレーヤーの台頭は今後も続くだろう。それにより、今までは一定のマージンを守るということが共通認識としてあったが、想像以上のディスカウントが起こってきている。当社はその中でどのような戦い方をしていく考えか。
新興国でも、カテゴリーキラーのような企業が出てきたというのが実態だと思う。やはりブランドの価値を作るために、品質の向上は怠ってはいけない。グローバルジャイアント企業は、セイボリー領域を完全にキャッシュカウにしていっていると思う。先方も新しいチャレンジはしているが、特に当社が先にやっていくということが大切。またローカルプレーヤーが新しい価値を作っていくことは難しいと思っている。
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海外調味料事業における当社の強みはローカライゼーションだと思う。今後は商品開発やマーケティングを本社主導にしていくということかと思うが、日本からはローカルで起きている変化が見えない部分もあるのではないか。
今までは家庭用事業部が日本のマーケットを、海外食品部がグローバルのマーケットを見ていた。今後はエリアで分けるのではなく、セイボリー事業部とクイックナリッシュメント(以下、QN)事業部という2つになる。約130カ国に展開しているのはセイボリー事業部であり、QNは加工食品であるため展開地域は限定的。今海外事業をコントロールしている海外食品部のメンバーは、ほとんどがセイボリー事業部に入るため、ご心配には及ばない。投資戦略は本社が主導で行うが、現地が置き去りになることは全くない。
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海外調味料事業について、日本でやってきたことを現地に持っていっても合わないというのが西井社長の考えだと理解している。競争環境の変化により業績予想を下方修正するということが次々と起こってきたが、何かしらメスを入れていかないとまた同様のことが続くのではないかという危惧があるが、どうか。
マクロ環境の変化と今起きていることをまず整理をする。その上で現地主導のマネジメントスタイルと、今後変えていく点という観点でお伝えする。
まずFive Starsでは、ミドル層のCAGRは2015年まで9%と成長してきた。2015年はタイの人口増加カーブが寝始めた時期で、その影響等により足元の成長率は4%程度となった。今後、2020年から30年にかけては2%程度になるだろうと予想されている。当社は2005年頃から海外で風味調味料事業を本格的にスタートし、2010年に向かって緩やかに成長、2010年から2015年頃にかけては2桁成長と最大の成長期だった。つまりミドル層の増加カーブと当社の海外食品事業の成長はほぼリンクしている。当社はさらにマーケットシェアを取ってきたというプラス要素があるので、市場を上回る成長を果たしてきた。
2016年以降は人口増加カーブが緩やかになったことにより、全体的に現地における成長率が緩やかになってきたことに加え、ローカル企業の参入で大幅な安値攻勢を受け、一定期間シェアを奪われるということが連続して起きている。
以上はある意味当たり前の減少であるが、それに対し早めに対策をとるという感度が、やはり現地主導では弱いと考えている。ここをコントロールする機能をしっかり持たなければいけない。従って、日本食品と海外食品という括りではなく、グローバル調味料事業部、グローバル加工食品事業部、グローバル冷凍食品事業部という体制をとっていく。グローバルでマーケットを見渡した時に、可能性があるところに成長投資を集中できるコントロールタワー機能を強化しようと思っている。この点が修正点ということだ。
(2020年4月以降は新組織体制となり、期待してほしいということか、の問いに)
今、2月の次期中計発表に向け、各事業部が最終的なプランを作っている段階である。ここでは新たな組織単位で、戦略と投資の重点化プランを作り上げている。つまり組織の形はまだ対外的には変わっていないが、プランを作成しているメンバーが4月から名実ともに新組織で動いていくということになる。
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海外コンシューマー事業において、TTにおける自社セールスの教育に強みがあるなど、競争優位性はあるか。
当社は現地適合で製品開発をしているということと、配荷力は非常に強いものを持っており、これは圧倒的な優位性である。
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消費者の需要が高度化し、販売チャネルもMTの比率が高まっていく中で、当社製品をより高度化しないと需要もマージンも取れないと思う。製品のラインナップは現状で十分だと考えているか。加工食品や冷凍食品なども含めどのように考えているか。
日本では「ほんだし®」を始め、各種調味料で減塩製品のラインナップを補完的に持っており、伸びている。しかし海外では、Five Starsでも健康軸の製品はほとんど無い。今まではベースラインが伸びていたので、これでよいのではないかという状態だった。増加し始めていたミドル・アッパー層の需要は追いかけてこなかった。この部分は製品展開を強化しなければいけない。そこに、もともとミドル層向けであるメニュー用調味料を組み合わせていくことが必要だと思う。つまりセイボリーの厚みと、ラインナップを強化しなければいけないと思っている。加工食品については、今までは粉末飲料や液体飲料というように製品軸でしか語っていなかったが、今後は栄養軸をしっかりと持ち、当社でないとできないような製品展開に変えていくということである。
(それは自社ブランドで可能なのか。あるいはM&Aなども考えているのか、の問いに)
自社ブランドでできると思う。
(日本から海外へ導入していくということか、の問いに)
海外でも既に持っているブランドがある。例えば今年「Prottie®」という麦芽たんぱく飲料を東南アジア向けに発売したが、そのような製品をもっと強化していく。日本からだと、「アミノバイタル®」は東南アジアで展開を始めている。タイでイスラム圏のハラルに対応した製品を今夏から生産、販売しており、非常に手応えがある。これらの組み合わせで考えていく。
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今まで当社は、TTに根差したディストリビューションの仕組みがあったから強かった。Eコマースが海外でも拡大している中、今の仕組みで今後も確実に機能できるのか。
海外では、TT、CVS、MT、Eコマースの関係性が変化している。TTでも、過去のように全て当社セールスが回訪し現金直売で販売する割合よりも、卸店を通じて販売する割合の方が益々高まってきている。インドネシアなどでは約60%が卸店を通じている。当社セールスは新製品の紹介や店頭での販促活動に、重点を置く戦略としている。その中でMTやEコマースなどの販売部隊を作っても、大きなトレードオフにはならないと思っている。
(卸店を通じた販売を増やすことで、差別化が難しくなるのではと思うがどうか、の問いに)
ブランドのポジション、強さによって使い分けている。強いブランド(例えば「味の素®」や「Ros Dee®」「Masako®」など)は全てを当社セールスがやる必要がないだろう。一方、メニュー用調味料(例えば「Sajiku®」、「RosDee® Menu」など)のような手をかける必要のある新製品は自社営業で攻めていく。
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当社のアミノ酸の研究開発力は優れたものであるということはよく分かるが、食品業界という観点から見た時に分かりにくい部分がある。次期中計では新たな味の素社を創ろうとしているが、イノベーションを追求する際に、ガバナンスをどのように効かせてマネタイズしていくのか。個人的な考えでは、当社は食品会社であって食品会社でない。例えば非常に成熟しているヨーロッパの食品企業では、FMCGに徹している。いわゆる川上のイノベーションは外注しているというのが世界の構図だろう。しかし当社に限らず、日本企業は一体化している。今後グローバルでの競争を考えていく中で、スピード、規模で本当に勝てるのか。今後、味の素という会社をどう見られたいと考えているか。
6つの重点領域のうち、電子材料を除いた5つは、全てヘルスケアに関連する。つまり、食と健康のソリューションカンパニーに生まれ変わるということを、今後10年間の基本的なメッセージにしたいと思っている。従って、アミノ酸研究と食品をもっと結び付けていく。これからは医薬による治癒よりもどうやって疾病に至らないで健康増進を図れるかというテーマが圧倒的に大きくなると思う。最大のターゲットは、世界中で増える高齢者。ここについては、日本で培ってきたノウハウが非常に生きる。Five Starsにおいてもミドル層からアッパー層が拡大しており、健康な生活を送るための製品とマーケティングを集中していきたいと思っている。
これにより、当社の単一ブランドであるうま味調味料「味の素®」の成長をもう一度引き上げることができると思う。その最大の切り口は減塩である。様々なメニュー専用調味料や風味調味料があるが、唯一うま味調味料だけは塩が入っていない。かつ、料理に使用すると減塩効果を生む。
(うま味調味料にもナトリウムが入っているのではないか、の問いに)
塩に比べれば圧倒的に含有量が少ない。塩は、おいしさだけでなく料理法としても必要。従って塩をなかなかやめられないが、「味の素®」と組み合わせると30%以上の減塩ができ、かつ美味しい。これは非常に大きな需要となり、ポテンシャルも大きい。
(その際、No-MSGの攻撃に対してはどのような打ち手がとれるか、の問いに)
World Umami Forumを昨年、アメリカでスタートした。今年、日本でも化学調味料無添加の問題についてメディア懇談会を3回行った。かなり積極的に情報発信をしている。結果、アメリカのMSGネガティブ層が少しずつ減り始めている。例えば業務用の顧客で、マヨネーズをMSG入りに切り替えたり、メニューの中にMSGを使おうという動きが出てきた。今まではアジアでも、「味の素®」が減塩を手助けするという訴求はしてこなかったが、今後はグローバルで訴求していく。これにより「味の素®」の需要を大きく拡大することができると思う。1%でも上がるとインパクトはかなりある。
(メインターゲットは欧米市場か、の問いに)
No。東南アジア。アジアの食事は圧倒的に塩を多く取る。欧米の食事の塩分はパンに多く含まれているが、アジアは主菜と汁物に含まれている。
(それがプレミアム化につながるということか、の問いに)
Yes。また今まで海外では減塩製品の展開はしていない。日本だけである。60%減塩の「ほんだし®」は一切塩は加えておらず、含まれるのはエキスから出るナチュラルな塩だけ。これからは海外でも、風味調味料、メニュー用調味料の減塩製品展開を進める。このきっかけがWorld Umami Forumである。かなりNo-MSGの風潮が強かったアメリカでメッセージが受け入れられ始めた。その手応えを非常に感じている。
(World Umami Forumは毎年やるのか、の問いに)
初回の開催から、この9月でちょうど一年経過しており、今どこまで浸透できたかをレビューしている。今後は隔年ぐらいでの開催がよいのではと考えているが、その間も浸透活動は積極的にやっている。
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「味の素®」の減塩訴求は非常にポテンシャルがあり面白いが、いつから本格的に取り組み始めるのか。またこれに取り組もうとした際、東南アジア各国では当社製品のブランドがばらばらである。東南アジア全体で横串が刺さらないといったリスクになるのか。この状況を見直す必要性があるのかもしれないとも思うが、どうか。
これは2020年度からスタートする大きなテーマであり、今はそれに向かって準備を進めている。次期中計の柱になると思っていただきたい。
ブランドが国により異なるのは風味調味料やメニュー調味料であり、「味の素®」のコミュニケーションはグローバルで完全に一本化できるため問題はない。風味調味料の場合はブランドの前に、ハラル対応など地域適合がある。全く同じコミュニケーションでやるのは難しく、うま味調味料と風味調味料ではやり方を変えていくことになるだろう。
(2020年度、大規模なマーケティングの変化が見て取れるということか、の問いに)
Yes。コミュニケーションと社内の活動において変わってくる。
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減塩戦略は理解したが、その中で価格競争になったら意味がないだろう。当社ブランドが一番メリットを受ける差別化要因が製品に備わっていないと難しいと感じる。最終的に、当社が受けるメリットが最も大きいという結果にならないと、結局取りこぼしにつながってしまう気がするが、どのように取り組んでいく予定か。
今後も戦略が変わるわけではない。当社はNo.1ブランドのポジションを、各国・地域で築いている。競合他社も恩恵を受けるかもしれないが、当然ながらNo.1ブランドが最も大きな効果を得られるということである。MSGに対するネガティブ意見は、欧米だけでなくどの国にもある。それが払拭されればMSGのマーケットそのものは上がってくると思う。
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うま味調味料の減塩効果について今まで訴求しなかった背景と、なぜ今後は訴求できるようになるのか、教えていただきたい。
生活者の間には、健康に対するMSGの不安感がいまだに残っている。これを軽減する活動として、2018年ニューヨークにてWorld Umami Forumを開催した。このときのキーワードは減塩であった。アメリカのリスクコミュニケーションの専門家とも十分な議論をしたところ、今までの安全性や安心感を訴求するだけでは生活者の行動変容は起きないということが分かった。グルタミン酸ナトリウムの優位性の一番のポイントである減塩効果をもっと全面的に、積極的に出すべきだというご意見をいただいた。従って、MSGに対する誤解を解くためのPR活動をアメリカでやっている。結果として、今まで管理栄養士にもMSGネガティブといわれる人たちの割合が40%程度いたが、少しずつ減少し始め、食関心の高い一般生活者におけるネガティブ層も減ってきた。これがグローバルで減塩効果を訴求しようという計画の大きなきっかけとなった。
アメリカの動きを受け、MSGが減塩に良いというアクションは、ナイジェリア、ASEANの主要国、ブラジルなどでも同時に展開が始まっている。
また、日本でも「化学調味料無添加」に対する誤解を解くためのメディア懇談会を2019年に3回行った。またMSGを使わないようにすることで、病院や高齢者施設の食事で大きな弊害が起きている。おいしくないものを食べさせようとする結果、残食率が高くなりフレイル(虚弱)がどんどん進んでいくという構造にある。このようにNo-MSGが社会的な課題解決の邪魔をしているというメッセージも発信するようになった。2019年度上期の実績で「味の素®」の売上高が10年ぶりに前年を上回った。これは間違いなく減塩効果訴求の影響があると思う。購入世帯率も上昇しており、今まで使わなかった生活者が使い始めている。
この良い感触をベースにし、2020年度から大きく方向転換するということである。
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減塩を訴求した新しい調味料を発売するという考えはないのか。
考えていない。「味の素®」でやる。但し、和風、洋風、中華の風味調味料のフルラインのカテゴリーで減塩タイプを発売しているのは日本だけである。海外では展開がない。風味調味料の減塩タイプを製造する技術は当社に優位性がある。また日本で販売している「ほんだし®」の減塩タイプは通常品に比べと60%の減塩ができている。塩分は天然のエキスから持ち込まれるものだけになっており、このレベルの減塩を可能にしていることは、当社技術の優位性だと思う。
また各国で味の好みが異なる為、その国のレベルに応じて減塩を進めることになるが、このプロセスについても当社は優位性があると思っている。
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減塩に限らず、MTや富裕層に対するマーケティングは難しいところがあるのではないか。メニュー用調味料などはどうしていくのか。
確かにアッパー層は、どちらかというと無添加や、昔ながらの製法という部分にプレミアム感を感じ、それを求める傾向が強いということは調査結果で分かっている。従って、メニュー用調味料などはその需要に応えるようにしていく。ただその際、製品に減塩効果を付加していくというようなことが重要だと思う。例えば日本の「Cook Do®」も、1人前あたりの食塩相当量は約0.6グラム(1食を3.5人前で割った場合)。厚生労働省が推奨している塩分摂取量は、男性が1日8g、女性が1日7g。1食にすると2~3gなので、主菜で1gを超えると範囲内に収めるのは難しくなる。「Cook Do®」はおいしいだけでなく、実はかなり減塩が進んだ調味料だ。どういう食生活をすればよいのか知識を持ってもらうことも非常に大事であり、広報活動をしっかりやっていくとベースが広がる可能性があると思う。これは醤油ではできない。うま味調味料ではできるが、醤油のうま味ではできないため、差別化の大きなポイントになる。
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今後減塩に関して、グローバルでどのようなメッセージを伝え、どのような取り組みをしようとしているのか。
マクロで今後数十年先を見た時に増加していく課題として、最大なものはメタボリックシンドロームである。加えて高齢者の低栄養問題がある。
それを防ぐ食による改善を、当社の事業戦略のど真ん中に位置付けていこうと考えている。いくつかある施策の中で一番大きいのが減塩で、次にたんぱく質不足への対策である。たんぱく質不足は高齢者のフレイル(虚弱)につながっていく。
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日本は和食の塩分が多いイメージがあるが、海外でも減塩を気にしている生活者は多いのか。
気にするというレベルではなく、最大のテーマだとご認識いただきたい。WHOが各国の塩分摂取量を発表している。その中で、当社の主要展開である日本、Five Starsは高塩分摂取国である。欧米も高い。日本やアジアの国々は汁物から塩分を摂る。欧米はパンの中に含まれている塩が多い。塩分摂取量とメタボリックシンドロームの1つである高血圧の因果関係は完全に証明されている。現に日本における3大疾病は、急性心筋梗塞、脳卒中、がんだが、グローバルでも心筋梗塞と脳卒中は共通。つまり食生活の改善の中では、減塩が一番重要だということだ。そこに当社の調味料事業が貢献できると思っており、舵を切っていくつもりである。
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減塩商品の価格戦略について。付加価値の分、高値で販売するのか。あるいは需要が大きい分、価格ではなく数量効果を期待するのか。
日本では、通常製品よりも20~30%高い。塩を減らした分を、うま味調味料やエキスで置き換え、別のアミノ酸で味を調えるということもあるため、どうしても原料コストが高くなる。GP率は守る方針であるので、通常品から減塩タイプへのスイッチが一定量起きても問題はないという構造。日本もまだ減塩製品は、通常品の販売ボリュームに比べると大きくないが、約20%ずつ伸びている。従って大きなトレンドになると思う。
(高齢者ほど減塩を気にするだろう。World Umami Forumの開催やSNSの発信などを行ってはいるが、高齢者にどのように宣伝をしていくのか、の問いに)
減塩などの生活の行動変容は難しく、なかなか進まない。日本やアメリカにおけるマーケティングとしては、情報を発信する栄養士の再教育の方が、非常にインパクトがある。料理人は減塩についての知識は非常に豊富でソリューションも持ちあわせているが、塩の代わりに「味の素®」を使うという行動変容にはなかなか到達しない。一般の生活者に普及させる手段としては、栄養士のほうが力強いと分析している。栄養士のカバー範囲は、メタボリックシンドロームも含む。高齢者になってから突然生活習慣を変えようと思っても難しいため、成人の時から変えていく必要がある。ここに対してはSNS等を始め情報発信が非常に盛んである。
また日本でも新興国でも、小学生ぐらいの子供達に対する食育も効果的。子供が変われば親も変わり、いずれ高齢者になっても大丈夫ということが起きるだろう。そのようなコミュニケーションの仕組みが徐々に分かってきたので、今後フォーカスしていく。
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今、国内の流通が大きく変わっていると思う。CVSも営業時間の変更や、大量閉店という話が出てきている。その中で、国内の冷凍食品やコーヒー事業に対する考えを聞かせていただきたい。
当社は、食と健康の課題解決カンパニーにシフトしていく。これは冷凍食品もコーヒーも例外ではなく、その目的に該当する製品の構成比を高めていこうと考えている。
これから人口減少がもう一段加速していくが、その中で健康寿命を延ばしたいという生活者は間違いなく増大するだろう。そこを捉えていきたいということである。
ただし、そうはいっても人口減少により、既存事業は競争が激しくなりレッドオーシャン化する分野もでるだろう。それに対し、日本の製品グレードに対し需要のある海外のマーケットへの販売、具体的には輸出を強化していこうと思っている。
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以前、主力商品により集中し、将来的にグローバルの競合と互角に戦えるようにしたいという話があった。例えば国内の冷凍商品では、米飯類、「ギョーザ」など強いカテゴリーが明確だと思うが、今後アセットライト化をより進めていく中で、縮小均衡になってしまうリスクがあるのではと思う。向こう10年後などを見た時に、どのような飛躍を遂げる計画なのか。
アセットライト化により、2020年度、2021年度のトップラインは1%程度の成長が続くと思う。これはほぼ現在と同じくらいの成長率。ただし売上高構成比が60%の重点事業部分の成長率は、現状3%程度だが、重点投資により早期に4%以上に上げていきたい。アセットライト化の第1段階が2021年度までに完了すれば、以後のトップラインの成長率は4%+αになるだろう。
事業利益に関しては、非重点事業は利益を多く出していない事業であるので、アセットライト化によるマイナス影響はあまりない。むしろアセットライト化期間中は、特別費用の発生とそれによるマイナス要素を皆様と共有していかなければならない。
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これから、いかに生活者視点に変えていくかということが大事になっていくと思う。仮に生活者が健康重視ではなくMSGが少ない味覚の方が好ましいと思ったときに、それに合わせた製品開発をするといった変化への対応は既に起こしているのか、今後やっていくのか。
生活者視点の変化については様々な調査を行っており、デイリーで製品開発、改良に影響を与えている。今一つのお客様相談センターで、味の素社、味の素冷凍食品社、味の素AGF社製品に関するお客様の意見を総合し、製品開発やマーケティング、あるいは経営トップにフィードバックする仕組みが回っており、かなり機能していると思う。幸いMSGが少ない製品を作ってほしいという声は全くないが、顧客満足度評価については新しい手法を導入することを今検討している。
(顧客の声を聞く仕組みは、グローバルではどこの国で整っているのか、の問いに)
Five Stars他主要国では通常のこととしてやっている。
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これまで当社は、現地法人のキャッシュフローの中での投資を基本としていた。今後、十分にキャッシュフローが整っていない国でも減塩製品に投資をするということは、組織変更も含めたグローバルで事業を一本化していくことの効果として捉えてよいか。
Yes。セイボリー事業が当社の屋台骨で、当然ながら過去の成功体験も一番大きい。日本でも「ほんだし®」の減塩タイプを発売するとき、現場のマーケッターたちは猛反対したと聞いている。売上高はさほど期待できないし、「ほんだし®」全体の収益性を犠牲にするかもしれないという議論があったが、実行に移させた。それがようやく定着し、振り返ってみるとやっておいてよかったということになっている。このように、先に起きる変化を読み取り、今やらなければならず、その上では事業部のリーダーシップが重要である。アジャストは全て現地でやってもらうが、減塩製品を風味調味料やメニュー用調味料に加えていくことはトップダウンでやるつもりである。
(調味料の付加価値化を図るためには、減塩にとどまらず様々なアイデアを出していくということか、の問いに)
Yes。もう一つのテーマは、たんぱく質不足の問題である。現在も「勝ち飯®」などで、肉と野菜の摂取量を上げるという取り組みをしているが、なかなかメッセージが届きにくい。バランスのよい食事を食べたほうがよいことは分かっているが、それができないから困っているという生活者に対しては響かない。「クノール®カップスープ」は、1食あたりの食塩相当量が1g程度であり、かつタンパク質が多く含まれているタイプも発売している。このような製品を具体的に提案して初めて、朝の忙しい時間でも行動変容してもらうことができる。即食性のある食品は、最も簡単に負担なくタンパク質を補えるプロバイダーであると思っている。ここを強化していきたい。加工食品の事業部をクイックナリッシュメントというコンセプトでくくり直すことにしたのも、そのような意味がある。
(それを、海外と日本でそれほど時間差なくできるようにするということだと理解した。そのために海外の設備投資の配分も今までより多くするということか。改めて、現地のキャッシュの中でやるという縛りは無くなるのか、の問いに)
Yes。アセットライト化のリソースアロケーションの中で、現地にある現金の環流を進めようとしている。そのために海外の少数株主の株式買い取りを進めている。親会社帰属の比率を上げていけば、当然ながら現金の環流はしやすくなる。現地のキャッシュを本社に一度集めれば、重点的な事業に再投資していくことが容易になる。
(無駄な資産を縮小し、2020年度以降は成長投資を加速させるということか、の問いに)
資産の圧縮については、非重点事業で400億円程度、リソースアロケーションで800億円程度とお伝えしている。膨らんだ固定資産は海外に多くある。それらは売却を進め、リターンを得る。次期中計の3カ年におけるキャッシュインを4,000億円程度まで上げ、株主還元と成長投資をやりやすくしていきたい。B/Sを現地法人が管理するのではなく、事業部がコントロールするように転換していく。コーポレートはその環境を作る。従って、コーポレートが主導で少数株主の持ち分比率を下げていく。
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日本や東南アジアで、当社はコストの効率化やマージンコントロールには非常に注力しているが、もっとトップラインの勢いが欲しい。スモールマスやデジタル、健康栄養などは新しい領域としてアドオンすると思うが、既存領域の勢いも増してこないと厳しいのではないか。今後5年先ぐらいを考えた時、何に期待すればよいのか。
「確かなグローバルスペシャリティカンパニー」、「グローバル食品企業トップ10クラス」というビジョンは、2010年に作った。2030年に向けたビジョンは、「食と健康の課題解決カンパニー」にしたいと思っている。
海外調味料の伸びが鈍化している背景として、Five Starsにおいてはいわゆるミドル層の人口ボーナスが、2015年までは9%伸びていたが、2015年から2019年にかけては4%に鈍化している。さらに2020年から2030年に向けては、2%になるだろう。今までのようなミドル層をターゲットにしたマーケティングだけでは、足元の売上高成長率をさらに下回る可能性があると思っている。これから人口が伸びるのはいわゆる所得のアッパー層。年齢的には働き盛りの成人であり、完全にメタボリックシンドロームの対象者だと捉えている。従って、当社のうま味調味料「味の素®」は減塩に最も適した調味料であるということを訴求する。風味調味料は減塩タイプの製品を発売していく。加えて、食の多様化という観点ではメニュー用調味料が必要になるので、これを組み合わせた展開に舵を切っていく。
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今まで大きく4つの事業区分だったが、事業構造の転換を行い、次期中計では6つの重点事業とする計画かと思う。細分化されることで事業構造はさらに複雑になると思うが、経営はどのように状況を把握していくのか。
6つの重点事業がこれまでも4つの区分の中のコア事業ということであり、細分化するというわけではない。例えば主力の調味料事業は「味の素®」、風味調味料があり、3つ目の柱としてメニュー用調味料がある。今もこのように細分化している。生活者の調理レベルの変化による細分化は今までも起きていたが、今はよりプレミアムな商品、より健康によい製品、より効率的な届け方と、生活者の需要が非常に多様化している。それがEコマースやデジタルの発達によって、一人一人とのコミュニケーション、そして配達が可能となってきた。従って、6つの事業においてもスモールマスに対して直接アクセスをしていかないと、マーケットを作りにくくなると考えている。細かい製品をたくさん作るという意味ではない。
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今後どの程度まで本社がグリップをすることになるのか。今までローカルに権限があったものの内、どの部分が本社主導になってきているのか、具体的に説明願いたい。
1つはデジタルマーケティングである。これは先進的なエリアはかなり限られている。例えば、アメリカと中国の情報を本社で把握し、Eコマース、デジタルプラットフォーマーとの交渉や契約を本社が一括で行い、その情報を各地域にフィードバックするということ。デジタルマーケティングについては、コントロールタワーを一本化した方が良いというのは現地法人も同じ認識であるので、今積極的に取り組んでいる。
情報のコミュニケーションについては、海外とのオペレーションは変わらない。今の海外食品部はもともとグローバルの戦略部であり、ここが大きく変わるわけではなく、日本と併せて1つの組織になるということ。むしろ先進国である日本のノウハウをストレートに反映しやすくなると思う。
(一般的にはデジタルの部分を指しているのか、の問いに)
もう一つ、健康栄養戦略がある。グローバルで今後増大するのはミドル層ではなくいわゆるアッパー層であり、これが人口ボーナスになってくる。基本的には大人、高齢者である。つまり健康問題が増大するということであり、それに対する健康栄養戦略については足並みを揃え共通認識でやっていかなければならない。例えば減塩タイプの風味調味料は、一定のスピード感を持って一斉に開発する必要がある。各現地に任せると技術的に難しい面もある。「味の素®」も、今までは料理をおいしくするという訴求しかしてこなかったが、実は減塩料理をおいしくする大変重要な調味料になる。塩を半分「味の素®」に置き換えると、それだけで30%以上の減塩ができ、かつおいしい。このような訴求を日本と海外で同時に展開する戦略は、本社で一本化した方がやりやすいということである。
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デジタル先進国は米国と中国とのことだが、当社の調味料事業の展開地域とは少し異なると思うが、必ずしも連動しているわけではないのか。
Eコマースと、ビッグデータ解析に分けて考える必要がある。アメリカと中国はビッグデータ解析の対象となり、プラットフォーマーとの情報共有という点がポイントである。
(デジタルマーケティングとはあまり関係ないのか、の問いに)
デジタルマーケティングは、各国で展開することになる。ただし中国は東南アジアのゲートウェイであり、日本で作っている製品を東南アジアに届けるには、Eコマースが一番適している。既に2019年5月から京東のマーケットプレイスに出展し、T-mallにも9月から展開を始めた。交渉の中では、Eコマースだけではなく一般チャネル向けにも日本製品が欲しいという需要がある。その観点では、マーケティング上の垣根が非常に低いということになる。
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2020年度以降の重点事業の内、デジタルや健康の戦略が該当するのはおそらく半分ぐらいではないかと思う。該当しない部分はどのような投資をし、成長を加速させる考えか。
デジタルに関しては、最終的な生活者解析の部分が共通の、アミノ酸のB to Cビジネス、加工用調味料のB to B to Cビジネスなどでは応用ができると思う。SNS等を通じたマーケティングはB to Cビジネスで活かせる。また減塩などはおいしさソリューション事業にも有効。従って濃淡はあるが、カバーの範囲は非常に広いと考えている。
(QN、おいしさソリューションの売上高規模はある程度大きいのか、の問いに)
おいしさソリューションというのは、現在は日本食品の調味料・加工食品の中に組み込まれている事業。天然系調味料や酵素製剤などを、フードサービスや加工食品メーカーの素材、アプリケーションに対し提供するサービス事業である。QNは加工食品であり、スープやコーヒーが該当する。
(やはり最も重要なのはコンシューマー食品で、次いでヘルスケアと電子材料ということか、の問いに)
Yes。
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次期中計の3カ年では営業キャッシュインが本中計と同程度の3,500億円ということだが、そのレベルでよいのか。キャッシュバランスの効率化を図ると言っている中で、株式市場は期待していると思う。3,500億円を最低限としたとき、どのくらいのアップスライドを目指しているのか。また非重点事業がまだ不明瞭ということだったが、2月の中計発表で解消されるのか。もしくはセンシティブな話であるので、株式市場が耐えて当社の戦略を信じるということなのか。ただその際、やはりキャッシュが向上してほしいという期待値がある。どのように考えているか。
3,500億円というのは営業活動によるキャッシュインであり、全体のキャッシュインとして示しているのは3年間で約4,000億円。ここには、アセットライト化により資産を売却するといった要素も有り得るが、アローワンスを持ってやっている。基本的には、売却による瞬間的なものではなく、3カ年で必要な営業キャッシュインが4,000億円だと思っている。3,500億円から4,000億円のところに、オーガニックでどう近づけていけるかというのがポイントであり、今ブラッシュアップしているところだとお考えいただきたい。例えばコストダウンでも、今までは低資源利用発酵などの技術的なソリューションであったが、デジタルトランスフォーメーションを進める中でのコストダウンは多岐に及ぶと思う。あるいは棚卸資産の圧縮により、キャッシュの回転が上がることもポジティブに働くだろう。
非重点事業について、2月の中計発表の時には諸事情あって詳細は申し上げにくいタイミングかと思うが、対象事業については何らかの形でもう少し具体的に示していきたい。
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営業キャッシュフローについて、次期中計の3年間でのキャッシュインを3,500億円から4,000億円に近づけたいという話があった。しかし動物栄養事業が赤字となりベースが下がってきているように感じる中、4,000億円に対しギャップがある。デジタルマーケティングによるコストダウンをしても数百億円のレベルではないと思う。どのような道筋を考えているのか。本当にできるのか、定性的でもよいので教えてほしい。
動物栄養事業で失われた営業キャッシュは70億円程度だが、それを前提にして3,500億円は堅いと思っている。それ以外で大きくキャッシュマイナスになっているものはない。
(4,000億円に向けた道筋はどうか、の問いに)
海外調味料をどの程度持ち上げられるかということが、一番大きなポイントだと思う。
(Five Starsのトップラインをどれくらい伸ばせるかということか、の問いに)
Yes。その次に、売上高構成比で約25%あるアミノサイエンス事業が、動物栄養を除けば2桁成長となっているので寄与すると思う。その部分をフラットに見たとしても、3,500億円はできるということ。
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アセットライト化の影響について、株式市場に伝わりきっていない状況が続いていると思う。2019年度上期の決算を終えて、何が最も伝えられていないと考えているか。
一つは、アセットライト化の程度と、それがキャッシュバランスにどのように影響するのかという点。重点事業の売上高構成比を60%から80%に上げていくというメッセージは出したが、非重点事業が具体的に何なのか、またそれによるキャッシュインがどの程度の割合を占めているのか。次期中計の3カ年は、現中計と同規模の3,500億円の営業キャッシュインを計画しているが、アセットライト化のやり方次第ではもっと縮むのではないかと思われていると思う。
もう一つは、成長エンジンである従業員のモチベーションがどうなるかという点。経営はアセットライト化というメッセージを発信しているが、現場の実行部隊がそれをどう腹に落とし込み、バネにして伸びていこうとするのか。この点が不透明なのだろうと思う。
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アセットライトを現場の実行部隊がいかに腹落ちさせるかという問題について、現場のモチベーションをどのように上げていこうと考えているか。 また今後の戦略として新しい富裕層にアプローチするということは理解したが、過去3年間、特に海外調味料を見た時に、当社らしからぬ取りこぼしがあったということが株式市場の失望につながっている。今後取りこぼしがないような仕組みというのは、どのように作られていくか。
非常に重要なポイントだと思っている。次期中計を進める中で、非重点事業の縮小に加え、コーポレートサービスのJV化、また機能子会社の再編を行っていくと、当然ながら味の素㈱の人財が就いていたポストが縮小される。その計画がある程度明確になってきているので、早期退職のレベルを上げようと打ち出したのが今回の特別転進支援施策である。従って、施策そのものについて大きなネガティブはないと思っている。つまりWin-Winの関係を作るということ。ただし、空席になったポジションには若手を登用する形になっていくが、その調整が上手くいくかが重要なポイント。特に欠員が起きたりすると、そこからネガティブな要素が広がる恐れがあると思っている。今エンゲージメントサーベイは2年に1回の実施だが、今後は1年に1回やることを決めている。毎年マネジメントの管理指標として導入しようと思っている。これにより組織が痛んでいないか判断が早くできるようにしたい。
(社内だけでなく、競合や市場環境自体が変化する中で、取りこぼしなくやっていく仕組みについては、何か強化するのか、の問いに)
仕組みというより、目的そのものをどう変えていくかだ。世の中に無い製品、あるいは美味しい製品を作っていれば売れた時代は、日本では遠い過去の話となり、海外も今後そのようになっていく。その中で、当社が得意とする調味料事業としては、健康増進につながるというアプローチが一番重要な目的だと思う。それを現場の一人一人まで落とし込んでいくということが、非常に大切なことである。つまり、海外で現地セールスが製品を販売する中で、どのように地域の生活者の健康増進につながっているのか、ということをきちんと見える化しようと思っている。
(今までの取りこぼしは、主にFive Starsが経済的に発展していく中で、健康増進という当社のメッセージが伝わりきらないことに原因があり、今後はその点を強化するということか、の問いに)
健康増進というメッセージが遠かったということ。肉と野菜をバランスよく摂るということが、例えば国によっては肉を食べられない国もある中で、現地の生活者の実感に合わないということもあった。会社は良い方向に向かっているようだが、ASVに取り組んでいる実感がないというのが、エンゲージメントサーベイから分かってきた大きな課題である。よって現地社員がもっと実感をすることができ、社外の方から見ても、重要なテーマだと感じてもらえる目標にしていく。
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アセットライト経営はギアチェンジの機会になるのではないかと感じている。当社はこれまでも長い歴史の中で構造改革を行ってきたが、良かった点、反省点ともにあっただろう。今回、食品とアミノサイエンスの2つの成長を確かなものにしていくために、どのようにギアチェンジをすることが重要と考えているか。
6つの重点事業のうち、電子材料を除いた5つの事業は食と健康の課題解決事業と位置付けられる。この事業に絞り込んだポイントの1つは、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)と直結していること。エンゲージメントサーベイをこれまでに2回行っており、食と健康の課題解決につながるASV向上ということについては約80%の従業員が賛同してくれている。しかし、一人一人の仕事が直結している実感があるかどうかという部分のポイントが低く、大きな課題である。従って重点事業に絞り込み、R&Dテーマともつながりをより強め、ギアを変えていきたいと思っている。
(末端まで浸透させるときに、経営の意思決定と落とし込みのスピード感が重要。日本では事業部制の問題があるといわれており、当社も該当するのではと思うが、どうか、の問いに)
組織は大きくコーポレート、食品事業、アミノサイエンス事業と縦に分かれている。ここに顧客価値を高めるためのマネジメント改革手法であるオペレーショナルエクセレンス(以下、OE)を共通で導入し、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を段階的に取り入れていく。DXは、データによりあらゆる仕事の見える化が基本にあり、非効率を明らかにしていく。同時に、デジタルを武器にした組織横断的な機能強化として、サプライチェーン、マーケティング、R&D、人財育成、スマートコーポレートの5つのタスクに分け、管掌役員を明確に決めて横串で遂行していく。従って、レイヤーを壊していくということではなく、縦に存在する事業組織に対し横串でどう機能を揃えていくかということに、DXとOEを組み合わせていこうと考えている。現状の組織でもスピード感を早められるようにしていく。
(その結果、減塩やより高付加価値の製品が売れるようになっていくイメージかと思う。どのエリア、あるいはどの事業から良くなっていくという期待をすればよいか、の問いに)
まずはセイボリー事業である。今まではローカルメニューに適合させ、よりおいしいもの、手軽に作れるものという観点で製品開発をしてきた。結果、生活者の間で、調味料はローカル食をおいしくするものという理解は一定程度なされており、これまでの成長を支えてきた。
今後はそれだけでなく、「味の素®」には減塩効果が期待できるということをしっかり訴求していく。「味の素®」は当社の中で最大の事業であり、グローバルで約1,200億円の売上高がある。まずは「味の素®」の訴求を減塩にシフトすることによって、需要を拡大させようということ。風味調味料の減塩タイプは、日本以外ではほとんど展開していない。既存の製品ラインナップに減塩タイプを付加していくことにより、新たな顧客を獲得していく。これが食品事業を通じた健康課題のソリューションだと思っている。
(以上は2020年度からスタートするのか、の問いに)
「味の素®」は商品を変えるわけではなく、マーケティング戦略の変更である。風味調味料については、減塩タイプの製品を現地で造れるようにしていかなければならず、今後3年間の中でラインナップが強化されていくとお考えいただきたい。メニュー用調味料の売上高は海外では200億円程度であるが、今成長している分野であるので、これまで通りしっかりやっていく。
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当社はグローバルでビジネスを展開しており、見えざるリスクが多くあると思う。2019年度中間決算では、アフリカやベトナムの問題が発生した。今後、どのような形で現地の情報を早くマネジメントが摘み取り、リスクを管理していくのか。今回の問題により、何か変わったことがあるのか、あるいは変わっていないのか。
財務会計上の情報は日々更新されている。しかし残念ながら、マーケティング情報、事業管理に必要な情報などは人手に頼っている部分がある。現地でレポーティングパッケージを月に一度作成し、一か月強経ったタイミングで経営に届くという仕組みになっている。これを今後は、自動で情報を吸い上げられるシステムに改定していこうとしている。ただもちろん、費用と時間がかかるため単にシステム化を待つのではなく、レポーティングパッケージの情報を吸い上げるスピード、感度については、ガバナンスでしっかり徹底し、管理レベルを上げていくところである。
(これは、DXの一部だということか、の問いに)
No。2019年度からスタートしている、基幹システム更新に付随するアプリケーションの標準化とお考えいただきたい。
(最終的に当社が目指している姿になるには、どれぐらい時間がかかるイメージか、の問いに)
今計画的に進めている。海外を含めると100社を超える連結子会社があり、業績に大きな影響を与えるのは15~20社と捉えている。2022年度までに、全社の売上高や事業利益の90%を超える企業についてカバーしていきたい。
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今後も今までの様にM&Aを行いながら、デューデリジェンスをしっかりしていくのか。あるいは一度現状をしっかりコントロールしながら経営していくのか。どのように考えているか。
今後の戦略については、M&Aに大きく頼ることはないだろう。食品に関してはポートフォリオを拡大してきたので、それを確実にマネジメントし構造を良くしていくことがベースになる。ヘルスケアでは一部先行投資をする必要のあるものが残っているが、ポートフォリオの小さいところを埋めていくという作業であり、規模としてはあまり大きくない。
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当社がマイノリティとなっている持分法適用会社において、ガバナンスでどの程度関与していけるのか。今後海外でM&Aをした場合に、マイノリティとして参画するのか。あるいは将来的にはマジョリティを取っていくことも視野に入れていくのか。
JVでマイノリティの場合、ガバナンスを完全には効かせることは難しい。マイノリティなりの経営参画をしながら、企業を良い方向に導いていくことが役目だろう。プロマシドール社に対しては、当社のR&Dや製品開発力をベースにして企業のバリューを上げていくということが当社の役割だと認識している。そのために33.33%を保有している。
当社の目的は、No.1調味料企業の地位を盤石にすること。アフリカには約12億の人口がいるといわれており、当社はナイジェリアを中心に単独で30年近く事業を展開してきた。しかしこのやり方では、アフリカの成長は取り込めないということで現地パートナーを得たという経緯。
アフリカのビジネスが事業利益面でFive Starsに伍して貢献するまでには、最低10年はかかると思う。2050年という長期で考えると、アジアの次は間違いなくアフリカの人口ボーナスと、それから生活レベルの向上が期待できると思う。それまでの間に関係を強化していくということ。
(他の地域でM&AやJVを検討する際、当社持ち分についてどのように考えているか、の問いに)
基本はマジョリティである。情勢が不安定な新興国でのM&Aは当面行わないと思う。むしろ今まで買収した企業の資産効率を、オーガニックで良くしていくことに投資を集中していきたい。
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当社はグローバル食品企業トップ10クラスを目標としているが、事業利益率13%程度というのは果たして十分なのか。
グローバル食品トップ10クラスとは、事業利益率が約10%程度、事業利益額にして1,300億円程度である。同時にROE、EPS成長率も10%を超えている。これは17-19中計の時に発表した通りであり、これは大きく変わっていないだろう。ただしこれが最終目的ではなく、それを可能にする構造の実現が、一つのマイルストーンとしての目的である。
グローバル食品企業トップ10クラスという目標を掲げたのは、11-13中計。次期中計においては、この示し方も変わってくると思う。クライテリアは大きく変わらないが、事業利益率13%、ROIC13%、事業部門別ROA 13%といった構造が、投資家の皆様の目線に近いと思っている。それに関してはできる限り2025年度頃までに実現していきたい。
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働き方改革の進捗と評価を聞きたい。総実労働時間が大きく減り、平均給与も上がり、従業員満足度は向上している。一方で生産性という観点から見ると、時短が先行しDXが後追いになっている印象。その点について考えを伺いたい。
働き方改革のステージでいうと、当社が今まで取り組んできたのは一番低いステージだと思っている。仕事の見える化をし、それに合わせて必要なロボティクス、データ化、通信環境を整えるなどした結果、2,000時間程度あった総実労働時間が約1,800時間までになった。無駄をそぎ落としてきたということ。
これからは、効率化と顧客に対するバリューの向上を同時に行って初めて生産性向上につながる。バリュー向上の課題はまだ残っており、効率化も完全ではない。ここから先はDXの力を活用しないといけないと思っている。
(統合報告書を見ると、生産性を図る指標として従業員1人当たりの売上高を用いているが、これで測れるのか、の問いに)
全てが金額で測れるということではないだろう。当社はエンゲージメントサーベイなどを通じ、働きがいと生産性の相関関係を検証している。従業員の働きがいとパフォーマンス、つまり売上高と利益は完全に相関するということは、過去に日本能率協会と協働で実証した例がある。
(新興国の競争相手の労働時間はかなり長いと思うが、それに対し当社の1,800時間というのは十分なのか。短いということはないか、の問いに)
時間だけで比較しても意味がなく、時間当たりの生産性で比較しようということ。2020年に1,750時間という当初の目標があったが、約1,800時間に到達した時にこれ以上追いかけるのを止めたのはそういうこと。時間の短縮だけが目標になりかけていたが、本来の目的ではない。その代わり、同じ1,800時間の中で生産性をどのように上げるかということにシフトさせてきている。
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今回、100人の人員削減を決断されたが、なぜ100人なのか。また人員削減が意味することは何か。固定費の削減という意味もあるだろうが、例えば残された社員のモチベーション、緊張感を高めるという目的もあるのではと思う。規模感、目的、今後も継続するかについて教えていただきたい。
100人という規模については次のような考え方に拠る。次期中期経営計画では、非重点事業の縮小やスマートコーポレートの推進を図る。明らかにしているものではアクセンチュア社とのJVがある。また機能子会社についても、2019年4月には物流会社の統合を行った。このようなことを進めていくと、今後これまであった管理職ポストの縮小が見えている。従って、50代の管理職に対し、味の素グループ以外にもセカンドキャリアの道を見つけてもらえるような支援策を打ち出した。
グループ会社はグループ会社で発展させないといけない。例えばF-LINE社はかつての味の素物流社よりも非常に物流効率がよく、エコフレンドリーなことができる。物流の諸条件の改善についても、社会に大きくインパクトを与える規模になっている。それに伴い働いているメンバーが、生きがいややりがいを大きく感じる組織になっている。
味の素㈱単体で希望退職に踏み切ったのは歴史上今回が初めてであり、規模は小さく見えるかもしれないが、それなりのインパクトがある。今までのようにキャリアをグループ子会社の中に用意することは難しい、ということを前提に自身のキャリアを考えてほしいということをメッセージとして込めた。
対象者は約800人いるが、内500人程度には説明会を行い、私から直接メッセージを伝えた。今後、面談という形で対話を行いながら、どのようにWin-Winの関係が作れるかということを進めていく。
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今回の特別転進支援施策について、50歳以下の従業員のモチベーションは大丈夫か。自分もゆくゆくは対象となるのではという不安につながるのではないか。
もともと当社には50歳以降を対象とした早期退職制度がある。また50歳以上の管理職には、自分のキャリアは自分で考えるという観点でキャリア教育を10年近く続けている。自分のキャリアが味の素グループの中で発揮し得ないと考えた管理職については、セカンドキャリアを外で探してもらう支援策を既にとっており、今回の発表はその延長線上にあるとお考えいただきたい。
ただし、今回初めて期間を区切り、味の素㈱単体の管理職に対し希望退職を積極的に募った。それに対して、対象者はもちろんだが一般職なども含め、真意をきちんと説明し動揺がないように慎重に進めているところである。
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今回の特別転進支援施策について、退職を選択しない対象者に対してはどのような変化を期待しているか。2020年度以降、P/L上は軽くなるが、それをどのような部分に再投資していこうと考えているか。
まず全員に制度の説明と、通常から行っているキャリア面接を丁寧に行う。その中で退職を希望しない対象者についても、従来どおりの適所適材の人事制度にあわせた指導を上司が行うというのは変わらない。
例えば物流機能としてのF-LINE社の立ち上げ、アクセンチュア社とのJVなどの中で基幹職のポストが減少していくことになり、今後も機能子会社も含め当社は見直しをしていく計画であるので、機能子会社やコーポレートサービスを自分のキャリアとして考えている従業員については、残り10年弱のキャリアを改めて考え直す機会にしてもらうという丁寧な説明をしている。
(今後残っていくポストもあるだろう。そちらに方向転換をしたいと考えた際、今持っていないスキルを身につける必要がある。その観点で、ミドルシニア層の再教育支援のような仕組みを作っていくのか、の問いに)
今回の施策において、ミドルシニア層の再教育は考えていない。デジタルトランスフォーメーションを進める中で、デジタル人材、エンジニアリング人材として新たに活躍していただきたい人財への教育は強化していく。もちろん外部からの登用も進めている。
(繰り返しになるが、今回の施策で圧縮した分を、例えば若い層のトップ人材に再投資するというサイクルは考えているか、の問いに)
今回の目的の一つは組織の若返りである。会社と従業員の間でWin-Winの施策と思っているが、会社にとってのWinは組織の若返り。個人にとってのWinは、退職により加算される退職金とキャリア支援である。人件費の削減のためにやるわけではない。瞬間的に管理職分の給与が少なくなるが、その分は若い層の活躍の舞台が増え埋めていくことになる。基本的には働きがいを持てる環境を作るための投資で、しっかりと強化していくつもりである。会計項目で見た際には、減るものと増えるものがあり全体では大きく変わらないだろう。
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日経ビジネスの12月の社長インタビューでは、適所適材で成長できるということ、また2016年度から基幹職の完全ジョブグレード化を進めていて、必要に応じ若い人材も自在に採用できる仕組みが整っているという話が掲載されている。ハードとしては年功序列の要素がなくなり、かつ外部からの人材登用も進んでいると思うが、ソフト面はどのように機能しているのか。
ソフト面を回すために、基幹職の完全ジョブグレード制度というのは仕組みの一つである。働き方改革も、環境を整えるという観点では大きな変化になる。
その中で重要なのはリーダーシップ。女性取締役が委員長を務める人財委員会というものを組織して、タレントプールを3階層ぐらい持ち、該当社員についての育成について経営会議メンバーがかなり議論をしながら登用、配置を進めている状況である。また女性版人財委員会というものもある。これは女性ライン長比率30%実現に向けてのマイルストーンを作っていくという観点で、同様に機能している。
そして最も重要なのは、マインドセットをどう変えるかという部分だ。ここについては、今様々な施策を通じて実行中である。主にリーダーシップ研修の高度化や、若手の勉強会開催、日々のモチベーションを高めるための人事施策などを行っているほか、コミュニケーションツールについても、2020年度からDXを使いながら変えていこうと思っている。またエンゲージメントサーベイは今後毎年の実施を決めた。マネジメント評価の対象としても活用し、より本人のキャリアに対する希望と、適所への配置がチェックできるようになってくる。
(例えばジョブグレードで部長クラス以上のグレードがあるとすると、今後3年間で平均年齢や最低年齢、また外部から登用する人材の比率はどう変化するのか、の問いに)
そこに対する数字はない。ただ2016年度に完全ジョブグレード制へ移行した際、事業部長、グループ長、ライン長などのポストとして存在する約400ポスト程度の内、80ポストくらいが若返った。これは制度変更の効果である。
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若年層に対する評価制度や報酬制度は変わってくるのか。
高度プロフェッショナルという観点での登用制度は、職務グレード制度とは別に検討中であり、これも早晩導入することになると思う。ただ、顧客価値をどの程度上げたかという従業員の仕事ぶりに対する見える化の方が先だと思っている。
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株価はマーケットが決めるものとはいえ、経営トップとして株価に対する意識と意思は重要である。一時期の3,000円という株価は高すぎたと考えるか。逆に現在の株価1,800円前後は、当社の今後を見た時に評価不足と考えるか。
株価については、私は発言する立場にない。ただ足元の1,800円前後については、当社が本当に持続的に成長していくのかどうか、まだ株式市場と共有ができていない結果だと思う。