• 2018年度頃から、減損損失の計上が増えている。根本的なところで、どこにミスがあったのか。経営体質という観点で、要因をもう一度教えていただきたい。

    2003年の減損会計導入以降の減損を振り返ると、M&Aに関するものが全体の40%。バルクの動物栄養、MSG、甘味料に関するものが35%。食品関係は、M&Aも含むが、30%という構造になっている。

    脱コモディティについては段階的に進めてきた。しかし最後の一番難しいところが残っている中、この対策を取っている間に今回のような業績不振が起き、減損せざるを得なかったという状況である。M&Aについては、特に食品事業で新しい国に進出した時のプランニングの甘さが目立つ。勝ちパターンを持っている食品事業のポートフォリオを拡大しようとした際に、必ずしもその勝ちパターンを当てはめることができていないということがあると思う。一方でアミノサイエンス事業については、M&Aを中心に構造転換を進めてきている。少額で購入し、マネジメントの梃入れを行うことで、順調に次の柱になりつつある。全体として、食品事業のマネジメント体制に弱点があったと考えている。

  • テクノロジーのオープンイノベーションに対して積極的な会社(東レ社やブリヂストン社)とかつて当社は一緒に取り組んでいたと思うが、成果をあまり聞かない。新しいビジネスに事業を構造転換する時に当社ならではの課題があるのではと感じるが、どうか。

    東レ社やブリヂストン社と共同で何をやろうとしたかというと、発酵法の巨大な設備をホワイトバイオに使おうとした。ブリヂストン社は合成ゴム、東レ社はナイロンの製造方法として、発酵法を使えないかということだった。2000年代後半、研究をさらに加速させるという観点で提携した。ただ、タイヤのゴムを発酵で作ろうとすると当社の生産キャパシティでは全く足りず、ある程度早く見極めをしている。反対に、例えばバイオプラスティクスのような新素材の開発については、当社のキャパシティでは大き過ぎる。これは実験機でできるレベルでよいということで、頓挫している。ただ、ホワイトバイオの世界は今後広がる可能性があると思うので、技術はパッケージとして完成させている。将来これを活用する機会は十分あり得ると考えている。

    (いずれは、テクノロジーの実用化の部分で結果が出てくる可能性があるということか、の問いに)

    医薬の分野で最終薬剤をつくる合成研究に携わっていたメンバーについては、CDMOの技術開発に回っている。分析や安全性の試験に携わっていたメンバーは食品の分野で十分応用が利く。食とのシナジーという観点では、「アミノインデックス®」のメタボリズムを測る技術は、食品と結びつけパーソナルな栄養改善につなげていこうと思っている。

  • 近年、ベトナムの風味調味料やタイの缶コーヒーなど、ローカルの競合から攻められている。最終的には上手く回復できているが、そもそもなぜ攻め込まれてしまうのか。

    ローカルにおける競合の攻勢は仕方がないと思っている。2010~2015年にかけては、当社のFiveStarsでいえば、中間所得層が約9%増加していた。それが2015年以降は約4%にまで減速している。つまりかつて9%の経済成長を前提としていたが、そうではなくなっているということ。その中で風味調味料やドライセイボリーの領域においては、プレーヤーがグローバルジャイアントか当社ぐらいしかいないため、チャレンジャーが参入してくる。

    チャレンジャーのパターンは、基本的には低価格販売である。1年程度は継続できるが、それ以上は難しくギブアップしていくという構造にある。最終的には製品の品質や、ディストリビューション、営業力の強さである程度打ち返してきているが、1年分ぐらいは攻撃を受けている。これの繰り返しではないかと思っている。

  • 当社の海外ビジネスはかなりの頻度で想定外の出来事が起きている。会社の対応がどうしても後手に回っているのではないかという印象が拭えない。中間決算説明会でも、ベトナムの情報がもう少し早く経営まで届いていればという発言があった。情報伝達のスピード感にまだ課題があるのではないかと思う。ボラティリティを抑え、食品企業として安定的に海外で稼いでいく体制にするには何が必要なのか。

    背景として、やはり新興国において、2010年代前半までの人口ボーナスの恩恵が縮小しているということがある。かつての成功モデルのまま、今後の成長について粗い絵を描いていたということが問題であり、ご指摘を受けることにつながっている。

    一方人口構造として、中間所得層よりもう少し裕福な層が増えてきている。この層が同じようにトラディショナルトレード(以下、TT)に買い物に行き、ベーシックな調味料を買うかというと、そこが変わってきている。従って、コンビニエンスストア(以下、CVS)やモダントレード(以下、MT)というチャネルに対しても適切な打ち手を講じなければならない。TTでは、昔は一軒一軒を回り現金直売で販売していた。しかし今はディストリビューションが発達し、間にホールセラーを起用している。例えばインドネシアであっても、60%は卸店を通じて販売している。従って、プロモーションや年間行事の前に在庫を抱えるという状態が発生する。

    つまり課題は、マーケットのマクロな動きを本社が認識できていない、ということが一つ。もう一つは、マーケットの変化に対し、現地もまだ適合できていないということ。この2つの課題については十分に社内で反省をしており、今後このようなことがないようにしていく。

    (以上の話は以前から社長がおっしゃっていること。課題解決に向け、実行に際し時間を要している。少なくともしっかりと課題を認識し、取り組んでいることを伝えてほしい。今後まだ時間がかかると理解すればよいか、の問いに)

    この問題は根本的なことであり、新製品の発売や製品のポートフォリオ拡大などで何とかなるものではない。業績がボラタイルになっている背景をきちんと理解し、MTやCVSにも種まきをしながら、販売ボリュームの大きな基礎調味料と風味調味料の2つをどのようにして持ち上げるかということが最も重要な点である。ここのトレンドが上がってくれば、成功モデルを持っている強みを生かせるだろう。

    CVSやMTに撒いた種が収穫に至るまでにはそれなりの時間がかかる。それと調味料のベースラインを上げる仕事はマスで変えていけると思うので、しっかりやっていきたい。

  • 中間決算説明会で、ローカルのキャッチアップに対しどう対応するかという質問に対して、グローバルでセイボリー事業部を作り、日本と海外の情報を一本化するという回答があった。なぜそれによって競合に対応できるのか、具体的に説明していただきたい。

    セイボリー事業部とすることで、大きなマーケティング戦略の方向性をより本社主導で検討していく。製品のレシピや営業体制を現地適合させるという方向性は変えない。

    例えばデジタルマーケティング。地域ごとにやるよりも、本社主導で一本化した方が圧倒的にデータ量も集まり、ソリューションも明確になる。もう1つは、調味料の戦略が大きな転機を今迎えているということ。今までは基礎調味料「味の素®」があり、各地域の風味調味料があり、その上にメニュー用調味料があった。これは各国で、生活レベルが上がっていく過程で有効だった戦略である。結果当社は、ドライセイボリーのグローバルシェア23%を獲得するに至った。しかし今後増加する生活者の層は、ミドル層ではなくもう少しアッパーの層。加えて高齢化が進むということが起きる。アッパー層に対するマーケティングと高齢者に対するマーケティングは日本が一番進んでおり、多くのソリューションやノウハウがある。これを現地にトランスフォーメーションしていく戦略である。

    (既に新興国においても、高齢者もしくは豊かな層が増えてきているのか。それとも長期的に見て変化していくということか、の問いに)

    特にFive Starsでは人口トレンドと購買力の変化を追いかけているが、2020年から2030年にかけこの動きが加速すると見ている。

  • 海外調味料事業について、日本でやってきたことを現地に持っていっても合わないというのが西井社長の考えだと理解している。競争環境の変化により業績予想を下方修正するということが次々と起こってきたが、何かしらメスを入れていかないとまた同様のことが続くのではないかという危惧があるが、どうか。

    マクロ環境の変化と今起きていることをまず整理をする。その上で現地主導のマネジメントスタイルと、今後変えていく点という観点でお伝えする。

    まずFive Starsでは、ミドル層のCAGRは2015年まで9%と成長してきた。2015年はタイの人口増加カーブが寝始めた時期で、その影響等により足元の成長率は4%程度となった。今後、2020年から30年にかけては2%程度になるだろうと予想されている。当社は2005年頃から海外で風味調味料事業を本格的にスタートし、2010年に向かって緩やかに成長、2010年から2015年頃にかけては2桁成長と最大の成長期だった。つまりミドル層の増加カーブと当社の海外食品事業の成長はほぼリンクしている。当社はさらにマーケットシェアを取ってきたというプラス要素があるので、市場を上回る成長を果たしてきた。

    2016年以降は人口増加カーブが緩やかになったことにより、全体的に現地における成長率が緩やかになってきたことに加え、ローカル企業の参入で大幅な安値攻勢を受け、一定期間シェアを奪われるということが連続して起きている。

    以上はある意味当たり前の減少であるが、それに対し早めに対策をとるという感度が、やはり現地主導では弱いと考えている。ここをコントロールする機能をしっかり持たなければいけない。従って、日本食品と海外食品という括りではなく、グローバル調味料事業部、グローバル加工食品事業部、グローバル冷凍食品事業部という体制をとっていく。グローバルでマーケットを見渡した時に、可能性があるところに成長投資を集中できるコントロールタワー機能を強化しようと思っている。この点が修正点ということだ。

    (2020年4月以降は新組織体制となり、期待してほしいということか、の問いに)

    今、2月の次期中計発表に向け、各事業部が最終的なプランを作っている段階である。ここでは新たな組織単位で、戦略と投資の重点化プランを作り上げている。つまり組織の形はまだ対外的には変わっていないが、プランを作成しているメンバーが4月から名実ともに新組織で動いていくということになる。

  • 消費者の需要が高度化し、販売チャネルもMTの比率が高まっていく中で、当社製品をより高度化しないと需要もマージンも取れないと思う。製品のラインナップは現状で十分だと考えているか。加工食品や冷凍食品なども含めどのように考えているか。

    日本では「ほんだし®」を始め、各種調味料で減塩製品のラインナップを補完的に持っており、伸びている。しかし海外では、Five Starsでも健康軸の製品はほとんど無い。今まではベースラインが伸びていたので、これでよいのではないかという状態だった。増加し始めていたミドル・アッパー層の需要は追いかけてこなかった。この部分は製品展開を強化しなければいけない。そこに、もともとミドル層向けであるメニュー用調味料を組み合わせていくことが必要だと思う。つまりセイボリーの厚みと、ラインナップを強化しなければいけないと思っている。加工食品については、今までは粉末飲料や液体飲料というように製品軸でしか語っていなかったが、今後は栄養軸をしっかりと持ち、当社でないとできないような製品展開に変えていくということである。

    (それは自社ブランドで可能なのか。あるいはM&Aなども考えているのか、の問いに)

    自社ブランドでできると思う。

    (日本から海外へ導入していくということか、の問いに)

    海外でも既に持っているブランドがある。例えば今年「Prottie®」という麦芽たんぱく飲料を東南アジア向けに発売したが、そのような製品をもっと強化していく。日本からだと、「アミノバイタル®」は東南アジアで展開を始めている。タイでイスラム圏のハラルに対応した製品を今夏から生産、販売しており、非常に手応えがある。これらの組み合わせで考えていく。

  • 今まで当社は、TTに根差したディストリビューションの仕組みがあったから強かった。Eコマースが海外でも拡大している中、今の仕組みで今後も確実に機能できるのか。

    海外では、TT、CVS、MT、Eコマースの関係性が変化している。TTでも、過去のように全て当社セールスが回訪し現金直売で販売する割合よりも、卸店を通じて販売する割合の方が益々高まってきている。インドネシアなどでは約60%が卸店を通じている。当社セールスは新製品の紹介や店頭での販促活動に、重点を置く戦略としている。その中でMTやEコマースなどの販売部隊を作っても、大きなトレードオフにはならないと思っている。

    (卸店を通じた販売を増やすことで、差別化が難しくなるのではと思うがどうか、の問いに)

    ブランドのポジション、強さによって使い分けている。強いブランド(例えば「味の素®」や「Ros Dee®」「Masako®」など)は全てを当社セールスがやる必要がないだろう。一方、メニュー用調味料(例えば「Sajiku®」、「RosDee® Menu」など)のような手をかける必要のある新製品は自社営業で攻めていく。

  • 当社のアミノ酸の研究開発力は優れたものであるということはよく分かるが、食品業界という観点から見た時に分かりにくい部分がある。次期中計では新たな味の素社を創ろうとしているが、イノベーションを追求する際に、ガバナンスをどのように効かせてマネタイズしていくのか。個人的な考えでは、当社は食品会社であって食品会社でない。例えば非常に成熟しているヨーロッパの食品企業では、FMCGに徹している。いわゆる川上のイノベーションは外注しているというのが世界の構図だろう。しかし当社に限らず、日本企業は一体化している。今後グローバルでの競争を考えていく中で、スピード、規模で本当に勝てるのか。今後、味の素という会社をどう見られたいと考えているか。

    6つの重点領域のうち、電子材料を除いた5つは、全てヘルスケアに関連する。つまり、食と健康のソリューションカンパニーに生まれ変わるということを、今後10年間の基本的なメッセージにしたいと思っている。従って、アミノ酸研究と食品をもっと結び付けていく。これからは医薬による治癒よりもどうやって疾病に至らないで健康増進を図れるかというテーマが圧倒的に大きくなると思う。最大のターゲットは、世界中で増える高齢者。ここについては、日本で培ってきたノウハウが非常に生きる。Five Starsにおいてもミドル層からアッパー層が拡大しており、健康な生活を送るための製品とマーケティングを集中していきたいと思っている。

    これにより、当社の単一ブランドであるうま味調味料「味の素®」の成長をもう一度引き上げることができると思う。その最大の切り口は減塩である。様々なメニュー専用調味料や風味調味料があるが、唯一うま味調味料だけは塩が入っていない。かつ、料理に使用すると減塩効果を生む。

    (うま味調味料にもナトリウムが入っているのではないか、の問いに)

    塩に比べれば圧倒的に含有量が少ない。塩は、おいしさだけでなく料理法としても必要。従って塩をなかなかやめられないが、「味の素®」と組み合わせると30%以上の減塩ができ、かつ美味しい。これは非常に大きな需要となり、ポテンシャルも大きい。

    (その際、No-MSGの攻撃に対してはどのような打ち手がとれるか、の問いに)

    World Umami Forumを昨年、アメリカでスタートした。今年、日本でも化学調味料無添加の問題についてメディア懇談会を3回行った。かなり積極的に情報発信をしている。結果、アメリカのMSGネガティブ層が少しずつ減り始めている。例えば業務用の顧客で、マヨネーズをMSG入りに切り替えたり、メニューの中にMSGを使おうという動きが出てきた。今まではアジアでも、「味の素®」が減塩を手助けするという訴求はしてこなかったが、今後はグローバルで訴求していく。これにより「味の素®」の需要を大きく拡大することができると思う。1%でも上がるとインパクトはかなりある。

    (メインターゲットは欧米市場か、の問いに)

    No。東南アジア。アジアの食事は圧倒的に塩を多く取る。欧米の食事の塩分はパンに多く含まれているが、アジアは主菜と汁物に含まれている。

    (それがプレミアム化につながるということか、の問いに)

    Yes。また今まで海外では減塩製品の展開はしていない。日本だけである。60%減塩の「ほんだし®」は一切塩は加えておらず、含まれるのはエキスから出るナチュラルな塩だけ。これからは海外でも、風味調味料、メニュー用調味料の減塩製品展開を進める。このきっかけがWorld Umami Forumである。かなりNo-MSGの風潮が強かったアメリカでメッセージが受け入れられ始めた。その手応えを非常に感じている。

    (World Umami Forumは毎年やるのか、の問いに)

    初回の開催から、この9月でちょうど一年経過しており、今どこまで浸透できたかをレビューしている。今後は隔年ぐらいでの開催がよいのではと考えているが、その間も浸透活動は積極的にやっている。

     

  • うま味調味料の減塩効果について今まで訴求しなかった背景と、なぜ今後は訴求できるようになるのか、教えていただきたい。

    生活者の間には、健康に対するMSGの不安感がいまだに残っている。これを軽減する活動として、2018年ニューヨークにてWorld Umami Forumを開催した。このときのキーワードは減塩であった。アメリカのリスクコミュニケーションの専門家とも十分な議論をしたところ、今までの安全性や安心感を訴求するだけでは生活者の行動変容は起きないということが分かった。グルタミン酸ナトリウムの優位性の一番のポイントである減塩効果をもっと全面的に、積極的に出すべきだというご意見をいただいた。従って、MSGに対する誤解を解くためのPR活動をアメリカでやっている。結果として、今まで管理栄養士にもMSGネガティブといわれる人たちの割合が40%程度いたが、少しずつ減少し始め、食関心の高い一般生活者におけるネガティブ層も減ってきた。これがグローバルで減塩効果を訴求しようという計画の大きなきっかけとなった。

    アメリカの動きを受け、MSGが減塩に良いというアクションは、ナイジェリア、ASEANの主要国、ブラジルなどでも同時に展開が始まっている。

    また、日本でも「化学調味料無添加」に対する誤解を解くためのメディア懇談会を2019年に3回行った。またMSGを使わないようにすることで、病院や高齢者施設の食事で大きな弊害が起きている。おいしくないものを食べさせようとする結果、残食率が高くなりフレイル(虚弱)がどんどん進んでいくという構造にある。このようにNo-MSGが社会的な課題解決の邪魔をしているというメッセージも発信するようになった。2019年度上期の実績で「味の素®」の売上高が10年ぶりに前年を上回った。これは間違いなく減塩効果訴求の影響があると思う。購入世帯率も上昇しており、今まで使わなかった生活者が使い始めている。

    この良い感触をベースにし、2020年度から大きく方向転換するということである。

  • 減塩を訴求した新しい調味料を発売するという考えはないのか。

    考えていない。「味の素®」でやる。但し、和風、洋風、中華の風味調味料のフルラインのカテゴリーで減塩タイプを発売しているのは日本だけである。海外では展開がない。風味調味料の減塩タイプを製造する技術は当社に優位性がある。また日本で販売している「ほんだし®」の減塩タイプは通常品に比べと60%の減塩ができている。塩分は天然のエキスから持ち込まれるものだけになっており、このレベルの減塩を可能にしていることは、当社技術の優位性だと思う。

    また各国で味の好みが異なる為、その国のレベルに応じて減塩を進めることになるが、このプロセスについても当社は優位性があると思っている。

  • 減塩に限らず、MTや富裕層に対するマーケティングは難しいところがあるのではないか。メニュー用調味料などはどうしていくのか。

    確かにアッパー層は、どちらかというと無添加や、昔ながらの製法という部分にプレミアム感を感じ、それを求める傾向が強いということは調査結果で分かっている。従って、メニュー用調味料などはその需要に応えるようにしていく。ただその際、製品に減塩効果を付加していくというようなことが重要だと思う。例えば日本の「Cook Do®」も、1人前あたりの食塩相当量は約0.6グラム(1食を3.5人前で割った場合)。厚生労働省が推奨している塩分摂取量は、男性が1日8g、女性が1日7g。1食にすると2~3gなので、主菜で1gを超えると範囲内に収めるのは難しくなる。「Cook Do®」はおいしいだけでなく、実はかなり減塩が進んだ調味料だ。どういう食生活をすればよいのか知識を持ってもらうことも非常に大事であり、広報活動をしっかりやっていくとベースが広がる可能性があると思う。これは醤油ではできない。うま味調味料ではできるが、醤油のうま味ではできないため、差別化の大きなポイントになる。

  • 日本は和食の塩分が多いイメージがあるが、海外でも減塩を気にしている生活者は多いのか。

    気にするというレベルではなく、最大のテーマだとご認識いただきたい。WHOが各国の塩分摂取量を発表している。その中で、当社の主要展開である日本、Five Starsは高塩分摂取国である。欧米も高い。日本やアジアの国々は汁物から塩分を摂る。欧米はパンの中に含まれている塩が多い。塩分摂取量とメタボリックシンドロームの1つである高血圧の因果関係は完全に証明されている。現に日本における3大疾病は、急性心筋梗塞、脳卒中、がんだが、グローバルでも心筋梗塞と脳卒中は共通。つまり食生活の改善の中では、減塩が一番重要だということだ。そこに当社の調味料事業が貢献できると思っており、舵を切っていくつもりである。

  • 減塩商品の価格戦略について。付加価値の分、高値で販売するのか。あるいは需要が大きい分、価格ではなく数量効果を期待するのか。

    日本では、通常製品よりも20~30%高い。塩を減らした分を、うま味調味料やエキスで置き換え、別のアミノ酸で味を調えるということもあるため、どうしても原料コストが高くなる。GP率は守る方針であるので、通常品から減塩タイプへのスイッチが一定量起きても問題はないという構造。日本もまだ減塩製品は、通常品の販売ボリュームに比べると大きくないが、約20%ずつ伸びている。従って大きなトレンドになると思う。

    (高齢者ほど減塩を気にするだろう。World Umami Forumの開催やSNSの発信などを行ってはいるが、高齢者にどのように宣伝をしていくのか、の問いに)

    減塩などの生活の行動変容は難しく、なかなか進まない。日本やアメリカにおけるマーケティングとしては、情報を発信する栄養士の再教育の方が、非常にインパクトがある。料理人は減塩についての知識は非常に豊富でソリューションも持ちあわせているが、塩の代わりに「味の素®」を使うという行動変容にはなかなか到達しない。一般の生活者に普及させる手段としては、栄養士のほうが力強いと分析している。栄養士のカバー範囲は、メタボリックシンドロームも含む。高齢者になってから突然生活習慣を変えようと思っても難しいため、成人の時から変えていく必要がある。ここに対してはSNS等を始め情報発信が非常に盛んである。

    また日本でも新興国でも、小学生ぐらいの子供達に対する食育も効果的。子供が変われば親も変わり、いずれ高齢者になっても大丈夫ということが起きるだろう。そのようなコミュニケーションの仕組みが徐々に分かってきたので、今後フォーカスしていく。

  • これまで当社は、現地法人のキャッシュフローの中での投資を基本としていた。今後、十分にキャッシュフローが整っていない国でも減塩製品に投資をするということは、組織変更も含めたグローバルで事業を一本化していくことの効果として捉えてよいか。

    Yes。セイボリー事業が当社の屋台骨で、当然ながら過去の成功体験も一番大きい。日本でも「ほんだし®」の減塩タイプを発売するとき、現場のマーケッターたちは猛反対したと聞いている。売上高はさほど期待できないし、「ほんだし®」全体の収益性を犠牲にするかもしれないという議論があったが、実行に移させた。それがようやく定着し、振り返ってみるとやっておいてよかったということになっている。このように、先に起きる変化を読み取り、今やらなければならず、その上では事業部のリーダーシップが重要である。アジャストは全て現地でやってもらうが、減塩製品を風味調味料やメニュー用調味料に加えていくことはトップダウンでやるつもりである。

    (調味料の付加価値化を図るためには、減塩にとどまらず様々なアイデアを出していくということか、の問いに)

    Yes。もう一つのテーマは、たんぱく質不足の問題である。現在も「勝ち飯®」などで、肉と野菜の摂取量を上げるという取り組みをしているが、なかなかメッセージが届きにくい。バランスのよい食事を食べたほうがよいことは分かっているが、それができないから困っているという生活者に対しては響かない。「クノール®カップスープ」は、1食あたりの食塩相当量が1g程度であり、かつタンパク質が多く含まれているタイプも発売している。このような製品を具体的に提案して初めて、朝の忙しい時間でも行動変容してもらうことができる。即食性のある食品は、最も簡単に負担なくタンパク質を補えるプロバイダーであると思っている。ここを強化していきたい。加工食品の事業部をクイックナリッシュメントというコンセプトでくくり直すことにしたのも、そのような意味がある。

    (それを、海外と日本でそれほど時間差なくできるようにするということだと理解した。そのために海外の設備投資の配分も今までより多くするということか。改めて、現地のキャッシュの中でやるという縛りは無くなるのか、の問いに)

    Yes。アセットライト化のリソースアロケーションの中で、現地にある現金の環流を進めようとしている。そのために海外の少数株主の株式買い取りを進めている。親会社帰属の比率を上げていけば、当然ながら現金の環流はしやすくなる。現地のキャッシュを本社に一度集めれば、重点的な事業に再投資していくことが容易になる。

    (無駄な資産を縮小し、2020年度以降は成長投資を加速させるということか、の問いに)

    資産の圧縮については、非重点事業で400億円程度、リソースアロケーションで800億円程度とお伝えしている。膨らんだ固定資産は海外に多くある。それらは売却を進め、リターンを得る。次期中計の3カ年におけるキャッシュインを4,000億円程度まで上げ、株主還元と成長投資をやりやすくしていきたい。B/Sを現地法人が管理するのではなく、事業部がコントロールするように転換していく。コーポレートはその環境を作る。従って、コーポレートが主導で少数株主の持ち分比率を下げていく。

  • 今後どの程度まで本社がグリップをすることになるのか。今までローカルに権限があったものの内、どの部分が本社主導になってきているのか、具体的に説明願いたい。

    1つはデジタルマーケティングである。これは先進的なエリアはかなり限られている。例えば、アメリカと中国の情報を本社で把握し、Eコマース、デジタルプラットフォーマーとの交渉や契約を本社が一括で行い、その情報を各地域にフィードバックするということ。デジタルマーケティングについては、コントロールタワーを一本化した方が良いというのは現地法人も同じ認識であるので、今積極的に取り組んでいる。

    情報のコミュニケーションについては、海外とのオペレーションは変わらない。今の海外食品部はもともとグローバルの戦略部であり、ここが大きく変わるわけではなく、日本と併せて1つの組織になるということ。むしろ先進国である日本のノウハウをストレートに反映しやすくなると思う。

    (一般的にはデジタルの部分を指しているのか、の問いに)

    もう一つ、健康栄養戦略がある。グローバルで今後増大するのはミドル層ではなくいわゆるアッパー層であり、これが人口ボーナスになってくる。基本的には大人、高齢者である。つまり健康問題が増大するということであり、それに対する健康栄養戦略については足並みを揃え共通認識でやっていかなければならない。例えば減塩タイプの風味調味料は、一定のスピード感を持って一斉に開発する必要がある。各現地に任せると技術的に難しい面もある。「味の素®」も、今までは料理をおいしくするという訴求しかしてこなかったが、実は減塩料理をおいしくする大変重要な調味料になる。塩を半分「味の素®」に置き換えると、それだけで30%以上の減塩ができ、かつおいしい。このような訴求を日本と海外で同時に展開する戦略は、本社で一本化した方がやりやすいということである。

  • デジタル先進国は米国と中国とのことだが、当社の調味料事業の展開地域とは少し異なると思うが、必ずしも連動しているわけではないのか。

    Eコマースと、ビッグデータ解析に分けて考える必要がある。アメリカと中国はビッグデータ解析の対象となり、プラットフォーマーとの情報共有という点がポイントである。

    (デジタルマーケティングとはあまり関係ないのか、の問いに)

    デジタルマーケティングは、各国で展開することになる。ただし中国は東南アジアのゲートウェイであり、日本で作っている製品を東南アジアに届けるには、Eコマースが一番適している。既に2019年5月から京東のマーケットプレイスに出展し、T-mallにも9月から展開を始めた。交渉の中では、Eコマースだけではなく一般チャネル向けにも日本製品が欲しいという需要がある。その観点では、マーケティング上の垣根が非常に低いということになる。

  • 2020年度以降の重点事業の内、デジタルや健康の戦略が該当するのはおそらく半分ぐらいではないかと思う。該当しない部分はどのような投資をし、成長を加速させる考えか。

    デジタルに関しては、最終的な生活者解析の部分が共通の、アミノ酸のB to Cビジネス、加工用調味料のB to B to Cビジネスなどでは応用ができると思う。SNS等を通じたマーケティングはB to Cビジネスで活かせる。また減塩などはおいしさソリューション事業にも有効。従って濃淡はあるが、カバーの範囲は非常に広いと考えている。

    (QN、おいしさソリューションの売上高規模はある程度大きいのか、の問いに)

    おいしさソリューションというのは、現在は日本食品の調味料・加工食品の中に組み込まれている事業。天然系調味料や酵素製剤などを、フードサービスや加工食品メーカーの素材、アプリケーションに対し提供するサービス事業である。QNは加工食品であり、スープやコーヒーが該当する。

    (やはり最も重要なのはコンシューマー食品で、次いでヘルスケアと電子材料ということか、の問いに)

    Yes。

  • アセットライト化の影響について、株式市場に伝わりきっていない状況が続いていると思う。2019年度上期の決算を終えて、何が最も伝えられていないと考えているか。

    一つは、アセットライト化の程度と、それがキャッシュバランスにどのように影響するのかという点。重点事業の売上高構成比を60%から80%に上げていくというメッセージは出したが、非重点事業が具体的に何なのか、またそれによるキャッシュインがどの程度の割合を占めているのか。次期中計の3カ年は、現中計と同規模の3,500億円の営業キャッシュインを計画しているが、アセットライト化のやり方次第ではもっと縮むのではないかと思われていると思う。

    もう一つは、成長エンジンである従業員のモチベーションがどうなるかという点。経営はアセットライト化というメッセージを発信しているが、現場の実行部隊がそれをどう腹に落とし込み、バネにして伸びていこうとするのか。この点が不透明なのだろうと思う。

  • アセットライトを現場の実行部隊がいかに腹落ちさせるかという問題について、現場のモチベーションをどのように上げていこうと考えているか。 また今後の戦略として新しい富裕層にアプローチするということは理解したが、過去3年間、特に海外調味料を見た時に、当社らしからぬ取りこぼしがあったということが株式市場の失望につながっている。今後取りこぼしがないような仕組みというのは、どのように作られていくか。

    非常に重要なポイントだと思っている。次期中計を進める中で、非重点事業の縮小に加え、コーポレートサービスのJV化、また機能子会社の再編を行っていくと、当然ながら味の素㈱の人財が就いていたポストが縮小される。その計画がある程度明確になってきているので、早期退職のレベルを上げようと打ち出したのが今回の特別転進支援施策である。従って、施策そのものについて大きなネガティブはないと思っている。つまりWin-Winの関係を作るということ。ただし、空席になったポジションには若手を登用する形になっていくが、その調整が上手くいくかが重要なポイント。特に欠員が起きたりすると、そこからネガティブな要素が広がる恐れがあると思っている。今エンゲージメントサーベイは2年に1回の実施だが、今後は1年に1回やることを決めている。毎年マネジメントの管理指標として導入しようと思っている。これにより組織が痛んでいないか判断が早くできるようにしたい。

    (社内だけでなく、競合や市場環境自体が変化する中で、取りこぼしなくやっていく仕組みについては、何か強化するのか、の問いに)

    仕組みというより、目的そのものをどう変えていくかだ。世の中に無い製品、あるいは美味しい製品を作っていれば売れた時代は、日本では遠い過去の話となり、海外も今後そのようになっていく。その中で、当社が得意とする調味料事業としては、健康増進につながるというアプローチが一番重要な目的だと思う。それを現場の一人一人まで落とし込んでいくということが、非常に大切なことである。つまり、海外で現地セールスが製品を販売する中で、どのように地域の生活者の健康増進につながっているのか、ということをきちんと見える化しようと思っている。

    (今までの取りこぼしは、主にFive Starsが経済的に発展していく中で、健康増進という当社のメッセージが伝わりきらないことに原因があり、今後はその点を強化するということか、の問いに)

    健康増進というメッセージが遠かったということ。肉と野菜をバランスよく摂るということが、例えば国によっては肉を食べられない国もある中で、現地の生活者の実感に合わないということもあった。会社は良い方向に向かっているようだが、ASVに取り組んでいる実感がないというのが、エンゲージメントサーベイから分かってきた大きな課題である。よって現地社員がもっと実感をすることができ、社外の方から見ても、重要なテーマだと感じてもらえる目標にしていく。

  • アセットライト経営はギアチェンジの機会になるのではないかと感じている。当社はこれまでも長い歴史の中で構造改革を行ってきたが、良かった点、反省点ともにあっただろう。今回、食品とアミノサイエンスの2つの成長を確かなものにしていくために、どのようにギアチェンジをすることが重要と考えているか。

    6つの重点事業のうち、電子材料を除いた5つの事業は食と健康の課題解決事業と位置付けられる。この事業に絞り込んだポイントの1つは、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)と直結していること。エンゲージメントサーベイをこれまでに2回行っており、食と健康の課題解決につながるASV向上ということについては約80%の従業員が賛同してくれている。しかし、一人一人の仕事が直結している実感があるかどうかという部分のポイントが低く、大きな課題である。従って重点事業に絞り込み、R&Dテーマともつながりをより強め、ギアを変えていきたいと思っている。

    (末端まで浸透させるときに、経営の意思決定と落とし込みのスピード感が重要。日本では事業部制の問題があるといわれており、当社も該当するのではと思うが、どうか、の問いに)

    組織は大きくコーポレート、食品事業、アミノサイエンス事業と縦に分かれている。ここに顧客価値を高めるためのマネジメント改革手法であるオペレーショナルエクセレンス(以下、OE)を共通で導入し、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を段階的に取り入れていく。DXは、データによりあらゆる仕事の見える化が基本にあり、非効率を明らかにしていく。同時に、デジタルを武器にした組織横断的な機能強化として、サプライチェーン、マーケティング、R&D、人財育成、スマートコーポレートの5つのタスクに分け、管掌役員を明確に決めて横串で遂行していく。従って、レイヤーを壊していくということではなく、縦に存在する事業組織に対し横串でどう機能を揃えていくかということに、DXとOEを組み合わせていこうと考えている。現状の組織でもスピード感を早められるようにしていく。

     (その結果、減塩やより高付加価値の製品が売れるようになっていくイメージかと思う。どのエリア、あるいはどの事業から良くなっていくという期待をすればよいか、の問いに)

    まずはセイボリー事業である。今まではローカルメニューに適合させ、よりおいしいもの、手軽に作れるものという観点で製品開発をしてきた。結果、生活者の間で、調味料はローカル食をおいしくするものという理解は一定程度なされており、これまでの成長を支えてきた。

     今後はそれだけでなく、「味の素®」には減塩効果が期待できるということをしっかり訴求していく。「味の素®」は当社の中で最大の事業であり、グローバルで約1,200億円の売上高がある。まずは「味の素®」の訴求を減塩にシフトすることによって、需要を拡大させようということ。風味調味料の減塩タイプは、日本以外ではほとんど展開していない。既存の製品ラインナップに減塩タイプを付加していくことにより、新たな顧客を獲得していく。これが食品事業を通じた健康課題のソリューションだと思っている。

    (以上は2020年度からスタートするのか、の問いに)

    「味の素®」は商品を変えるわけではなく、マーケティング戦略の変更である。風味調味料については、減塩タイプの製品を現地で造れるようにしていかなければならず、今後3年間の中でラインナップが強化されていくとお考えいただきたい。メニュー用調味料の売上高は海外では200億円程度であるが、今成長している分野であるので、これまで通りしっかりやっていく。

  • 当社がマイノリティとなっている持分法適用会社において、ガバナンスでどの程度関与していけるのか。今後海外でM&Aをした場合に、マイノリティとして参画するのか。あるいは将来的にはマジョリティを取っていくことも視野に入れていくのか。

    JVでマイノリティの場合、ガバナンスを完全には効かせることは難しい。マイノリティなりの経営参画をしながら、企業を良い方向に導いていくことが役目だろう。プロマシドール社に対しては、当社のR&Dや製品開発力をベースにして企業のバリューを上げていくということが当社の役割だと認識している。そのために33.33%を保有している。

    当社の目的は、No.1調味料企業の地位を盤石にすること。アフリカには約12億の人口がいるといわれており、当社はナイジェリアを中心に単独で30年近く事業を展開してきた。しかしこのやり方では、アフリカの成長は取り込めないということで現地パートナーを得たという経緯。

    アフリカのビジネスが事業利益面でFive Starsに伍して貢献するまでには、最低10年はかかると思う。2050年という長期で考えると、アジアの次は間違いなくアフリカの人口ボーナスと、それから生活レベルの向上が期待できると思う。それまでの間に関係を強化していくということ。

    (他の地域でM&AやJVを検討する際、当社持ち分についてどのように考えているか、の問いに)

    基本はマジョリティである。情勢が不安定な新興国でのM&Aは当面行わないと思う。むしろ今まで買収した企業の資産効率を、オーガニックで良くしていくことに投資を集中していきたい。

  • 当社はグローバル食品企業トップ10クラスを目標としているが、事業利益率13%程度というのは果たして十分なのか。

    グローバル食品トップ10クラスとは、事業利益率が約10%程度、事業利益額にして1,300億円程度である。同時にROE、EPS成長率も10%を超えている。これは17-19中計の時に発表した通りであり、これは大きく変わっていないだろう。ただしこれが最終目的ではなく、それを可能にする構造の実現が、一つのマイルストーンとしての目的である。

    グローバル食品企業トップ10クラスという目標を掲げたのは、11-13中計。次期中計においては、この示し方も変わってくると思う。クライテリアは大きく変わらないが、事業利益率13%、ROIC13%、事業部門別ROA 13%といった構造が、投資家の皆様の目線に近いと思っている。それに関してはできる限り2025年度頃までに実現していきたい。

  • 働き方改革の進捗と評価を聞きたい。総実労働時間が大きく減り、平均給与も上がり、従業員満足度は向上している。一方で生産性という観点から見ると、時短が先行しDXが後追いになっている印象。その点について考えを伺いたい。

    働き方改革のステージでいうと、当社が今まで取り組んできたのは一番低いステージだと思っている。仕事の見える化をし、それに合わせて必要なロボティクス、データ化、通信環境を整えるなどした結果、2,000時間程度あった総実労働時間が約1,800時間までになった。無駄をそぎ落としてきたということ。

    これからは、効率化と顧客に対するバリューの向上を同時に行って初めて生産性向上につながる。バリュー向上の課題はまだ残っており、効率化も完全ではない。ここから先はDXの力を活用しないといけないと思っている。

    (統合報告書を見ると、生産性を図る指標として従業員1人当たりの売上高を用いているが、これで測れるのか、の問いに)

    全てが金額で測れるということではないだろう。当社はエンゲージメントサーベイなどを通じ、働きがいと生産性の相関関係を検証している。従業員の働きがいとパフォーマンス、つまり売上高と利益は完全に相関するということは、過去に日本能率協会と協働で実証した例がある。

    (新興国の競争相手の労働時間はかなり長いと思うが、それに対し当社の1,800時間というのは十分なのか。短いということはないか、の問いに)

    時間だけで比較しても意味がなく、時間当たりの生産性で比較しようということ。2020年に1,750時間という当初の目標があったが、約1,800時間に到達した時にこれ以上追いかけるのを止めたのはそういうこと。時間の短縮だけが目標になりかけていたが、本来の目的ではない。その代わり、同じ1,800時間の中で生産性をどのように上げるかということにシフトさせてきている。

  • 今回、100人の人員削減を決断されたが、なぜ100人なのか。また人員削減が意味することは何か。固定費の削減という意味もあるだろうが、例えば残された社員のモチベーション、緊張感を高めるという目的もあるのではと思う。規模感、目的、今後も継続するかについて教えていただきたい。

    100人という規模については次のような考え方に拠る。次期中期経営計画では、非重点事業の縮小やスマートコーポレートの推進を図る。明らかにしているものではアクセンチュア社とのJVがある。また機能子会社についても、2019年4月には物流会社の統合を行った。このようなことを進めていくと、今後これまであった管理職ポストの縮小が見えている。従って、50代の管理職に対し、味の素グループ以外にもセカンドキャリアの道を見つけてもらえるような支援策を打ち出した。

    グループ会社はグループ会社で発展させないといけない。例えばF-LINE社はかつての味の素物流社よりも非常に物流効率がよく、エコフレンドリーなことができる。物流の諸条件の改善についても、社会に大きくインパクトを与える規模になっている。それに伴い働いているメンバーが、生きがいややりがいを大きく感じる組織になっている。

    味の素㈱単体で希望退職に踏み切ったのは歴史上今回が初めてであり、規模は小さく見えるかもしれないが、それなりのインパクトがある。今までのようにキャリアをグループ子会社の中に用意することは難しい、ということを前提に自身のキャリアを考えてほしいということをメッセージとして込めた。

    対象者は約800人いるが、内500人程度には説明会を行い、私から直接メッセージを伝えた。今後、面談という形で対話を行いながら、どのようにWin-Winの関係が作れるかということを進めていく。

  • 今回の特別転進支援施策について、退職を選択しない対象者に対してはどのような変化を期待しているか。2020年度以降、P/L上は軽くなるが、それをどのような部分に再投資していこうと考えているか。

    まず全員に制度の説明と、通常から行っているキャリア面接を丁寧に行う。その中で退職を希望しない対象者についても、従来どおりの適所適材の人事制度にあわせた指導を上司が行うというのは変わらない。

    例えば物流機能としてのF-LINE社の立ち上げ、アクセンチュア社とのJVなどの中で基幹職のポストが減少していくことになり、今後も機能子会社も含め当社は見直しをしていく計画であるので、機能子会社やコーポレートサービスを自分のキャリアとして考えている従業員については、残り10年弱のキャリアを改めて考え直す機会にしてもらうという丁寧な説明をしている。

    (今後残っていくポストもあるだろう。そちらに方向転換をしたいと考えた際、今持っていないスキルを身につける必要がある。その観点で、ミドルシニア層の再教育支援のような仕組みを作っていくのか、の問いに)

    今回の施策において、ミドルシニア層の再教育は考えていない。デジタルトランスフォーメーションを進める中で、デジタル人材、エンジニアリング人材として新たに活躍していただきたい人財への教育は強化していく。もちろん外部からの登用も進めている。

    (繰り返しになるが、今回の施策で圧縮した分を、例えば若い層のトップ人材に再投資するというサイクルは考えているか、の問いに)

    今回の目的の一つは組織の若返りである。会社と従業員の間でWin-Winの施策と思っているが、会社にとってのWinは組織の若返り。個人にとってのWinは、退職により加算される退職金とキャリア支援である。人件費の削減のためにやるわけではない。瞬間的に管理職分の給与が少なくなるが、その分は若い層の活躍の舞台が増え埋めていくことになる。基本的には働きがいを持てる環境を作るための投資で、しっかりと強化していくつもりである。会計項目で見た際には、減るものと増えるものがあり全体では大きく変わらないだろう。

  • 日経ビジネスの12月の社長インタビューでは、適所適材で成長できるということ、また2016年度から基幹職の完全ジョブグレード化を進めていて、必要に応じ若い人材も自在に採用できる仕組みが整っているという話が掲載されている。ハードとしては年功序列の要素がなくなり、かつ外部からの人材登用も進んでいると思うが、ソフト面はどのように機能しているのか。

    ソフト面を回すために、基幹職の完全ジョブグレード制度というのは仕組みの一つである。働き方改革も、環境を整えるという観点では大きな変化になる。

    その中で重要なのはリーダーシップ。女性取締役が委員長を務める人財委員会というものを組織して、タレントプールを3階層ぐらい持ち、該当社員についての育成について経営会議メンバーがかなり議論をしながら登用、配置を進めている状況である。また女性版人財委員会というものもある。これは女性ライン長比率30%実現に向けてのマイルストーンを作っていくという観点で、同様に機能している。

    そして最も重要なのは、マインドセットをどう変えるかという部分だ。ここについては、今様々な施策を通じて実行中である。主にリーダーシップ研修の高度化や、若手の勉強会開催、日々のモチベーションを高めるための人事施策などを行っているほか、コミュニケーションツールについても、2020年度からDXを使いながら変えていこうと思っている。またエンゲージメントサーベイは今後毎年の実施を決めた。マネジメント評価の対象としても活用し、より本人のキャリアに対する希望と、適所への配置がチェックできるようになってくる。

    (例えばジョブグレードで部長クラス以上のグレードがあるとすると、今後3年間で平均年齢や最低年齢、また外部から登用する人材の比率はどう変化するのか、の問いに)

    そこに対する数字はない。ただ2016年度に完全ジョブグレード制へ移行した際、事業部長、グループ長、ライン長などのポストとして存在する約400ポスト程度の内、80ポストくらいが若返った。これは制度変更の効果である。

  • 若年層に対する評価制度や報酬制度は変わってくるのか。

    高度プロフェッショナルという観点での登用制度は、職務グレード制度とは別に検討中であり、これも早晩導入することになると思う。ただ、顧客価値をどの程度上げたかという従業員の仕事ぶりに対する見える化の方が先だと思っている。